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春の薫り
微妙なタッチで変わってしまう
演奏のように
微細な表現で異なってしまう
詩の趣き
寒風の風上に向かって
あの荘厳な樹氷の伸びるように
厳しき時代の風上に向かって
峻険な精神は蔓を伸ばすのか
いや 決して暗闇を求めているのではなくて
暗闇から見える より明るい光を求めている
この辛い時代にただの明るい言葉など
薄くなるだけかも知れないけれど
たとえ暗い色に思えても
染物の藍の甕から引き揚げた一瞬
緩めた先から染まっていくエメラルドグリーン
やがて縹色に変わっていく間に
希望はある
哀しみと喜びの間
まったく異なる事象の訪れるあわいに
予感する
ぼんやりとした温かさ
雲の遥かな山頂より
あたりは雲に覆われ何も見えない
静かな悲しみに打ち震え
それもまた楽しく思う
錦秋の山野を見下ろして
どこまでも煌びやかに紅葉が広がる
絢爛豪華な喜びに言葉を失い
あまりのことに哀しみすら覚える
神々の領域においては
哀しみも楽しく
喜びもまた憂いを含む
つまりは生きていること
胸を突く 生きているということ
その哀しみと喜びの同居した
胸を打つ名の無い感情
それこそが
闇と光のあわい
黄昏の
東雲時の
光の匂いに含まれる
春の薫り
希望と絶望の混在した
蒸せるような
命の芽吹きの薫り




