表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/82

75話 希望の泉

お盆ですねえ。恐縮ながら来週土曜日は、お休みを戴きます。次回投稿は26日の予定です。

「ミカ、どうしたの!」

 エマが問うたが、ミカは止まらない。


「大丈夫、アネゴ。罠はないよ」

 妙に興奮している。


「追うぞ!」

 皆で先行したミカを追う。

 この先に何があるんだ?


 50メートルばかり走ると、リザの息が上がり始めたので、彼女の手を取って引っ張る。


 ミカが通路を右に曲がった。

「あぁぁ」

 その向こうから、悲鳴混じりの声。

 なんだ? どうした。

 遅れ始めたリザを待って再度駆けると、ようやく角の向こうが見えた。


「行き止まり!」

 曲がり角のすぐ先。通路が突然途切れて、石壁に囲まれてしまった。


「なんで?」

「ここまで。分かれ道……なんて、なかったじゃない」

 ゼーゼーと呼吸の荒いリザの言う通り、ゴーレムを斃した広間から、何度か折れ曲がったが分岐はなかった。見落としはないはずだ。


 辺りを伺うが、特に壁以外何もない。

 絶望に近い徒労感に襲われる。 

 いや、あきらめるのは早い。


「みんな、この辺りに何か仕掛けがないか確認だ」

「うん」

 それでも見つからなければ、手掛かりを探しつつ戻るしかない。


「そうですね。ねえ、ミカ!」

 行き止まりの壁に取り付いたミカは、声を掛けたエマを手で制した。


「水とは違う音がしてる」

 音だけじゃなかった。地響きまで発し始めた。


 罠か!?

「みんな、固まれ」

「「はい」」


 行き止まりの壁から10メートルほど戻った場所で、俺を中心に集まり、さらに獣相のレダ2頭が周りを囲む。


 ギギギ……

 気色の悪い音と共に、目の前の壁が動き始め、やがて縦に割れ手前に回り始めた。


「どうなっているの?」


 もしかして、向こうから何か来るのか?

 気配はないが、剣を構える。


 間もなく壁の割れ目から、明るい光が差し込んできた。そのまま見守ると、やがて人が1人通れるほど開いた。そして音が止み、壁も動きを止めた。


 とりあえず、向こうから侵入してくる者はない。

 ミカが扉に背中を付けて、隙間の向こうを覗いた。


「どうなってるの?」

「ここは!」


「ちょっと、ミカ」

 エマが止めるまもなく、するりと隙間を抜けていった。レダが1頭、後を追っていく。


「やっぱり、ここだった。みんな出てきてよ!」

 うれしそうな声だ。


 エマとリザが俺を見た。肯くとエマから隙間を抜けていく。リザが続き、最後に俺ともう1頭のレダが通り抜けた。


「なんだ、ここは」

 皆が口を開けて見上げていた。

 吹き抜け?


 なんだ、ここは!

 どこかの商業施設かと見まごうような直方体の大空間。


 視線を水平に戻すと床は石畳で、差し渡し30メートルはあろうか、とにかくひろびろとしている。そこから大きな四角い壁に囲まれている。

 その底に、俺たちは立っていた


「ここって、もしかして? ミカ」

「うん。大空洞っすね」

 大空洞?


「おい、見ろ。底に誰かいるぞ」

 男の声?

 上だ。


 俺たちが居るところから20メートルほど上方。よく見ると、壁に取り囲むように隙間がある。テラスのような縁があるように見える。

 そこから、顔が見えているような?

 俺の強化された視力を持ってしても、この距離なのに、なぜかぼんやりとしか見えない。


 んん?

 ああ、網のような物で隙間が覆われているみたいだ。声に続いて、次々と網越しに顔が覗いて、こちらを見下ろし始めた。


「おーい」

 その高みから呼び掛けがあった。

「おおーーい」

 ミカが、大きく腕を振りながら返した。


「君らはどうやって、そこへ降りたんだ?」

「降りることは、ギルドから禁止されているだろう。なぜ破ったんだ?」


 はっ?


