表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/82

7話 ケント 押し付けられる

しばらく毎日投稿致します。

作者の気合いが入りますので、ブックマークといいねを是非是非お願い致します。


「お話は分かりました」

 身形(みなり)の良い中年の男が、重々しく肯いた。この町の代官で、アバースという名前と聞いた。

 要するに、俺は事情聴取を受けているところだ。


 時間を少し巻き戻すと。

 ヒュージ・ブルの出現現場へ通り掛かった男が去ってから、1時間程して騎馬や馬車がやって来た。

 アイに訊いてみたところ、この星に自動車はなく、一般人が乗ることができる最速の乗り物は、馬か馬車らしい。

 それから生きている俺を含めた4人を乗せて、グラナードという町に連れて来られた。着いた頃には日が暮れていて、辻辻に篝火が焚かれていた以外は明かりがなく、よくは分からないが余り大きくはない町のようだ。


 そして、人助けしたのが良かったのか。豆を煮た食事を振る舞って貰ってから、この部屋、代官所の一室へ案内された。

 何と言うか質素な部屋だ。西洋の造りに近い。まあ地球だったら数百年は昔という感じだ。

 

 この男にも日本語が通じるというか、俺が喋ろうとすると、思考がヴァーテン語に飜訳されて音声となるようだ。それで話が通じ、彼の言葉も俺としては日本語として理解できる。支援天使様々だ。


 アイが打ち明けても大丈夫だというので、自分は別の世界から転移してきたこと、目の前で馬車が魔鉱獣にやられたこと、魔鉱獣は俺が斃したことを、包み隠さずに話した。


「ふむ。手の者の報告に拠れば、馬車が恐ろしい衝撃で壊れ、牽いていた2頭の馬も即死のようなので、お話の辻褄は合っているのですが……」


 俺に対する態度は恭しく、結構信じている感触だが、何かに引っ掛かっているようだ。それと、しきりに代官も俺の頭を見ている。


「たとえ、ケント・ミュラー様の証言とはいえ、それだけで聴取を終わらせる訳には参りません」

 三浦賢人と名乗ったはずだが、彼にはミュラーと聞こえるようだ。


「ああ、ケントでいい。1つ訊いて良いか?」

 ミュラーとか呼ばれても、自分のことに思えない。


「なんでしょう?」

「そもそも俺が転移者というのは、信じるのか? 自分で説明しておいてどうかと思うが、荒唐無稽な話だろう?」

 ちなみに口調は、できるだけ尊大そうにという、アイの注文に合わせている。自分で飜訳するのだから勝手にやってくれよと思わなくもないが、ニュアンスも反映されるらしい。


「確かにそうですね。ですが、その髪ですから」

「髪?」

 前髪を引っ張ってみたが、異常はない。


「その黒い髪は、転移者でなければ」

「そうなのか?」

 いや、普通の日本人の髪だろう。心なしか前より黒い気はするが。

 代官の髪は、そこそこ赤味が掛かった茶髪だ。ここに来る道すがら見た者達の髪も、言われてみれば金髪か茶髪だ。黒髪は見ていない。


「他にも、俺みたいなやつ(転移者)が居るということか?」

「この町には、いらっしゃいませんが、数年前にお目に掛かったことがあります。その方も黒髪でした」

「ふむ」

「ただ、ケント様が転移者様であっても……疑っているわけではないのですが。これは公式な記録になりますので、何かやはり確証がないと」


 確証と言われてもなあ……


「控えなさい!」

「おわっ!」

 アイが、俺と代官の間に出現した。声も打って変わって、厳しさがある。


 ブーンと鈍い音を立てて羽ばたく。何やら光を牽いて神々しい。

 アバースは、あんぐりと口を開けている。そして、数秒後。

「ははぁぁぁああ!!!」


 代官が床に畏まって平伏した。

 えっ? えーーと。


「った、たた、大変申し訳ありませんでした」

「はっ?」

「こっ、これも代官としての役目でございまして。命ばかりはお助け下さいませ」

 はっ? いや、命って。大袈裟だろ! って、もしかして?


