53/100
種を飛ばしているのだ
果たしてわたしなんてものは
なくて
総じてあなたなんてものも
なくて
たったひとつの
枯れた花だけが
語っている
風が吹いていること
雨が降っていること
雨が止んで日が照っていること
自動車のタイヤが花を
踏んで
潰れてしまっても
そこに花はあったということは
語られていて
そのことを語るのは
わたしであって
あなたであって
首をもがれた花の無念も
明日に望めぬわたしの思いも
なにがしかのあなたの願いも
語られないことには
伝えられないのであって
わたしもなく
あなたもなく
花もなく
誰にどう繋がるのか
分からないこの時代にさえ
ただ言の葉だけを残そうとして
強靭な根を張り巡らし
太い茎を持ちながら
透明なままでいる
分からない明日というやつに
種を飛ばしているのだ




