35話 用意周到
周到な方だと思っているけど、どうなんだろう。
ダンジョンに来るに当たって、ギルマス含め何人かのギルド職員からで助言を受けた。それによると、ダンジョンに入るメンバーについては、戦闘職を揃えるのも大事だが、メンバーのバリエーションを重視すべきと言われた。回復職と斥候職がいるとかなり有利になるらしい。回復職は、リザがリーザに代われば良いし、あとはポーション等でも短期的には何とかはなるが、斥候の方はやや問題かも知れない。
そもそも斥候を天職や職能に持つ者は少ないそうで、偶然に出会うのは難しいらしい。一般論では金銭で雇えないこともないが、やはり引く手数多ですぐには斡旋出来ないとのことだった。俺達はまだD級だしな。
とは言え。深い階層まで行かなければ、そんなに苦しむことはないと言われたので、実感を掴むためにも来たのだが。
ふむ。
入口から1階層目は、ギルド警備員が安全と言っていたが、詰め所があるはず……あそこか。そこを通り過ぎて、階段を降りたところが2階層。
迷宮の真の入口だ。
詰め所の横を通り過ぎる。
地上に居た職員と同じ服を着ている。
一段一段降りながら、横に来たレダの背中を撫でる。
『気持ち良いみたいで、喜んでいますよ』
レダの中には、現在アイが入っている。
『そんなことより、頼むぞ』
『お任せ下さい』
昨日の午前は休みにして、リザとエマは装備を受け取りと調整に行かせた。
その間に、俺とレダはいつもの林に狩りに行ったのだが、大きな問題が見つかった。
仕方ないので、レダにしばらく武器に専念して貰おうと思ったのだが、アイが提案をしてきて、獣相のまま現在に至るというわけだ。
2階層に降り立った。正面は石積みの壁だ。自然石ではなく、一応加工されているようだ。無論行き止まりではなく、左右に通路が続いている。
あと、壁には塗料で右向きの矢印が大きく描かれている。その上に書かれている意味不明な文字が、ぼやけて順路と変わった。
ふむ。
1階層は魔灯が壁に多く架かっていた。左右の通路を見通すと、ここ2階層にも架かっては居るが、間隔が倍以上になっているので、だいぶ暗い。コスト削減ってやつか。
まあ天井には発光苔というものらしいが、それがところどころに茂っていて、灯りを点けなければならないほどには暗くはない。
さて、そろそろ行くか。左に歩き始めた。
「えっ? ケント! なんでそっち? 右って書いてあるよ」
壁の矢印もそうだが。貰った地図にも、左もしばらく通路が続くが、全部行き止まりと書かれている。
「わかっているが、俺達の目標は下の階層へ急ぐことじゃない。まずは、ここらで練習だ」
「ああそう……まあ、わかってるなら良いけど」
微妙に不満そうだ。
まあ下に行く程、強い魔鉱獣が居て派手に闘えるからな。この階層でれば、どこに行っても大した事はないと聞いている。
30m程行くと、右に曲がった。さらに20m程で左に曲がっているようだ。
微妙に殺気を感じる。
「この先に、何か居そうだ」
「うん」
「了解です」
左に曲がると、少し広い部屋があった。
居た!
コボルトだ。
3体!
人型で体長はざっと130cmくらい。それぞれが短い槍を持っている。
部屋に入った刹那、レダが右にダッシュ!
戦力分散は微妙だが、それほど広い部屋じゃない。俺は左に駆け出す。
瞬く間に間合いが詰まる。柄に手を掛けて左にフェイント!
突き出された槍先を右に掻い潜り、鋼の剣を逆袈裟一閃。
犬に似た首が、ずるっと落ちた、即死だ。
右には既にコボルトが床に突っ伏していて、ボフッと間抜けな音と共に煙となって消えた。
だが、そこにレダの姿はない。
既に真ん中の魔鉱獣を狙って駆け出している。
ただ対象も瞬く間に2体がやられたので、部屋の奥にから伸びる通路へ一目散だ。
レダは、飛び掛かろうとして後ろ足に力漲らせたが、ぴたっと止まった。
その前を、火球が礫のごとく通過、逃げるコボルトの背中に命中した。そのまま火達磨になると5秒程で煙となった。
くぐもった破裂音と共に、床に青銀の粒が転がったが、瞬く間に消える。レダを含めて皆をパーティー設定しているから、俺の保管庫へ自動回収されているはずだ。
≪コボルト3頭を斃しました!≫
≪経験値84224を獲得しました!≫
≪青銀642gを得ました!≫
ふむ。流石にショボい戦果だ。
『それでも35ヴァズにはなりますが』
円換算だと1万倍って、金銭感覚がおかしくなるな。
そんなことを思っていると、黒くしなやかな影が走ってきて、俺の足下に纏わり付いた。
「よーし。ちゃんと言い付け通り、俺から10m以上離れなかったな。偉いぞ、レダ!」
首から背中、喉元を撫でてやると、口を開けてうれしそうに興奮し始めた。
その態度は、まるで猟犬のようだ。見た目は数倍凶悪だが。
『私が止めたのですが……』
わかっている。
そう。アイが制御したのだ。
『はい。まあ、レベルアップの度に少しずつ賢くなっては居ますが』
昨日見つかったレダの問題点は、独断専行することだ。敵が居れば、勝手にどんどん前進してしまう。
凶悪な爪と力強い腕、そして鋭利な牙をもった俊敏な魔鉱獣の特性を持つが、まだ知性が伴っていない。
金属生命体としては、生まれてからかなり経っているはずだが。群体として行動するのは慣れていないとアイが言っていた。
その所為か、昨日1度レダが魔鉱獣に包囲されてしまったことがあった。無論俺がフォローして事なきを得たが。
俺とレダだけで行動する場合はまだなんとかなるが、パーティーでの行動を考えると大問題に発展する可能性がある。それで、どうしたものかと悩んだ。
アイは勿体ないと言い切った。
これからレダはもっと賢くなるし、俺のテイマーレベルが上がれば意思疎通が緊密になるそうだ。
問題は、現状がまだまだなこと。
そこで思い付いたのが、彼女が制御することだ。
うまく行ったら俺が過剰に褒めて、レダの動機付けを向上させようと企んだ。それは、アイがレダのことを犬っぽいと言ったからだ。
黒豹じゃないのかよと思ったのだが、アイによると俺への従属契約があるので、そちらに引っ張られて犬に似るそうだ。
それなら、犬の馴致方法が使えるのではと考えた結果だ。
『ともあれ、レダの集合意識の中では喜んでいる割合が高いですね。うまくいっているようです』
まあ見た目にわかるけど。割合か、1頭に見えるけど、群体だからな。
よし、武器に専念よりは、積極的な解決方法になるだろう。
『まあ要観察です』
「あぁ……」
ん?
後から、リザとエマも追い付いてきた。
微妙な顔だな。
「リザ、良くやった。エマも助かる」
ぱっとリザの顔が明るくなる。
「ふふん。コボルト如き一発よ!」
3体目を撃ったのは、リザの魔法だ。
「だな! でも油断するなよ」
「うん」
リザは、完全に褒められて伸びるタイプだ。
エマは、言葉より信頼を意気に感じるタイプと見た。
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訂正履歴
2022/11/09 誤字、表現変え
2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)
2025/05/25 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




