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アキレアの紋章  作者: 小熊 祥
謎の村
4/5



 なんだか苛々して芝生にどっさりと腰を下ろした。

「ウィステリアを取り戻す、なんてリックは粋がっていたけど――父親と一緒に反乱でも起こそうとしているのかな」  

 俺が問いかけると、脚の火傷跡を擦りながらキリルは応える。

「以前、ダミアンさんと立ち寄った土地で、反乱や暴動に巻き込まれたが……怒声と炎が飛び散っていたよ。この火傷跡がついたのもその時だ。しかし――ここはそんな土地には見えないがな」

 確かにこの村は、のどかな田舎の集落、といった雰囲気だよな。考えを巡らせていると、マリウスがやってきた。

「頭の傷は大丈夫か?」

「大した事ない。眠っていただけ」

「いつもの事か」

 会話を交わすマリウスの後ろには、険悪な表情のモアが寄り添っていた。

「現在この村は混乱しているから、早く立ち去って」

 早口で喋ると、モアは後ろを向く。俺はその背中に向かって言った。

「まだ、リックから謝罪の言葉を聞いていない」

「じゃあ私がかわりに謝る――ごめんなさい。これでいいでしょう?」

 こちらにちらりと顔を向け、モアは言う。また反論を返そうとした俺を、キリルが止めた。

「明日にはこの村から出る。自分も、君の弟に暴力を振るった。すまなかった、と伝えておいてくれ」

 キリルが謝罪を述べても、なにも返さずにモアは足早に立ち去った。  

「なんでキリルは怒らないんだ? あんな風に言われて」

 先に手を出したのはリックなんだから、謝る必要なんてない。厳しく――いつも俺にぶつけるように――言い返せばいいだろう。

「あの位の年頃の女の子とはあまり接してないからな……どう話せばいいのかよく判らないんだ」

「キリルもあの位の年頃の女の子だろうが」

 呆れた俺の忠告にも、眉間に皺をよせ、困惑した様子で髪をかき上げる。

「でもなんかおかしいよな。あの子も、その弟も」

 疑問をかぶせてきたマリウスに、さっきリックと交わした一連のやりとりを話し聞かせると、

「おかしいのはあの家族ではなく、この村かな」

 マリウスは呟く。何故そんな風に思うのか? そう訊ねようと口を開くと――


「会議中にすまないね」

 

 突然、ひとりの男が声を掛けてきた。この男は――この村の一家と出会ったときにひょっこりと現れて、状況説明をした奴だ。

「そこの男の子、先日は悪かったね。自分が止めていればリックに殴られる事もなかっただろうから。自分は、クライド・オブライエンって人間だ。いやぁ、しかしそこのお嬢さんの戦いっぷりには驚いた。思わず見惚れたよ。強いんだね、お嬢さん」

 なんだか胡散臭い男だな……。

「自分はキリルと言います」

「殴られた俺はマリウス」

「また、どうしてこんな寂れた村をうろうろしているんだい?」

「強くなるために」

 きっぱり言うと、キリルは俺達三人の旅の事情を端的に説明する。

「ヴァッケンローダー? ああ、聞いた事がある。あの武術の名家か――なるほどなるほど。でも凄いなぁ。一族の長を鍛えようと、少年少女だけで旅しているなんて」

「自分も質問をしていいか?」

「嬉しいな、俺のことを気にかけるなんて」

 クライドは笑う。なんだか、俺達を軽くあしらっているようだ。

「この村では、いったい何が起きているんだ?」

 真剣なキリルの問いかけに、クライドの笑みがうっすらと消えた。

「……起きていた、という方が正しい、かな」


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