2
2
なんだか苛々して芝生にどっさりと腰を下ろした。
「ウィステリアを取り戻す、なんてリックは粋がっていたけど――父親と一緒に反乱でも起こそうとしているのかな」
俺が問いかけると、脚の火傷跡を擦りながらキリルは応える。
「以前、ダミアンさんと立ち寄った土地で、反乱や暴動に巻き込まれたが……怒声と炎が飛び散っていたよ。この火傷跡がついたのもその時だ。しかし――ここはそんな土地には見えないがな」
確かにこの村は、のどかな田舎の集落、といった雰囲気だよな。考えを巡らせていると、マリウスがやってきた。
「頭の傷は大丈夫か?」
「大した事ない。眠っていただけ」
「いつもの事か」
会話を交わすマリウスの後ろには、険悪な表情のモアが寄り添っていた。
「現在この村は混乱しているから、早く立ち去って」
早口で喋ると、モアは後ろを向く。俺はその背中に向かって言った。
「まだ、リックから謝罪の言葉を聞いていない」
「じゃあ私がかわりに謝る――ごめんなさい。これでいいでしょう?」
こちらにちらりと顔を向け、モアは言う。また反論を返そうとした俺を、キリルが止めた。
「明日にはこの村から出る。自分も、君の弟に暴力を振るった。すまなかった、と伝えておいてくれ」
キリルが謝罪を述べても、なにも返さずにモアは足早に立ち去った。
「なんでキリルは怒らないんだ? あんな風に言われて」
先に手を出したのはリックなんだから、謝る必要なんてない。厳しく――いつも俺にぶつけるように――言い返せばいいだろう。
「あの位の年頃の女の子とはあまり接してないからな……どう話せばいいのかよく判らないんだ」
「キリルもあの位の年頃の女の子だろうが」
呆れた俺の忠告にも、眉間に皺をよせ、困惑した様子で髪をかき上げる。
「でもなんかおかしいよな。あの子も、その弟も」
疑問をかぶせてきたマリウスに、さっきリックと交わした一連のやりとりを話し聞かせると、
「おかしいのはあの家族ではなく、この村かな」
マリウスは呟く。何故そんな風に思うのか? そう訊ねようと口を開くと――
「会議中にすまないね」
突然、ひとりの男が声を掛けてきた。この男は――この村の一家と出会ったときにひょっこりと現れて、状況説明をした奴だ。
「そこの男の子、先日は悪かったね。自分が止めていればリックに殴られる事もなかっただろうから。自分は、クライド・オブライエンって人間だ。いやぁ、しかしそこのお嬢さんの戦いっぷりには驚いた。思わず見惚れたよ。強いんだね、お嬢さん」
なんだか胡散臭い男だな……。
「自分はキリルと言います」
「殴られた俺はマリウス」
「また、どうしてこんな寂れた村をうろうろしているんだい?」
「強くなるために」
きっぱり言うと、キリルは俺達三人の旅の事情を端的に説明する。
「ヴァッケンローダー? ああ、聞いた事がある。あの武術の名家か――なるほどなるほど。でも凄いなぁ。一族の長を鍛えようと、少年少女だけで旅しているなんて」
「自分も質問をしていいか?」
「嬉しいな、俺のことを気にかけるなんて」
クライドは笑う。なんだか、俺達を軽くあしらっているようだ。
「この村では、いったい何が起きているんだ?」
真剣なキリルの問いかけに、クライドの笑みがうっすらと消えた。
「……起きていた、という方が正しい、かな」




