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67話 検定始まる

本作品のラストエピソードです。

「はっ? パーティの検定?」


 冒険者ギルドから帰って来たミカとエマが、クランハウスのリビングで切り出した。

 研修は五日間で、今日が最終日のだったはずだが。


「それが、ミカの斥候職の研修の総仕上げをやると、ミレスさんが言い出しまして」


 ミレスというのは、あの研修の講師か。


「どうも、おっちゃんは、いまひとつアニキのことが信用できないと言い出しまして」

「ミカ!! あっ、ああ。それでですね」

 エマが焦っている。

 とはいえ、ミカが言っていることが、偽らざる所なんだろう。


「それで、パーティ全体で検定するってことか」

「そっ、そうです」


「もう! アネゴはアニキに気を使い過ぎですよ。大丈夫ですよね? アニキ」

「ああ、かまわん」

「ほらぁ!」

 何だか、ミカがドヤっている。


「それで、検定って何をやるのよ?」

「起きてたのか、リザ」

 ソファの俺の隣で寝ていたと思ったんだが。


「うん。明後日一緒にオラント迷宮に行くって」

「はっ?」

「一緒に迷宮へ入って、その戦いぶりとか、攻略の様子を見て、検定するかどうか決めるそうです」


「ええぇぇ。あの爺さんと一緒に行くの? 嫌だな」

 あからさまにリザの表情が曇る。


「まあ、いいじゃないか。ミカも迷宮はともかく、斥候職に慣れているわけじゃないからな。熟練者が付いて来てくれるなら、安心度が上がる」


     †


 ミカから話を聞いた二日後、オラント迷宮へ向かう道。林が切れて、やや開けた。立て看板に続いて、露店が並んでいるのが見える。着いたようだ。


「あっ、師匠が居る」

 革鎧を着込んだ男が待ち構えていた。斥候職の講師ミレスだ。

 入口手前でミカが駆けだした。

 遅れて俺達も寄っていくと、既に会話を始めていた。


「ああ、これですか? アニキが、これでも被っておけって」

「まあ、頭は護った方が良いが」

 特製のヘルメットだ。


「おはようございます」

 ミカが世話になったから、丁寧に挨拶する。


 それまでは、4日前とは違って穏やかそうな面持ちだったが、俺を認めて一気に険しくなった。


「ちゃんと来たな」

「はあ」


「ほら、師匠。アニキは真面目でいい人だって言ったでしょ」

「ふん。女を2人も引き連れているヤツは、信用ならん」

 ムカッとくるが、半分は同意できる。

 ん?

 リザが、俺の腕に腕を取って、ミレスに見せ付けるように抱き付いた。気持ちは分からなくもないが、誤解が深まるぞ。

 ミレスの眉根が寄っている。


「4人か。パーティとしては、やや少ないな」


 彼の言う通り、5人から6人が適当らしい。当たり前だが、戦力は人数が多い方が増強される。多い方は、経済的な問題が出てくるそうだ。人数が多くても戦果が増えるとは限らないからな。

 あと。レダは手甲にして獣相にしてはいない。ギルド職員とはいえ、ミレスに長らく見せ続けるのは(はばか)られる。


「そ、それで。検定とはどのように」

 エマが割って入った。


「ミカを除いたこのパーティで、1度は迷宮に入ったことがあると訊いているが?」

「ええ、グラナードの迷宮へ入ったことはあります。そんなに深くは潜りませんでしたが」


「わかった。じゃあ、これから、一緒に迷宮へ入って、あんた方の行動を逐一視させて貰う」

「何か課題はないのですか?」

「ふん。個別には設定しない。まあ今日中に、7階層までは、行って貰いたいがな。先に言っておくが、ここの迷宮はあんた方にはフロアボスの素通りができないようになっているからな、気を付けるんだな」


「ああ。1人でもボス部屋を通過したことがないか、下の階層に行ったことがない人がいると襲って来るんだって」

 ふむ、そうか。1回転層スポットで誰かに連れて行ってもらえば、素通りできるということか。どのみち斃して通りたいからな。


「了解だ」

「じゃあ、早速入ってくれ。俺は専用口から行くからな」

 一旦ミレスと別れた。


 俺達は、露店が並ぶ道すがら、ぱらぱらとした冒険者達が行く方向へ進むと、やがて、グラナードと同じく、柵が切れ関門が見えてきた。ここの迷宮も冒険者ギルドの管轄だった。4人分の入場料を支払い、皆でリターダを飲んだ。


