じゅんぺー、キレた!
家に帰ってきて、私は罪と罰の配信の部屋に訪れる。
本当に嫌なことがあったから忘れたいが……。なんかいやな予感がする。私はPCのほうで一応二人に来たというコメントを残すと、二人はひどく慌てていたようだった。
〈じゅんぺーさん! ものっすごく荒れてますけど大丈夫です!?〉
〈Twitter!Twitter見てくださいませ!〉
というので私はTwitterを開いてみる。
トレンドには暴言やがっかりという文字が並んでおり、暴言というトレンドワードをタップして開いてみると、じゅんぺーに暴言を吐かれたという告発文が匿名アカウントで載せられている。しかもご丁寧に動画付きで。
ST。STっていやな奴のイニシャルなんだがまさかなと思い、動画を再生すると、あの瀬野の仕事場で吐いた暴言がそっくりそのまま載せられていたのだった。
あれ、撮られていたのか。いつの間に……。誰もカメラなんて回していなかったはず……。このカメラの角度は私を真正面に捉えているのを見るに……。塩野の野郎だな。
「めんっどくせえことしてくれる……」
じゅんぺーってこんな暴言吐くんだっていうがっかりと、じゅんぺーだって聖人君子なわけじゃないという擁護する人、私を思いっきりネタにしてバズろうとしている人が見受けられる。
まずは謝罪か……。一応、これを吐いたのは事実だ。だがしかし、きちんと状況説明をしなくてはならないだろう。
この暴言だけを切り抜いてあげるなんて悪意がありすぎる。
私をどうにかして陥れようとしているのが見え見えだ。私は仕方がないので配信の準備を整え、今の暴言事件についてのことを放送するとTwitterに投稿し、配信画面を開く。
外出したままの格好だが仕方あるまい。私はまず初めに頭を下げた。
「今、私も外から帰ってきて知ったのですが、暴言を吐いたことは事実です」
これは認めるしかない。
変に言い逃れようものならつつかれてなお自分の首を絞めるようなものだ。それはそれで気持ちよさそうだとも思ってしまうが、塩野の思い通りにさせてしまうだろう。
「ですが、これは悪質な切り抜きです。上げた人の目星はついていますが、漫画家の瀬野先生もその人物に対してものすごくあきれるような人でした」
『というと?』
「原稿をすぐになくして瀬野先生に迷惑をかける、初めて会ったときに告白してきて、なおかつ私が客人である立場だというのにお茶くみを強要する、私に対して暴言を吐く、等々。さすがに私も見過ごせなく、言い返すような形で暴言を吐いてしまいました。大人げなかったことは反省しておりますが、暴言を吐いたことを後悔したことはありません」
これに関しては私は悪くない。
意地でも悪くないことを貫き通す。私としてはずいぶん幼稚な対応ではあるが、やり方がやり方なだけにむかつく。
「それにまぁ……。ほかにも暴言を吐かれたという人を見かけますが、私が確実に暴言を吐いたといえるのはその人一人だけです。そのほかの人に関しては暴言を吐いた記憶などありません。暴言を吐かれたのだとしたら、その吐かれた映像をSTという人のようにSNSで発信してもらいたい。私が忘れてしまっているだけかもしれませんので」
『強い』
『したたかで草』
『謝る態度じゃないがこれはまぁ、だろうなとは』
『じゅんぺーは自ら殴りに行くタイプじゃないのはファンなら知ってて当然』
『自ら受けに行くタイプではあるけどね」
「自分で言うのもなんだけど叩いてくれよ」
割とたたかれるの覚悟してたんだから。
「さすがに今はマゾヒストとか言ってる場合じゃない。私もこういうようなことを言うのはさらに炎上を招くかもしれないと思っていたんだけど……。とりあえず、このSTという人には絶対謝りはしません。私もあなたと同様に暴言を吐かれたんだ。映像はないが証人はいます。それに……今日もそのSTさんがらみで嫌なことが一つ……いや、二つありました」
『逆に告発する流れキターーーー』
『やられたらやり返す、倍返しだ!』
『何したの?』
「なにしたっていうとね、さっき寿司屋いってきたんだよ。私がよく通ってる顔見知りの大将がいる店ね……。そこに数日前に大口の予約があったんだけど当日にドタキャンされたみたいで。その予約主がSTというイニシャルだったっていう」
『マジでシャレにならなくて草』
『暴言よりひどいだろこれ……』
『あ、ST垢消しして逃亡した』
『都合が悪くなったら逃げたwww』
どうやらSTが消えたらしい。
この配信を塩野が見ていたようだ。多分、自分の立場がまずくなると自覚したんだろうな。だがしかし、私に迷惑をかけてくれたんだ。垢消ししただけで逃がすわけにはいかないぜ☆
マゾヒストはいわばサディストでもあるからな。どんなふうに痛めつけられたら痛いかはよく知ってるんだ。
それに、これでも大手の配信者だ。そんじょそこらの動画投稿者よりは上なんだぞ?
「もうこんなことして許しやしねーぜ☆ じゅんぺーちゃん、まじでキレちゃったぜ」
『じゅんぺー落ち着け』
『これ特定するつもりだ……』
「特定っていうか、大体誰がしたのかは目星ついてるし、それに面識ある人だし……。あっちの父親も母親も把握済み。というか、父親のほうは私が金を貸して返してもらってない人だし?」
『草』
『終わったやんけwww』
『始まってすらなかったwww』
「それに母親は私の実の母親だし?」
『兄妹かよwww』
「兄妹ではない。母が再婚した相手の連れ子。血縁関係はないから容赦なくできるな」
割と身バレさせたもんだが仕方ないだろう。




