31話 進化?!
進化と退化、発酵と腐敗……誰の観点でということになりますよね。
「ハァ、ハァ、ハァ」
3回戦が終わって、起き上がる。
水差しから、マグに注いで、一気に飲み干す。
プハァァ。ただの水だが美味い。
「ああぁ。アタシも……」
「ん?」
「こっ、腰が……」
リザが、ベッドの上で身を揉んでいる。
「どうした」
「もうぅ。ケントの所為なんだからね。好き放題するから。腰が痺れちゃった」
「アハハハ」
「笑い事じゃないわよ。ねぇ、アタシもお水飲みたい」
「ああ、わかった」
もう一杯注ぐと、それを呷る。
「えっ、ちょっと! ケントの意地悪ぅ……えっ、何?」
そのままベッドに上がると、リザに覆い被さった。
口付けして、含んだものを流し込む。
「ムゥゥゥ……」
一瞬目を白黒させたが、そのままゴクリと喉を鳴らして受け入れた。
「ヌンンンン……ッチャ。ハァ、ハァ……もう。でも、なんか甘かった」
「ふふふ」
リザの上から横に寝返る。
「えっ、しないの?」
「腰が痺れてるんだろう?」
「そっ、そうだけど。もういいわ。そうだ。聞いて! 今日もね、魔法士が6回もレベルアップしたのよ」
≪ステータス!≫
≪職能:|魔法士 :レベル43≫
AGI(敏捷比): 222
VIT(体力比): 164
MNT(精神比):2156
STR(筋力比): 85
DEX(技巧比): 313
LUC(幸運比): 105
天職が魔法士なだけはある。MNTに極振りだ。しかし、STRをなんとかしないとな……。
「うんうん。すげーな」
そのまま言うと拗ねるからな。自分でやる気に持っていかないと。
「なんか、投げ遣り」
「男は疲れるんだよ……眠い」
「ええぇぇ。ケントは?」
「ああ、明日でいいだろう。おやすみ……」
†
ううぅぅ。
朝か。
暖かい。俺の腕の中で、リザが寝ている。
もう少し寝よぅ……と思ったが、背中に視線を感じる。
まさか、エマ?
リザを離して、起き上がった。
「なんだ。アイか」
ガルヴォルンに憑依したアイが、こちらを見下ろしていた。
昨日は、手甲の状態で外して寝たから、こうなるとは思っていなかった。
「おはよう! アイ。でもな、リザも一緒に寝ているんだ。少しは気を使え」
「……」
反応がない。
表情を変えずに、こちらを凝視だ。しかも……。
「なんで裸なんだ? おい……なんか返事しろよ!」
「ミュ」
「みゅ? おい。アイ、どうした?」
あからさまに様子が変だ。また制御が巧く行っていないのか?
「私がどうかしましたか? ご主人様」
ブーンと目の前を、小天使が飛んだ。ARモードだ。
「いっ、いや。あれ」
「あれとは? おおおおぅ」
「もうぅ、何よ……」
リザが起きて、騒ぎになった。
†
離れの居間に皆が集まった。
「えーと……」
リザが眉間に皺を寄せて、こめかみに手を当てている。
「……この子は、ガルヴォルンではあるけど、アイは憑依していないと」
「はい」
「ふーん。見た目が可愛いから良いけど」
ついさっき、金切り声を上げて甲斐甲斐しく金属少女にシーツを被せたのにな。
「どうして、こうなったのよ?」
「わからん!」
「わからないって、きっとケントが何かしたに違いないわ。昨日はおかしくなかったでしょ?」
やっぱりおかしいのか、これ?
「いや、昨日といったって。一緒に寝る前に、手甲状態のこれをはずしていたの見てたろう?」
「これって呼ばない! でも、そうね。そういえば外してから……」
顔に手を当て悶えている。何を思い出して居るんだ?
うっ、う、うんむ!
エマが咳払いをした。俺達の睦言は聞きたくないらしい。
「それにしても、あの形の変わる剣がこういうことになるんですね。流石ケント様です」
「いや、俺は関係ないと思うんだが」
「いいえ、ありますね。ご主人様」
えっ?
