41話 お上りさん
新章開始です!
そう書いた後で恐縮ですが、次回から週1回投稿にさせて戴きます。(基本土曜日)
よろしくお願いします。
「お客さん。見えてきたよ」
朝、駅馬車に乗って8時間。日が少し傾いてきた頃、馭者が告げた。
絨毯の上で腰を持ち上げると俺にも見えてきた。
馬の肩越し、やや左側に城壁が見えている。
ざっと2km弱位の所だ。
あれが王都か。
結構大きい白い城壁が見えてきた。
さらに近付いて、しっかり見えてきたと思っていたら、馬車が左に曲がった。
今日は曇りだったからか、昼前に幌を前側に畳んで寄せていたので、右手に城壁が遮る物なく見えるようになった。左側のベンチに座って眺める。
「こうなっていたのか」
城壁の手前に、結構大きめの川が流れている。まあ、日本人から見てそう思っているだけで、この世界ではそうでもないのかも知れないけれど。
川幅はぱっと見、木曽川ぐらいか。川水は青々として緩やかに流れており、帆を張った舟と、張っていない舟とが行き交っている。
川の向こう岸には緩い河岸段丘ができていて、城壁は近付く者を阻むように段丘の上に建っている。やや灰掛かった白色の石材は、おそらく石灰岩なのだろう。
それが、流れの緩い川の水に映って中々に美しい。
城壁の大きさとしては、差し渡し1km位だ。所々に塔が建っているので、単なる城ではなくて宮殿だろう。王都だからな。
ぱっと見でも、グラナードに比べると段違いに規模が大きい。
『ご主人様。放浪者のスキルで、距離感覚が向上していますね』
そうかな。視力がとんでもなく良くなった実感はあるが。
「それにしても、でかいなあ」
「うぅん……ケント。何?」
思わず声が出て、居眠りしていたリザが起きた。まあ、もうすぐ着くだろうし、良いか。
「あれ!」
川の向こうを差すと、リザが振り返る。
「わぁぁ。大きな壁、もしかして着いた?」
その声で、エマも起きたらしい。
キョロキョロと辺りを見回した後。
「ああ。いいえ。もう少しです。この川、エイレネ川に掛かっている大橋を渡ってから、ぐるりと回り込んでやっと着きます」
エイレネ川という名前か。
「そうなのか?」
エマはつい最近まで、王都に居たのだからな。知っていて当たり前か。
数分間川岸を遡ると、エマの言った通りでかい橋が見えてきた。数十も連なるアーチ、石造りの立派な橋だ。城壁と同じ石灰岩かな。
どんどん近付いて来て、橋端の手前で右折すると馬車は川を渡り始める。
なかなかの建築物だ。欄干が有って、両脇の歩道と歩車道分離されている。真ん中の車道は4車線ぐらいは取れそうだ。
「凄く大きいお城」
リザが興味深そうに、近付いてくる城壁を眺めている。
馬車は川を渡りきり、石畳の広場の左端に出た。広場の向こうには大きな門があって白い塔というか櫓というかの構造物がある。
近付いてくると白亜の全貌がよく見えた。パリの凱旋門のように10mばかり離れた2つの角柱が上の方でアーチ型に繋がっており、その間は巨大な扉で閉ざされている。
「門だけど、ここじゃないんだよな」
さっき、ぐるっと回り込むとエマが言っていたからな。
「はい。ここは南西門で、王族と大貴族の専用です」
ふむ。庶民は使えないのか、やはり身分制が厳しいな。
グラナードには貴族が居なかったが、地方都市だったからな。王都には当然居るのだろう。
王族、大貴族専用というだけあって、立派な上に豪華だ。門の表面は、いくつもの彫像が埋め込まれ、優美な紋様が彫り込まれている。王国の威信が掛かっているのは、転移者の俺でも分かる。相当金が掛かって居るのは間違いない。
「我々の行くところは、もう少し北です」
北か。
「ちなみに、城壁の外ですが、そのさらに北側に庶民が住む町があります。冒険者ギルドも、そこにあります」
「そういうことか」
馬車が広場を過ぎると、右側が空堀に変わった。その向こうに石垣があり、さらに城壁が壁のように連なっている。
そして、100m弱おきに低い塔が空堀へせり出しており、堅い防御の構えに見える。
その威容を眺めていると、空堀が途切れてまた巨大な門が現れた。
こっちは扉が開いていて、中が見える。
かなり整然とした町並だ。
「こちらは西中門。中小貴族と一部市民が使う門です」
「中小というと?」
「準男爵、男爵、子爵が中小貴族です。その上の階級として、伯爵、侯爵、公爵が大貴族としてありますが、さっき通り過ぎた門を使います」
ふむ。大まかには地球と同じ位の爵位数だな。
次の門が近付いて来た。この門も、南西門に負けず劣らずの大きさだ。立派は立派だが、さっきの南西門を見た後だと、少し質素に見える。設置されている彫像の数が少ない。
その門も通り過ぎて、馬車はさらに進む。
「お客さん。もうすぐ終点だよ」
前の方を向くと、数百m先に高い塔が見えて……その先で城壁が途絶えているのかな?
「ああ、わかった」
そそくさと、少し広げていた小物を鞄に収納する。
それから10分程で、街道は大きな広場にぶつかりT字路となった。しかし、馬車は曲がらず、そのまま広場の端に横付けされて止まった。
「着きましたよ、ケント様」
「そうか」
御者台に近付く。
「後金だ。これでいいか?」
大銀貨を3枚の30セルクを差し出す。
「こりゃどうも」
前金も30セルクだったから、1人当たり合計20セルクだ。多分距離的に東海道線の東京-小田原間に比べれば、高いのかも知れないが、あっちは一気に何百人も運べるからな。タクシーと電車が同じ距離単価ではないのと同じだ。
エマとリザが、敷いていた絨毯を丸めてくれたので収納して馬車を降りる。
自分の足で立つと王都に到着したという実感が湧いてきた。概ね予定通り8時間ぐらいの行程だった。
「ンンン……」
リザが歩道で大きく伸びをした。
「あそこは、庶民が使う門です。通行証が必要ですが」
振り返ると、城壁が折れていて、東へ続いている。少し東に寄った所に、やはり門があって中が見える。
中にも広場があって、街路の回りに街並みが見える。さっきよりは質素だが、まあまあ立派だ。
「こっちは?」
広場の向こうにも、町並が広がっている。
こっちは、城内に比べるとだいぶ質素だ。角地はまだまだ良いが、奥に行く程レベルが落ちていくように見える。
「はい。こちら側には、自由民や商人が住んでいます」
なるほど。ダウンタウンってわけだ。江戸の町割と同じだな。
「で。着いたけど、これからどうするの?」
「まずは宿を取ろう」
「ですね」
なんだどうした。リザの機嫌が少し悪化した。
「リザは、どんな宿が良い?」
「えっ? ああ。そうね。お風呂のあるところが良い」
俺の腕を取って、表情が緩んだが、代わりにエマの眉間に一瞬皺が寄る。
「そうだな」
今はそこそこ暑いが、湿度は低くさらっとしている。よって、シャワーでも悪くないが、湯船に浸かれる風呂は格別だ。
「では、北町の宿が集まった区画に向かいましょう」
「ああ、エマ。その前に訊きたいんだが」
「はい」
「あの建物は、教会か?」
広場の西端に面した、こちらも白亜の尖塔が聳えている。
「はい」
「エマが居た修道院……」
「ではありません。あそこはディース大聖堂といって、王国最大のリリウス会の教会です」
「そうなのか」
エマの表情が、やや曇った。
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2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




