⑯ヘビーラブ・スィーン
「……俺はお前と会えるだけでもシアワセなんだから、一緒になろうぜ!?」
「嫌だね!」
「相変わらずだなぁ……俺がこれだけ好いてんのにぃ! 理解しろよタマキぃ!!」
スィーンと呼ばれた男はそう叫びながら手を振り回すが、その腕は滑らかな表面と継ぎ目の無い関節で吸盤の無い頭足動物じみている。その気味悪い腕を伸ばしてスィーンは、タマキに向かって話し掛ける。
「……なぁ、なぁタマキよ……どうせ強化人間なんだから子孫も残せんだろ? だったら俺と一緒になって未来永劫シアワセに生きた方がシアワセじゃねぇか?」
「あのよ、お前の求愛は毎回断ってるだろ? そもそもお前の面は私の趣味じゃねぇし、強化人間ならベルティも居るだろ」
「……ベルティの姐御? 性格悪いから嫌だ」
「おいスィーン聞こえてるわよ」
スィーンが即座に言い返すとベルティがキッと睨みながら告げるが、彼は全く動じない。
このスィーンという男は、元は只の戦闘用サイボーグの一人だった。だが、度重なる負傷と修復を経た末、脳機能に問題を抱えるようになって廃棄寸前になるが……
「なぁ、お前のお陰で俺は今モーレツにシアワセなんだ! お前の写真はいつでも持ってるし、お前の為にスゥイートホールも確保してあるし!」
「あのなぁ、そーゆーのはホームでホールじゃねぇよスィーン。何で私があんたの巣穴に入らなきゃならんのよ……」
この遣り取りで判るだろうが、タマキによって大怪我を負ったスィーンが復活した時、彼は運命の相手がタマキだと勝手に解釈し今に至る。そのお陰でタマキは重過ぎる熱愛をスィーンから向けられるし、スィーンは熱愛するタマキを少しでも理解したいから彼女の特徴を把握している。それだからこそ対タマキに特化する事自体が、彼にとって最大のシアワセなのだ。
「仲の良さを私にアピールせず仕事しなさい、じゃないと廃棄するわよ」
「……ああ、この甘美な時間は永遠に続かないのか! 悲しくて義体がブレちまう……」
「そいつぁ只の調整不足だぞ、スィーン?」
「馬鹿言ってないでタマキを外に出さないと、除籍するしかないわねスィーン」
緊張感に欠けた遣り取りに呆れながらベルティがスィーンに発破をかけると、ようやく仕事する気になったようだ。
「……タマキ、済まないが俺は仕事でやってるだけでよ、あんたが好きな事は変わらないからな?」
そう告げながらスィーンが腕を一振りすると、背中に回されていた複腕が三対同時に伸びる。その複腕には斑模様に似た不規則な穴が複数開いていて、そこから微粒子レベルのナノマシンが砂のように流れ出る。
【タマキ、狭い室内に留まらない方が良いですよ】
「ああ、知ってる……くそっ、知らない所で屑共が死ぬのは構わんけどよ、私らに巻き込まれてってんじゃ寝覚め悪いからなぁ」
ミフネに促され、タマキは嫌々ながらじりじりと店の外に脚を向け、一気に駆け出す。
「うーん、後ろ姿も様になるな……」
「殺すつもりでやりなさい、虚仮威しが通用する相手じゃないでしょ」
「はあぁ、悲しいぜ……」
ベルティに言われてスィーンは呟くが、タマキと共に外に走り出る彼の背中は嬉々としている。
「……見て、あいつらったら……だからサムライも、その取り巻きも嫌いなのよ」
二人の姿を見送りながらシガーケースを開け、唇でタバコを咥えながらベルティがボソッと呟く。マフィアの一人が近付き彼女のタバコにライターで火を点けると、眉間に皺を寄せながら煙を細く吐き出す。
「……サムライの、取り巻きですか」
「そうよ、サムライなんて大抵は遠距離狙撃に気付けなきゃ一発で死ぬのに……タマキはそれすら避けるわ。だから、ああやって直接やり合える相手を用意する度、馬鹿共は眼ぇキラキラさせながら本物のサムライだって喜んでるのよ……ホント、イラつくわ」
そう吐き捨てながらベルティが再びタバコを吸い、苛立ちを表すように投げ捨てて踏み消すが、
(……そりゃそうですが、タマキの姐御に有ってあんたに無いのは愛想ですよ)
マフィアの男は内心そう思いながらタバコを拾い、裏側の出口に向かうベルティの後を追った。




