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62話 別行動

予告は致しましたが、久々の投稿となります。



「じゃ、じゃあ、行ってきます」

「おう。がんばってこい」


 早朝の冒険者ギルド、ホールというかロビー。

 ミカの顔は少し強張っていたが、てててと早足で離れていった。斥候の研修を受けに集合場所へ行ったのだ。


 なんか、その先に壮年と老年の間くらいおっさんがいるけど。支部長(ギルマス)が言っていたミレスとかいう人かな。


「ケント、依頼票を見に行こうよ!」

「ああ」

 リザに腕を引っ張られて、掲示板のある方へ行く。


 昨日帰りにキルドに寄って青銀の買い取りをしてもらった。結構収入になったのだが……それはともかく。買い取り担当の職員からこう言われた。


『ケントさん、エマさん。それから、ここにはいらっしゃっていませんが、リーザさん。3人は、本日の買い取りにおきましてC級に昇級する貢献が溜まりました』

『ほう……』


 そうなのか。

 冒険者ギルドに登録してからたいして経っていないし、昨日までは移動やらなんやらで、しばらく狩りもしていなかった。冒険者ランク昇級としては初めだから、ハードルが低く設定されているのだろう。


『あなた方の昇級資格達成は、かなり早い方です。ただ……常設依頼もしくは行政からの依頼を少なくとも1件達成して戴けないと、昇級できません』

『あれ? 依頼受注は、B級からと聞いたが』

『ああ。それは、特定の冒険者個人やパーティと契約を結んでから、実施してもらう依頼のことです。先程のは不特定が対象となる依頼でして、契約を結ぶことはありません。よって達成できなくとも罰則はありません』


 そういうわけで、折角なので常設依頼をこなしておこうという話になった。


「えぇぇぇ……農業関連の依頼しかないじゃない」

 掲示板を見るリザが、落胆している。

 薬種採取、農家の収穫手伝い、草刈り……。確かにそうだな。


 掲示には、もちろん魔鉱獣駆除とかの依頼もあるのだが。そこには、C級以上、あるいはB級以上と但し書きがされている。

 D級の我々は、その依頼をたとえ達成したとしても、貢献にはカウントされない。不相応な依頼に挑戦する危険を排除するための措置だそうだ。


「そうですか? ほら、あそこに土木工事の手伝いも有りますけど」

「あぁぁ、そういうのはいいから。エマはともかく、アタシは無理よ」


 まあ、リザに肉体労働系は期待できない。

 聞いているエマもからかったのだろう、半笑いだ。


「じゃあ、薬種採集にしましょう。私は修道院でやったことがありますし」

「しかたないわね」

「ケント様は?」

「俺は、土木工事をやってみるかな」

「えっ、別々?」

「まあ、今日だけだしな。土木工事に来ても良いが、」

「さあ、採取に行こう! エマ」


 少し膨れていたが、リザは納得したようだ。

 掲示板の下にある整理券の束から1枚引き抜き、場所と条件を訊いて、現場に向かう。当然場所は違うので、外に出たところで別れた。


 持参する道具はないと書いてあったが、ローブだとまずそうだ。

 古着屋に寄って、農夫のような木綿で厚い地の長袖長ズボンを買う。そこで着替えさせて貰ってから、再度出発だ。


 王都に来た時に渡った橋を左手に見ながら西に進む。東西に伸びる石畳の街道を30分程歩くと、集落は途絶えて人家はまばらとなり、針葉樹が茂る丘陵に差し掛かった。

 この辺までは来たことがないが、回り道しろと立て札が道々立っているから逆にこの道で会っているのだろう。


「あそこか」

 丘陵の一角の山肌が崩れて、黄色い土の肌が見えている。そこに近付いていくと、乾いているが街道も黄色く染まっている。ここら辺りにも水が出たのだろう。

 とはいえ、ここ数日のことではないらしい。


 俺達が王都に来てから、夜に少し崩れた位で、まとまった雨は降っていないので、エマが言っていた1ヶ月前の大雨で起こった土砂崩れだろう。


 木立が途切れると、惨状が見えてきた。


 元は沢であったろう場所が、結構上の方から、幅100メートル程黄色い土砂で埋まっている。山崩れだ。

 寸前には、街道を横断するように縄が張ってあり、通行止めと書かれてある。その脇にギルド職員の目印である濃紺のベストを着た男が立っていたので、近付いていく


「ギルドの募集で来たのだが」

 念を込めて、手の甲に出たギルド証を見せ、整理券を渡す。俺の髪を見ていたが、それについては職員は何も言わなかった。


「うむ。ギルド所属の目印として、この布を首に巻いてくれ」

 差し出されたベストと同じ濃紺色の帯布を、首筋に巻いて前で縛る。

「これでいいか?」

「ああ。現場は、土砂で埋まっていてよくわからないと思うが、この街道の先だ。俺と同じベストを着た監督と……今日はもう1人監督が居るから、そこで、やるべきことを訊いてくれ。くれぐれも無理するなよ」