「アニキ、ここは大空洞っす。あそこ、人が居るところは第5階層……あそこから、底まで降りてはいけないことになっています」

「そうなのか?」

「第5階層まで来たら、みんなに説明しようと思っていたんすよ。どのみち、網で囲われているから、それを破らないと降りられないけどね」

 ふむ。


「アニキ。答えますよ」

「ああ」

「ボク達は、第4階層にある罠から落ちて、この扉の向こうから出てきたんだ。来ようと思って来たわけじゃない」


「罠? そんな話は聞いた事ないぞ!」

「ああ、聞いたことねえ」

「おい、あそこ。壁に扉があるぞ」

「そんなバカな。あんな扉なんて、前はなかったぞ!」

「今はあるじゃないか」

 なんか揉めてるな。


「本当だって! ボク達が罠に落ちたところは、ギルドのミナスさんが見て居たはずだよ。クラン・ミュラーズのパーティーが大空洞の底にいるって、誰かギルドの職員さんに知らせて! 後でちゃんとお礼はするからぁぁぁ!」


 それは良い考えだ、ミカ。

 上の方の騒ぎが大きくなり、眺めている人が増えてきた。


「ああ、ミュラーズな。わかった! 俺はドゴスだ! これから帰る所だから、職員に知らせてやる!」


「ありがとう、おっちゃん」

 おっちゃんって。

「ありがとう。恩に着る」

 俺も言い添えた。

「ああ、待ってろ」


 うん。ミカの声が切実だったからか、信じてくれたようだ。

 網を一部外して、縄を降ろしてくれれば、なんとか上に昇ることができるだろう。


「もしかして、アタシ達は助かる?」

「そうですね。上から綱を下ろして貰えば、よじ登れますね」

「ええー。アタシは無理よ」

 リザが俺の方を向いた。


 どのようにして、あそこまで上がるかはともかく。俺達以外の人間に連絡が付いたのは歓迎すべきことだ。だが、安心するのはまだ早い。


「ミカ、あれはなんだ?」

 俺達が抜けてきた隙間の左側。

 壁の2メートルほどの高さから、滔々(とうとう)と水が滝のように落ちている。床に開いた窪みに滝壺のようになって溜まっているようだが、水はあふれてはいない。


「あれは大空洞の泉。第五階層の給水所だよ。あのつるべで、水を汲み上げるの」

 ミカの言った通り、見上げると綱の先に桶が結わえられたつるべが、ふた揃え降りてきている。


「じゃあ、あの水って、飲めるの?」

「迷宮では、おいしい水で有名っすよ」

「そうなんだ。アタシも汲んでおこう。ケントも水袋出して」

「ああ」

 収納から出して、リザに渡す。まだ、別の水袋も収納してはいるが、給水できる内にしておくのが良い。

 

「ミカは、さっき……」

「ん?」

 泉で水を汲んでいる、彼女に話しかける。

「壁の向こうの水音で、ここに通じているって、気が付いたのか?」

「うん。ここに泉があるって知ってたし、何か流れる音も似てたし」


 なかなか勘が良い。耳も良い上に、洞察力があるのか。本当に斥候職向きだな。


「そうなの?」

「もちろん」

「だからって、焦って1人で先行したら駄目よ」

「うん。わかったよ、アネゴ」


「はい。ケント」

「ありがとう」

 リザが、重そうに水袋を渡してきた。彼女の水袋も持ってやりたいが、水は生命線だからな。各人が手元に持っておくべきだ。


     †


 大空洞の底で待つこと、15分ぐらい。


「ミカさーん」

 上の方から、聞き覚えのある声がした。

「あっ、師匠だ! 師匠ぉぉぉお!」

「無事かぁぁあ?」


「うん。大丈夫だよ!」


 しかし、ミカが答えた時、異変は起こった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/09/17 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)

2025/09/29 誤字訂正(ferouさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