61話 拳闘士ケント
連休に差し掛かりますので、恐縮ながら次話は5月13日に投稿予定です。
ミカを戦わせずにレベリングをしようと思ったが、効果があまりなさそうだと思い直して同行させる。
「ミカ! 魔鉱獣が現れても、落ち着いてね」
「うん」
「そうそう、びびって、ちびらないようね」
「もう、リザったら! 僕はガキじゃないよ……うあぁ! なんだ、レダか。びっくりした。アニキまで、脅かすなんて、ひどいや!」
黒豹と化したレダは、日陰に入っていたからか目立たず、ミカは気が付いていなかったようだ。
「あれれ?! レダはさっきからそこに居たわよ、ミカは気が付かなかったの?」
リザが、少しおどけて割り込んだ。
「えっ?! そっ、そうなんだ。アニキ、すみません」
「ああ、まあいい。レダにはミカの周りで守らせるからな」
「そっ、そうなんだ。よろしく」
レダが寄っていくと、ミカは恐々背中を撫でていた。
さて。俺も準備しないとな。
レダが分裂して活動できるようになったので、一部は俺の両腕の手甲にしているが。攻防両用が良いな。
先端を4股に別けて15cmばかり伸ばした。手甲鉤のできあがりだ。
さらに俺が指を曲げると、手甲鉤も連動して曲がる。
三浦流はクサリガマやらクナイやら、槍、刀以外の武器も使う。俺は幼くてやっていなかったが、イメージは十分ある。
エマが寄ってきた。新しい武器に興味がありそうなので、腕を上げて見せてやる。
「そういった暗器もお使いになるのですね。あっ、もしかして、ミルコ会の師範が仰ったように」
「ああ。しばらく剣や刀は使わないつもりだ」
「なるほど。しかし……凶悪ですね!」
凶悪かな?
肘を曲げて、先端をこっちへ向けてみる。まあ、厳ついことは認めるが。
「ああ、あのう。アニキ」
「なんだ? ミカ」
「さっき、レダに驚いた僕が言っても信じてくれないかも知れないけれど。僕は、魔鉱獣が居ると、大体どの辺に居るか分かるんだ」
索敵スキルが結構高かったからな。
「それは、すごいな。じゃあ、魔鉱獣が居る方へ案内してくれ」
「うん」
あっ、いや。信じたというよりは、ステータスで知っていたからだが。
嬉しそうに肯いたのを見て、少し心が痛む。
まあ、いいか。
「じゃあ、こっちだよ」
腰高ほどの草むらへ入っていく。
3分程索敵すると、狂鹿の小さい群れが見つかった。鹿というといかにも柔弱そうだが、大きな枝角は中々に鋭利。人間など簡単に切り裂けるそうだ。
草は深いが、前進を阻害はしない。緩やかな風がこちらへ吹いて始終サラサラと音を立てているおり、都合が良い。
右腕を水平に出すと、リザが肯く。3人とレダはその場で止まった。
まだ距離はあるが、リザの詠唱が始まった。
俺は離れて、少し左に回り込む。
ドシュ!
10秒余り後。鈍い破裂音が響いて、鹿が1頭竿立ちになる。
来たか。
リザの魔法でパニックになっているだろう魔鉱獣が、こっちへ向かってくる。
刹那視線が絡む。首を折って、角を前方へ。
右脚を蹴立て横っ飛び。掠りそうな角を僅かに交わし、手甲鉤に繰り出す。確かな手応え。
ヤツの首から肩に掛けて4条に切り裂く。
ゴフッ。
後続の1頭が指呼の距離だ。胴が撓んで、頭上へ跳躍していく。
逃すか───
踏ん張った途端、俺は遙か宙に昇り、鹿の腹を斬り上げた。
鹿は地に落ち、擦過音と共に草を撫で付けるように倒れる。
その傍らに着地。息の根を止めてやろうと思ったが、巨体は次々と煙と化して、その必要はなかった。
爪を染めた血も鈍く輝いて、数秒後には消え失せた。
皆に寄っていくと、エマとレダと、分かれたリザとミカの姿が見えた。
「こちらには来ませんでした」
「そのようだな」
「アタシは2頭。ケントは」
仕留めた数だな
「同じく2頭だ」
「うーん。火魔法なら、一網打尽にできたのになあ」
「いや、この草むらで、火魔法は……」
「だから、新しい魔法にしたでしょ!」
『昨日買った礫魔法を使いましたね。リザも少しは考えているようです』
そうだな。あとで褒めてやろう。
「わぁぁあ!」
「ミ、ミカ、どうしたの?」
「何か、変な音が……鳴ってる……止んだ。はあ、はぁ……あれ、なんか、ちらちら目の前を」
レベルアップしたようだ。
『はい。ミカの斥候のレベルが、16になっています』
「それって、レベルアップよ。ミカのレベルが上がったんだわ」
「そっ、そうなの? これがレベルアップかあ」
「おめでとう」
「良かったな」
「うん」
多少は経験を積ませて、ちゃんとギルドの研修を受けさせよう。
「よし。まだ日は高い。次に行くぞ」
†
「おかえりなさい。兄貴とアネゴ」
リビングにミカの陽気な声が響き渡った。
「ああ、ただいま」
「ただいま」
リザとミカに買い出しに行かせ、エマと俺はギルドに寄って帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
リーザがキッチンから出てきた。
「すぐにお茶を淹れます」
「悪いな、リーザ」
腕を振ると、手甲に変わっていたレダが外れた。そして、床に墜ちる前には、黒豹に変わって音もなく降り立った。そのまま、リビングを縦断すると、暖炉の前にうずくまる。いや、火は付いていないけどな。
自室に入ってスエット上下に着替えて戻ると、エマも着替えてリビングへ入って来た。
「いやあ、しかし。3つもレベルが上がるなんてね。びっくりしたよ。この分だとすぐに20まで上がるかもね」
ミカは、結局レベル18まで上がった。
「ミカ。それはケント様のパーティに居るときだけのことだから」
「えっ、そうなの? アネゴ」
「だから、他言は無用よ。もし喋ったら」
「しません、しません。絶対しません」
むう。懐いていると同時に、エマを怖がっているな。まあ、よしとしよう。
「ミカ、手伝って」
「へーい」
しばらくして、ふたりでカップとポットを、キッチンから運んできた。
リーザが、テーブルに並べたカップにお茶を注ぐ。
「えっと。カップが4つあるけど、僕の分?」
「そうよ」
「やったあ、1回お茶って物を飲んでみたかったんだよね」
ご両親が健在の頃、飲んだことなかったのか? そう浮かんだが言い淀む。
「ケント様。どうぞ」
「おっ、ありがとう」
ふぅぅぅ。
おっ。ミカがふうふうを憶えたようだ。てか、見た目は小動物のようだが、14歳だった。憶えて当然だな。
「うーん。味はよく分からないけど。さっぱりしてる」
「ふふふ」
いや。うまいぞ。リーザが淹れてくれるお茶は。
「でもさあ、アニキにはびっくりしたよ」
「ん?」
「いや、アニキは拳闘士だったんだねえ。盗賊団にも獣人の拳闘士が居て強かったけど。アニキは比べものにならない位強いよ」
「そうか」
目指すところは剣士だが、拳闘士が強いというのも悪くない。
それに、剣や槍を使わない戦闘で、今の身体の使い方が少しわかった気がするしな。しばらく師範が仰ったようにやってみよう。
「はあぁ。やっぱり、おいしいかも」
「ミカ。明日から、斥候職の新人研修がんばるのよ」
「うん。がんばるよ。アネゴ」
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2023/09/17 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