「殺さないよな? アイ」

「ご主人様の仰せとあれば、そのように。代官、以後粗相のないように!」

「ははぁぁぁああ!」

 今度こそぺったりと平伏した。ジャパニーズ土下座も斯くやの(あがめ)めっぷりだ。

「よろしい!」


 そして、すうっとアイは消えた。

 代官は顔を上げると、キョロキョロして何か探している。


『こうなるので、私が顕現するのは、最小限に留めたいと思います』

 そうだな、その方がいいだろうな。


「いやあ、寿命が縮まりました。確証を頂けましたので、聴取はこれまでと致します」

 あれが確証になるのか?


「また明日、今後のことをお話しさせて頂くとして、今日は宿を取ってありますので、今夜はそちらへ」


「そうか悪いな。だが、金は、その……」

 ない。持っていたとしても日本円だ。通用するはずがない。なにがしか希少価値があるかも知れないが。


「いえ。お金は、娼館のペイオロスという者から礼金を預かって居りますので」

「娼館? 礼金?」


 そうか、あの女達。奴隷だった。人身売買か。

 なんとも言えない気持ちが沸き上がってくるが。俺はまだこの世界のことを何も知らないのだ。日本の感覚で憤るのはおこがましい。


「はい。ボナとナタリアの命を助けて頂いた礼です。既に売買契約は終わっていたので、引き渡しました。それと明日、今後のこともありますので、冒険者ギルドにご案内しますが、青銀はそこで換金できます」

「青銀?」

 そう言うと代官が、怪訝な表情を浮かべた。


『ご主人様。青銀は魔鉱獣を斃すと、得られる金属です。結構な量が保管庫(ストレージ)に入っています』

 そうか。保管庫ってなんだと思ったが、それより。


「ああいや。持っているそうだ。冒険者ギルドだな。わかった」

「では、もう1人を、ここに呼びますので。お連れ下さい」

「ん? お連れ下さいとは?」

「娼婦2人の他に、もう1人助けた者が居ましたでしょう」


「ああ……少女が居たが。そうではなく、お連れ下さいとは、どういう意味だ?」

「えっ? 彼女の所有権は、ケント様がお持ちです……が」

 どうして、そんなことを訊くのだと言う顔。


「所有権って、おかしいだろう。なんで俺が持って居るんだ。いくら俺が助けたといっても」

「はい。助けたことは関係ありません。では、商人(バステル)から買われた訳ではないのですね」

「いいや、買っていない」

 買うわけないだろう! 大体金なんか持って居なかったし。


「しかし、彼女の奴隷鑑札、魔導具なのですが、それによると、ケント様の名義になっていますからねえ……金銭でないにしろ、何かそういうやりとりがあったはずですが」


「いや、そんな憶えはないぞ!」

『ご主人様!』

『なんだ? アイ』

『バステルがあれを頼みますと言った時、こ主人はわかったと承諾されました。きっとそれです』


「ああっ……!」

「思い出されましたか?」

 しまった。


「いっ、いや。紛らわしいことを言ったので、俺は誤認したのだ」

 アバースが渋い顔をした。

「しかしながら、契約は成立していますので……」

「ううむ」

『おい! アイ! なんとかならないのか?』

『無理ですね。契約は神聖な物です!』

 随分素っ気ないじゃないか。


「いや、そう言ってもな。これから……俺はどうやって自分が生きていくかも分かっていないのだ。そうだ! 契約破棄とかできないのか?」

 アバースはさらに渋い顔をした。


「法的に契約破棄は不可ですね」

「うっ……クーリングオフは?」


「くーりん……なんですか?」

 訳されなかったということは、この世界にその制度が存在しないということだ。


「まあ、奴隷ですので解放できなくもありませんが……」

 おお。解放!

「ただ、未成年ですから、解放されるにはケント様とは別の身元引受人がいないと……孤児院が引き取るのは、基本的に6歳未満ですし、あの子では娼館も引き取らないでしょうし、あっと言う間に路頭に迷うことになりますな」


 脅すなよ!

 確かに。幼いとはいえ、6歳未満には見えなかった。


「とにかく、ケント様名義になっていますから、連れてきます。お願いします」

 マジかぁ……。


「ああ、あの子を引き取るような親切な人が居ないか、気にして置いてくれ」

「はい。では」

 むう。全然気がなさそうだな。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2022/09/20 申し訳ありません。特濃版から見直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