 監督が2人? まあ、どうでもいいか。


「了解だ」

 張られた縄の間を跨いで通り抜け、中に入る。

 少し進むと街道が、黄色い土砂に埋まって見えなくなった。歩いて行くと、乾いてはいるが柔らかく、少し足が沈む。保管庫から買った靴を出し、それまでのスニーカーと履き替える。


 足下がやな感じだなと思いながら進んで行くと、既に多くの人が働いて居た。しかも、珍しく獣人族系の姿が多く見える。


 やはりベストを着た監督の近くに寄って、軽く会釈した。

「募集を見て来た」

 もうひとりの監督……あの人だろう。作業に向かなそうな身形をしており、俺には関心を示さず、向こうを見ている。ベストを着ていないから、ギルドの職員ではないのだろう。


「受付は終わっているな。その髪……サピエン族相当と思って良いな」

「まあ」

「名前は?」

「ケント・ミュラーだ」

「…………ミュラーと。休憩は11時と13時に10分ずつ。鐘で知らせる。終了は15時だ」

 監督は、紙を板の上に挟み込んであるものに何か書き込んだ。

 15時か。

 ヴァーテン王国では、昼食を取らないのが普通らしい。


「こういう現場の経験は?」

「いや、ない」


「じゃあ、泥運びをやって貰うかな。辺りの泥をそのモッコに積んで、あそこの捨て場まで運んでくれ」

 モッコ?

 ああ、あの縄で編んだカゴのことか。サピエン族の男が、天秤棒で前後にモッコを吊して、肩に担いで運んでいる。

 なんだか、江戸時代のドラマかなんかで見たような感じだ。


「わかった」

「道具は、そこに置いてあるのを使ってくれ。泥を持ち上げる時は、膝を曲げるんだ。腰を痛めないように、気を付けてくれ」

 肯いて離れる。


 モッコ2つと天秤棒。さらにショベルを持って、泥が積もっているところに行く。経験がないと言ったにも関わらず、特に道具の使い方については指導はなかった。ショベルも、使ったことないしなあ。まあ見たことはあるが、正しい使い方はよく分からない。


 10メートルくらい離れた所に40過ぎっぽい男が居るので、彼のやり方を参考にさせて貰おう。作業しているのを見つめる。

 

 そう思ったら、俺のことに気付いた。

「にいちゃん。土木現場は初めてか?」

 見抜かれたらしい。隠しては居ないが。


「ああ。そうなんだ」

「だろうな。ショベルはな、足で踏んで、泥を掬い取るんだ」

 ほうほう。


「こっ、こうか?」

 地面にショベルを当てて足で踏む。

「うおっ」

 鉄のスプーンみたいなところがズズっと埋まっていくので、そのままの勢いで腕に力を込めて、乾いた泥を抉り取る。


「おおぅ、にいちゃん。すげーな」

「はっ?」

 答えつつ、ショベルに山盛りになった泥を、モッコのカゴの中に降ろす。

 いやあ……と言いながら、おっさんは俺の横まで来て、自分でショベルを地面に突き立てる。

「なんだ。やっぱり、ここも固いじゃないか」

「そうかな」

 固くはない。


「そうだぞ。普通はショベルが喰い込んだら、テコのように使って泥を起こすんだ。その方が疲れないからな」


 なるほど。

 さっそくやってみる……が。

「うーん」

「なんだ?」

「まどろっこしいかな」


 腕に力を込めて、ショベルを突き立てると、足を使わず掬い上げた。

 こんもりと泥を抉っている。


「ああ……とんでもない腕力だな。にいちゃん」


 そうでもないと思うんだが。

 それから数回掬ったら、モッコが前後とも一杯になった。結構山盛りだ。モッコの吊り縄に天秤棒を通して……。


「いや、にいちゃん。そんなに詰めた……ら」


 なんなく立ち上がった俺をみて、言葉が止まった。


「大丈夫そうだな」

「ああ。捨てるのはあそこだよな」

「あっ、ああ……」


 歩いて、さっき監督が指して居た場所まで200メートルばかり歩いて、モッコを降ろして外す。土溜まりにひっくり返して捨てる。

 振り返ると、現場全体が見えた。

 元の場所に戻ると、おっさんがまだ俺の方を見ていた。


「ああ、ひとつ訊きたいんだが」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2023/05/13 誤字訂正(ID:371313さん ありがとうございます)

2023/09/17 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)

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