アイだ。肩に留まっていたが、飛び立って俺の顔の前にやって来た。
「原因がわかったのか?」
「はい。ログをお見せしましょう」
目の前の光景に、文字が被った。
文字が流れていく。あれだ、レベルアップの時に見えるヤツ。
「夕べは、ここですね」
≪職能:調教士 が昇格しました!:レベル10≫
≪スキル:擬人化を憶えた!≫
≪テイム済みの高レベル個体に適用を試みます!:成功1,失敗0≫
「擬人化?」
「どうやら、テイムしている対象が一定レベルに達していれば、人間のように扱うことができるスキルのようです」
なんだそりゃ!
「ただ、見るところ、まだそれ程、知性は高くありませんね」
そういうと、偽少女の頭の上にAR表示が映った
≪ステータス!≫
種別 :ガルヴォルン(群体)
状態 :従魔(強制契約によるテイム済み)
契約者/調教士 :ケント・ミュラーおよび代理者
固有名 :なし
レベル : 31
INT(知性比): 34
AGI(敏捷比): 825
VIT(体力比): 922
MNT(精神比): 102
STR(筋力比): 667
「レベル以外の数値は、人間種属平均の成人男性換算です」
ふむふむ。概ね良い値だが。見たこともない項目がある。
「人間にはない項目。このINTの34って、どんなものなんだ?」
「言語、論理、情動……等々複数の評価ベクトルがあるので、一括りに言うのは難しいのですが、人間換算でおおむね2歳から4歳といったところですかね」
「4歳にしても、見た目と相当差が有るな」
「見た目は関係ありません。まあ大丈夫でしょう。テイムされていますので反抗しません。それに必要に応じて、私が代理制御できますので」
群体で扱えるように強制契約したのは、人間ではないとは言え罪悪感がチクチクと来るな。
「あと、レベルが上がれば、知性も上がりますし」
「って、賢くなるのか?」
「はい」
それは良い! と言うか。これほぼ進化なのでは?
「あとは、ご主人様の調教士 のレベルが上がれば、従魔との意思疎通も円滑になり、抽象的な指令もこなせるようになります」
ふむふむ。
「天使殿。従魔というと、ケント様と従魔契約しているのですか?」
「無論です。そうでなければ、剣や槍になったりできません」
「なるほど」
「アイ、知能があるってことは、勝手には暴れないのか?」
「従魔契約の強制力は強いので、ご主人様もしくは私が命じない限りは、暴れません」
なるほど。便利だが、責任重大だな。
「じゃあ、裸だったのはケントが命じたってこと?」
「いやいや。俺は、命じていないぞ」
そういう趣味があると思われたら心外だ。
「調教士が何も命じていない場合は……無意識を反映するようです」
「スケベ!」
「おい!」
リザがぷいっと横を向いた。
「まあ人間の姿形をしたのは、従魔契約をした時の姿だからだでしょう」
先にそれを言えよ!
「ああ、そうか。そうだったわね」
「それで、この子の名前は、何て名前なのです? ケント様」
名前ってエマは呑気だなあ。
「そうだ、名前。名前がなきゃ、可哀想よね」
ブルータス、お前もか! 最近名前を決めてばかりいないか?。
「名前って、要るのか?」
金属生命体だぞ。
「要るわよ! じゃあ、ガルボ! ガルヴォルンのガルボってのはどう?」
まんまじゃねえか!
「却下です」
「なんでよ、アイ!」
「ガルヴォルンは、結構高価なので。他人にバレると、付け狙われる可能性があります。ですから、ガルヴォルンとの推測の手掛かりになる名前は却下です」
「そっかぁ。そりゃあ、駄目ね」
あっさり、認めたな。
「ガルボかぁ……」
グ○タ。
いや余り実在の人物はどうも……じゃあ、グレ。うーむ、魚ぽい! レタ……レタス……いやいや……レダ。
「レダってのはどうだ」
「レダですか?」
「いいんじゃない?」
軽いな。エマも肯いている。
「じゃあ、決まりで。今から、おまえはレダだ」
「ミュ・・・・・レダ」
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訂正履歴
2022/10/26 僅かに追記
2025/05/25 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




