初々しい
私の講演をしっかりと聞いている人はすごく険しい顔になっている。が、興味なさげに聞いている人もいて、その人はもちろん聞き流していると思う。
ここら辺もやっぱ甘いな。うん。
「私からは特になし! 質問があったら受け付けるよ」
「ひとつ、いいですか?」
「はいはーい?」
「なんでそんなに美人なのにいつも性癖をさらしまくってるんですか?」
「え、侮蔑の目で見てもらえてもそれはそれで気持ちいいからに決まってるでしょ?」
あたりまえじゃないですか。
「こいつ、キモイな……」みたいな目で見られてると思うと興奮するし、男どもが性的に興奮してるかもしれないと思うとちょっと興奮する。
なので持ちつ持たれつの関係です。
「ノータイムで答えたぞ……」
「これ本物だ……」
教室がざわめき始めた。
「ほかに質問がある方!」
「このタイミングでそれを言えるなんて結構すごいやつだな……」
いろいろ質問が来て、私はそれに答えてあげる。
すると、チャイムがなり、質疑応答の時間も終わりを迎えたのだった。私は講演をこれで終わると告げて、教室から出ようとすると。
「じゅんぺーさん! ファン、です!」
と、教室にいた数人の女の子が花束を渡してきた。
私は花束を受け取ろうとすると、女の子が花束を床にたたきつけてくる。ふーん、そういうことしちゃうんだ。下に見られてるようで興奮する。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「大丈夫。ご褒美」
「ふぇ?」
「ほら、じゅんぺーさんはこのほうが好きだって言ったでしょ?」
「でも失礼じゃ……」
まるで私を軽蔑しているかのような行動。
ファンだからよくわかってるねぇ。私は花束を拾おうとすると、手を踏みつけられた。なんて……。なんてサディスティックな……。
「ありがとうございます!!」
「あれ、今のさすがにやりすぎかなって私思ったんだけど……ごめんなさい」
「謝るな! 謝っていいのは命にかかわるような怪我とか損害を与えた場合のみだ! それ以外で私に謝るな!」
踏まれることも、花束をたたきつけられることもすべて許容してやる!
私は心が広いからね。うん。決して気持ちいいとかそういうわけじゃない。でも、踏むのが初々しくて、力がとても弱かった。
まだ初々しくていいね。もうちょっと容赦なくやってくれてもいいんだよ。
「それじゃ、改めてありがとね!」
「あ、ありがとうございました!」
私は教室を後にして、学校前に用意されたタクシーに乗り込んだ。
そのまま家に帰ると、ロビーにサンキチがたっている。手にはなにやら魚をもって。そして、なんか美春も一緒にいる。
「あら、どったの?」
「いい魚が手に入ったから料理してもらおうと思って」
「ボクはその付き添いー」
「お前ら仲良くなったなー」
「もう過去のことだしねぇ。それに、秋の味覚大好きだし!」
「秋の味覚ぅ?」
「あ、これサンマなのよ」
なるほど。
サンマか……。
「サンマなら七輪で焼いたほうがおいしいでしょ。サンキチの家のほうがいいと思うけど」
「そう? じゃあ、向かう?」
「途中で大根とか買ってくか」
私は部屋に花束を置いてきて、サンキチの家に向かう。




