⑨デカい船だな!!
タマキが滞在している孤島には漁船が多数有るが、どれも木製で船外機を付けた小舟である。それに乗り海原に出向き漁を行うが、やや旧式の理由は惑星の環境に配慮し非効率性を維持させる為らしい。乱獲を避け生態系に与えるダメージを最小限に……といった配慮はともかく、島に外洋を渡れるような大きな船は無いのである。
「おおぉーっ!! 確かにデカいな!!」
船舶知識なぞ持ち合わせていないタマキにしてみれば、大型フェリーと同格の島巡り定期船は巨大そのものであった。速度はそれほど出ていないだろうが、ゆっくりとした速度ながら島に向かってみるみる近付いてくる。巨体ながら外洋を渡る速度はかなり出せる設計なのだろう。
「なぁ、お前らは他の島には行った事は無いのか?」
島に近寄る定期船を眺めながらタマキが尋ねると、四人の舎弟達は二人に分かれ別々に、
「あります! 姉ちゃんが本島に嫁いだ時!」
「俺も、葬式で親が親戚の家に行った時についてった」
「俺は無いなぁ、用事なけりゃあ……」
「そーそー、島巡りの定期船来るから不便じゃないし」
と、さも当然のような口振りである。これだけ辺鄙な場所ならば、多少は娯楽に飢えてるかと思われたが本人達はあまり気にしていないのか。
「そっか! 足りるを知るって奴だな!」
と、彼等の言葉にタマキは感心したようだ。
「……ほおぉ、結構な大荷物だなぁ〜」
漁船に乗った住人達が総出で荷卸しをし始め、往復する度に小さな漁港に次々と荷物が降ろされていく。舎弟達について行ったタマキも彼等と共に荷卸しを手伝うと、漁港の小さな荷受け場所は山積みの荷物で埋め尽くされていった。
「これの中身は何なんだい?」
「ああ、こいつは酒や衣料品、それに薬や島じゃ作れない野菜や何やらだ」
「ほうほう!」
顔馴染みの漁民に話を聞いてみると、そもそもこうした荷物の大半は支援物資らしく代金その他は掛かっていないそうだ。
「じゃあ、あの特産品は金にならんのかい?」
「そうさ、因みにあれは本島にやって来る観光客向けの物だよ」
「……こんな僻地に観光客が?」
漁民達が通貨と無縁な生活をしている割りに、生活水準が低くない事が気掛かりだったタマキはその答えに観光資源で惑星経済が成り立っているかと思ったのだが、彼の説明は更に予想外だった。
「観光客っていうより、惑星ファンドに加入している金持ち向けの滞在型リゾートで消費されるのさ。僻地に投資すれば税制的な待遇も期待出来るし、何より外部からの干渉も最小限らしくてね。このご時世じゃなかなかお目にかかれないって評判だよ」
それを聞いてタマキは一瞬、とんでもない場所に来たんじゃないかと思ったが……気にしない事にした。
「……えっ、あれタダで乗れるのかい?」
「ああ、料金は掛からんよ」
大きな定期船を眺めながらタマキが質問すると、荷卸しをしていた定期船の船員が当然のように答える。
「この星は色んな思惑で成り立っててね、惑星保護の観点から外部通貨の流入自体を制限しているんだ。だから、金を貰って乗船させる事は無いのさ」
「じゃあ、あんたらの賃金は何処から出てんだ?」
「そりゃ、星系管理事業団からだよ」
船員の説明にタマキはまたか、とつい思ってしまう。星系管理事業団は固有文明や土着生命の保護を名目に様々な活動をしている団体だが、こうもあからさまに関与されると事業団に飼われているような気がしてくる。だが、タダと言われれば乗ってみたくなる。
「あれに乗れば、本島に行けるのかい」
「そりゃ当然行きますが、乗るんですか?」
「……乗ってみるか! ちょっと行ってくらぁ!」
唖然としながら見守る舎弟達に向かってタマキはそう言い残し、彼の横を抜けて連絡艇に飛び乗った。
「……おーっ、視界一面が海と空しか無いねぇ」
星々を巡る航宙艦とはまた違う、波に揺れる定期船の上でタマキは周囲を眺めながら感嘆する。乗客はかなり少なく見かける人数も疎らだが、客船と比較する事自体がナンセンスかもしれない。本来の目的は貨物船なのだ。
「まー、すぐ飽きるな……さーて、食堂にでも行ってみるか?」
タマキが船べりの手摺りから中に戻ろうと出入り扉に向かう。そのままドアノブを摑んで中に入ると、丁度出入りするタイミングで誰かが彼女の脇をすり抜けて出て行こうとする。咄嗟に身体を避けようとその場で踏みとどまるが、相手はタマキが居ないかのように通り抜けた。
「うわっとっ!?」
思わず叫ぶタマキだったが、肝心な体当たりの感触は無く拍子抜けしてしまう。
「何だ、お前……っ?」
「……抜けさせんよ、タマキ」
彼女の声に一拍置いてから、向こうが語りかける。その声は明るい洋上なのに寒々しく、まるで雪深い山の中のように冷え切っている。
「あんたはね、所詮は人殺しだ」




