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《サイバーサムライで御座候》辺境惑星でスローライフ…出来るかな?  作者: 稲村某(@inamurabow)


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③頭撫でてやっか?



 「ほ〜ほょ〜、にょほっほぉ〜っ♪」


 一体何が元なのか全く判らない程に崩壊した鼻歌を唄いながら、タマキが夜風に吹かれながら帰路を進む。漁民の住むこの場所は周りを海に囲まれた孤島ではあるが、住居に使用される建材は航宙技術由来の多孔性複合材を多用し軽くて丈夫で、島に付き物の台風如きではびくともしない。そこら辺は真に宇宙世紀様々である。



 「酒があって、人はあったかい……住めばミヤコってもんだねぇ〜」


 数え切れない星を見上げながらタマキが呟くが、漁民達の島は完全に孤立している訳では無い。病人等の緊急事態が生じれば連絡無線で他の大きな島から水上艇が呼べるし、島に無い物は水産加工品を流通させる定期便が来た際に入手出来るらしい。その時は賑やかになるからと言われ、タマキもそれを楽しみにしているのだ。


 「……でも、島暮らしじゃ満ち足りんって奴も居るって、おじやんも言ってたねぇ……」


 タマキはそう言いながらピクリと耳を震わせると、後ろの夜道に向かって声を掛ける。


 「お〜いっ、酔っ払いの心配して付いてくんのは有り難いがねぇ? もうちっと気配を隠してくれねぇと気になってうなじがザワつくんよ!」


 彼女の声に追尾の気配も一瞬戸惑うが、半ば勢いに任せてか足早に駆ける数人の足音がタマキに迫る。


 「……見ない顔だねぇ……あー、そうか! まだ船に乗れん若造かい?」


 目を細めながら四人程の男達にタマキが問うが、彼女の言う通り彼等はまだ漁に出る許可が貰えない若者だった。島育ちの日に焼けた肌はタマキとは正反対だが、魚食中心と漁業の手伝いで少年らしい顔立ちと細い体形の割りにがっしりと肉付きは良さげである。


 「……よ、他所もんのあんたには関係無いだろ! 好きで漁に行かない訳じゃねぇんだ!」


 そう言いながら四人の中から一番体格の良い若者が前に出ると、その背丈はタマキよりやや高く、着流しに雪駄の彼女と比べても明らかに体格の差は大きい。


 「ん〜、だからって酔っ払った他所もんの私に四人がかりで何するつもりだい?」

 「……何って……そりゃあ……そりゃ決まってんだろ……なぁ!?」

 「う……そうだよ……えっと……」


 タマキは図体の割りに純朴な彼等を見て、ほっこりとした気分になる。察するに海に出て漁で働く許可はまだ得られず、かといって酒で憂さを晴らす事も認めて貰えない。しかし少年の無邪気さは既に無いクセに、図体の大きさに見合う精神の成熟には到っていないのだ。では余所者を嬲って色情にふける程の度胸が有るかといえば、問い詰めた途端この純真無垢さなのだ。もしタマキに母性が特濃付与されていたら、そりゃもうキュンキュンッてしていたに違いない。


 ……だがしかし、タマキはサムライである。何の苦労も無く夜伽の下手っぴそうな青二才と()()()()()()()するつもりは無いし、そんな展開はちっとも面白くなかった。


 「……そーかいそーかい、つまりあんたらはスモウがしたいって訳か!! よーし判った!!」

 「……はいぃ?」


 突如そう言いながら道から逸れて砂浜に出ると大きな丸い円を流木で描き、その真ん中に二本の筋を描く。そうして即席の土俵が出来ると二本線の一方に陣取り、


 「よしっ! このタマキが胸を貸してやるから掛かって来い!! 今夜は無礼講(ブレイコウ)だ遠慮するな!!」


 着流しを巧みに腰巻き代わりにすると、薄いタンクトップのみの上半身を露わにしながら叫ぶ。因みに漁民の若者達はスモウが何か全く判らなかったが、


 「……ルールは簡単だぜ? 相手が手を地に着けたり倒れたら負け、輪の外に出ても負け! 自分が輪の中に居れば勝ち、先に倒れなきゃ勝ち!! ……で、やるんかい、青二才くん?」


 そう言って先程の青年に向けて、挑発的な笑みを浮かべながら指先をくいっと曲げて手招きするのだ。そんな事を言われて黙っていられる筈は無く、


 「お、おうっ!! 投げ飛ばしてやるぜ!!」


 と、鼻息荒く輪の中に駆け込み、ラグビーのタックルをかますような姿勢で相対する。


 「ん〜、趣きというか〜何か違う気がするが〜……ま、いっか。じゃ、お前が勝ったら一発やらしてやんよ! その代わり負けたら私の舎弟だぜ?」

 「い、一発ぅ……っ!?」

 「ぶふっ! 純朴だなぁ〜(ほっこり)」

 「くそっ! 俺を見てほっこりすんじゃねぇ!!」


 タマキの一方的な発言に青年はすっかりペースを持っていかれるが、(ほっこり)な笑顔に彼は頭に血が上る。だが次の瞬間、漁民の子らしく足場が安定しない砂浜をものともせず踏み出し、タマキの細い腰に体当たりする。そしてちょっと躊躇してから、直接胸に当たらない配慮でお腹を抱えるように手を伸ばし、がぎっと背中で手を交差させてタマキを掴まえたのだが、


 「……あ、もふもふだぁ……」


 その瞬間、タマキの柔らかな肉の感触と背中毛のふわふわ感、そしてお日様みたいな匂いに彼はうっとりしてしまう。因みにタマキは航宙艦生活の時と違って毎日水浴びしているので、臭くなくて幸いだったが。


 「おー! そう来たか! だがな青年、まだまだだな!!」


 自分の乳の下に顔を当てながらモフる青年にそう言うと、タマキは彼の脇の下に片手を差し込み頭を抑え、腰を基点にしながらふわりと背中で浮かせて投げ飛ばしてしまう。


 「……はぁっ!?」

 「はい、青年そのいち負け! 今日からお前は私の舎弟一号!! にょほほほっ!!」


 輪の外で見ていた三人の視点では、こうだった。


 ①タマキにタックルした一号が彼女に抱きつく。

 ②お腹に顔を埋めてる、羨ましい。

 ③タマキが片手で一号のアームロックを外し、お尻を押し付けてちょっと動かして一号が飛ぶ、羨ましい。


 「つ、次は俺をっ!!」

 「はっはぁ〜! ひ弱っ!!」


 「お、お願いしますっ!!」

 「いひゃひゃ!! 他愛ないな!!」


 「ありがとうございますっ!!」

 「言う順序が逆だな少年!!」


 

 こうして、残りの三人もモフって投げられて舎弟になった。




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