道連れ
鬼ごっこをするのは前にテレビの番組で呼ばれた時以来だな。
木の上も安全ではなさそうだと踏んで、私は鬼を警戒しながら歩き出す。マップを見て、現在地を把握しておくことにしようか。
「牢屋エリアはここ……。近いな」
丸形の島のような場所であり、中央にはなにか祭壇のようなものがあるようだ。ところどころに移籍のようなものがあり、砂漠や雪山といった場所も用意されている。
この広大とはいえないがそこそこ広い大地で鬼ごっこか。
私はとりあえず牢屋エリアに向かうことにした。
誰か捕まってたりするのだろうかと思い向かってみる。牢屋エリアには牢屋が置かれてあり、その中にプレイヤーが転送されるようだ。
鬼ももちろん見張っており、見張っているのは運営スタッフだろう。配信者には追いかけさせる側を担当させるはずだ。
牢屋の中には誰もまだ見受けられない。まだ誰も捕まっていないか。
私は周りの警戒をしながらも、牢屋の中を見ていると。
運営スタッフと目があった気がする。だが、あっちは気づいていないようだ。不自然かと少し思われただろうが、ここは木の陰なので姿が見えづらいだろう。
だが、早いとこ移動したほうがいいのは事実だな。偵察も済んだし行くとしようか。
「というわけで、私も積極的に捕まった人助けに向かうから。定期的に見に来ることにしよう」
私はカメラに向かってそうしゃべる。
『単独行動とか久しぶりだね』
『じゅんぺースペック高いから勝てそう』
『じゅんぺーのスペックだよりだぜ』
私を頼りにしてくれてありがとう。
私はわざと足音を立てて移動してみる。足音を立てれば鬼たちは寄ってくるんじゃないだろうか。蜜に群がる虫のように。
だが、近くに鬼はいないようで誰も寄ってこない。
イベントが始まって10分。まだ誰もプレイヤーと出会っていない件について。
「どこに鬼がいるのかわからない緊迫感、鬼のスペックのやばさ……。激しくそそられるぜ……」
この緊迫感が素晴らしい。
油断はできない、捕まったら死ぬ。私も本気で逃げてやろうじゃねーの。私、本気出したら超強いんだぜ?
私は周囲の警戒を皿に鋭くすると、なんか茂みのほうに気配を感じる。鬼なら隠れる必要がないだろう。スペックが違うのだから飛び出してでも追いかければいいはずだ。
「そこに誰かいるんでしょ。出てきていいよ。私は鬼じゃない」
そういうと、茂みからがさっと音がしたと思ったら、女性が出てきた。
「あ、お、鬼じゃないぃ……」
「鬼が怖くて隠れてたんだ」
「は、はいぃ……」
気弱そうな女性がぱんぱんと自分についた砂埃を払う。
「君可愛いね。名前なんて言うの?」
「あ、ヴぉ、ヴォナス、です」
「ヴォナスか。私はじゅんぺー。今配信してて映ってるけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
「よかった。単独行動も寂しいからさ、一緒に行動しようよ。少なくとも私と居たらちょっとは安心していいから」
「え、えと」
「私も本気で逃げるから。天才じゅんぺーちゃんを信用してほしい」
私が胸を貸すように胸をたたくと、はい、とうなずいてくれた。
旅は道連れ世は情け。私も道連れが欲しかったところだ。
「で、さっさと移動しようか。鬼が近い気がする」
鬼の気配が近づいている気がする。
私の勘は当たるぜ。