 どうやら、彼は少し距離を開けて付いてくるようだ。

「ここが迷宮の中央入口だよ」

「ミカ。中央と言うと、ここ以外にも入口があるのか」


「北と……あといくつかあったけど、そっちの方は塞がれたんだって」

「不正規の入口が以前は有ったようです」

 ああ、裏社会のやつらが使っていたのか。現ギルマスの改革で一掃されたってことだろう。


「師匠ぉぉ」

 ミカが後を見ると、ミレスが居た。俺と目が合うと、(あご)をしゃくった。早く行けという意味らしい。

 柵に書かれた順路という矢印に進むと、レンガ積みの半径3m位の大きめのトンネルが丘の斜面にぽっかり口を開けていた。冒険者達がそこへ入って行く流れに、俺達も連なる。時間帯の所為か、出ていく者達には居ないようだ。


 迷宮の通路は、ところどころ魔灯が焚かれ、暗くはない。人が多く出入りしているからか、洞穴特有の辛気くささや、じめっとした湿気はなく、快適だ。100m程進むと冒険者の列ができている。


「アニキ。この列は転層スポット待ちっす。僕達は使わないので、このまま行くっすよ」

「ああ」


 ミカが、少し得意そうに案内してくれる。

 彼女の背中を、リザが押して早く行けと急かせる。列に並んだ冒険者達の9割は男で、自分にまとわりつくような視線が嫌なのだろう。

 ならば、もう少し露出を抑えれば良いのにとは思うが、肩を出した衣装は彼女の性格の表れだから、俺から言うことはない。


 さらに進んで転層スポットを通り過ぎ、角を曲がるとリザが嘆息した。

 ほぼ人気(ひとけ)がなくなったからだ。


「鬱陶しいたらありゃしない」

「ええ? その羨ましいおっぱいを見せつけてるんじゃ?」

「ケントにだけね。で、羨ましいの? これ」

「まあ、ちょっとは」

 先行するリザ&ミカのガールズトークが始まったか?


「ちょっと?」

「うん。大っきくなって、リザみたいにのろくなったら嫌だし……イタイイタイ」


 うむ。捕まえた時は四方八方に殺意を向けるような感じだったが、ミカも心を開くようになったな。


「エマのお陰だな」

「えっ、なんですか?」

 横に並んだ、アネゴがこっちを向いた。

「なんでもない」


 目の端にミレスが見えた。しっかり付いてきているようだ。


     †


 第1階層では全く会敵せず、下り階段が現れた。第2階層も、ゴブリンやホブゴブリンしか現れず、少ない時は俺とエマが、多い時はリザが魔法で蹂躙し、瞬く間に扉の前に着いた。

 ボス部屋だ。

 リザとミカが下がり、俺が先行する隊形を取る。そして、一歩足を踏み入れると、ボスが動いた。


「ボスはブラックボア。突進が来るよ!」

 ミカの叫びと共に、剣の柄に手を掛け、俺は走り出した。

 一直線に突進が来る。デカい。俺の肩程の背がある。


 黄色がかった牙が迫るが、妙にゆっくりと見えた。

 間一髪で蹄音が通り過ぎると、黒い塊は勢いを落とさずエマの大楯へ。既に指呼の距離。エマが短槍を構える。


 が、しかし。

 大猪は突如歩様が乱れ、右へよれて轟音と共に壁にぶつかった。


 ボフッと破裂音と共に、塊は消え青銀が飛び散った。


 右手に持った、鋼の剣を鞘に収める。


「あっ、えっ? アニキが、あいつを斬ったの?」

「ん? ああ」


「何時、剣を抜いたのかわからなかったよ。ねえ、リザ見えた?」

「バカね。ケントが、何もしないで通すわけないでしょ!」


 ボス部屋の手前で、ミレスがこっちを睨んでいる。

 今のところ減点はないだろう。


 順調だからな。階層が浅いから当たり前か。

 そう。そう思っていた。この時までは。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2023/09/17 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)

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