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30話 風呂は良いよね

いやあ。家の風呂でもそう思うぐらいですからねえ。これからの季節どっか温泉行きたいですねえ。

 ふうぅ。

 2人部屋(ツイン)に入って、奥側のベッドにリザを降ろすと、彼女はそのまま寝息を立て始めた。


 俺は部屋を出て、廊下へ戻る。


 そう。風呂だ!

 スイートはシャワーだったが、離れは湯船の付いた風呂がある。

 期待を込めて脱衣所を素通りして、浴室に入る。


 おお、広い!

 露天じゃないけど、ちょっとした旅館の浴場並みだ。

 湯船は、さほど大きくないものの、岩風呂で高級感がある。

 よく分からない動物の頭部を模した石像が突き出ている。今は出ていないが、濡れているし、あそこから湯が出て来るようだ。考えることは同じだな。


 鍵を貰った時、お湯張っておきましたと言っていたが、ちゃんと湯船から湯気が上がっている。朝、宿を出る時、スイートより広い部屋を用意できるかと訊いたら、離れを用意できます、風呂もありますよと言われた。

 それで、エマの件がどうなるかは決まって居なかったが、夕方帰ってきてから改めて宿を探すのは嫌だったので、部屋を変えて貰ったのだ。

 まあ、エマがやっぱり一緒にやらない、風呂も気に入らないということになれば、明日またスイートに戻せば良いと思っていたが。


 どっちも良い方向に転んだな。


 脱衣所に戻って、そそくさと着ている物を脱いで中に入る。

 ふむふむ。いいなあ風呂は。

 木桶があったので掛け湯をして、いざ入浴!


「ぁぁぁぁあああ」

 我ながら、爺臭い。

 やっぱり異世界に来ても日本人だよなあ。湯船に浸かると落ち着く。


 しみじみして来た。

 この世界に来てから酷い目にも遭ったが、まあまあ好転してきた。

 デカい牛(ヒュージ・ブル)に突き殺された(?)のも、今となっては良い思い出……には流石にならないが、あのお陰でたくさんスキルが得られたしな。まあ良しとしよう。

 リーザの首輪を引き千切った時も、呪いで死にかけた。しかし、それによってリザとも出会ったし、リーザも年相応になったし。


 しかし、振り返れば、まったく直情径行だ。俺ってヤツは。

 だが後悔はない。ないったら無い!


 あとは……武術をなんとかしたいところだ。武器はガルヴォルンでなんとかなりそうだが、フィーリングがなあ。武器じゃなくて、俺の問題だ。誰かに教わることはできないものかなあ……。


 ん?

 脱衣所に人の気配がする。木の扉だから見えないが、エマだな。


「おおい。入っているぞ!」


 あれ?

 声を掛けたのにも拘わらず、気配は出ては行かず、しばらくすると逆に入って来た。


 見たら悪いので、目を瞑って下を向く。

「おい! 入っているって……」


「何よ! アタシも入っていいでしょ! 風呂って入ったことがないのよ。それとも一緒は嫌なの?」


 この声は……顔を上げる。やっぱりリザだ。


 股は布で隠しているが、胸が丸出しで、眼福この上ない。

「寝たんじゃないのか?」


「明日にしろって言うからぁ、寝たふりしてみたの」

「おい」

「へへぇ。あれ? もしかしたらエマだと思った」

「ああ、びっくりした。でも、ちゃんと入って来ないように警告していただろ?」


「うん、してた」

「リザだったら、別に嫌じゃない。むしろ大歓迎だ」

「やったぁ」

 にっこりと笑って、湯船に近付いて来た。


「あん、ケント詰めてよ」

「ああ。ちょっと待て、入る前に掛け湯をしろ」

「カケユ? 何それ」


 通じなかったらしく、構わず入って来た。

 仕様がないやつだ。この形の良い尻に免じて、赦してやろう。


「ちょ! 熱くない?」

「しばらくしたら慣れる」

「そう?」


 湯船の壁にぴったりとくっつくと、リザがこっち向きになる。屈むと巨乳が強調される。ザーと湯が溢れる。


「うーん。いい形だ」

 とりあえず、気に入っていることをアピールしておこう。腕を伸ばして、軽く掴む。圧を加えると面白いように形が変わる。


「ふふん。でしょう。デカければ良いってものじゃないのよ」

 これは、エマへの対抗(嫉妬)心だな。


「気分はもう良いのか」

「気分? ハァァ。大丈夫。魔法士はぁ、アフゥン……状態異常が治りやすいのよ」

 状態異常ねえ。

 眉根を寄せ始めた。やはり尖端がポイントだな。


 しつこく弄び続けていると、リザの息が上がってきた。手を離す。


「えっ、終わり?」

「茹だるからな。外で洗う」

「ああ、アタシが洗ってあげる」


 おおっ、すげぇ。

 湯船から出るとゴボゴボと音がして、像の口から湯が出て来た。水位維持機能があるのか、魔導具らしい。


「あっ、石鹸がある」

 像には興味を示さないリザが声を上げた。


 そういえば、スイートのシャワーは、石鹸じゃなくて何かの粉が入った袋だったな。湯に漬けると少し泡が立ったやつ。あれはあれで、洗浄効果があるらしい。


 ふむ。離れの風呂には、石鹸が置いてあるのか。宿賃が倍以上だからな。

 しかし、石鹸かぁ……雑貨屋で普通に売っていたが、少し獣臭かった。


「これ、花のにおいがするよ」

「へえぇ」

「高級品だわ。たぶん、1個数セルク(数百円見当)はするんじゃない?」


 木の椅子に座って居ると、リザが背後に回った。


「泡立てるから、ちょっと待ってね」

 シャバシャバと水音がして、しばらくすると、背中にぬめぇっとした感触が来た。


「おい、何しているんだ」

「ええぇ? 娼婦のお姉さんが、男の人はおっぱいで洗ってあげると喜ぶって言ってたけど、嫌だった?」

 リーザがシャワーでやったのも、それか。


「いや、嬉しいけど、そういうことではなくてだなあ」

「さっきはケントだって揉んだじゃない。あぁぁん。あっ、アタシも気持ち良いし、いいじゃない。本当は男が寝そべって、その上で女が身を捩るんだって」

 こっちにも、そういう技術があるのか。


 しかし。荷馬車にいた娼婦達はなんなんだ! 今のリザならともかく、あの時のリーザに何吹き込んでいるんだ。まったく。


「そういえばさ」

「ん?」

「ケントは、剣術を向こうの世界でやってたの? エマにははぐらかしていたけどさ」


 帰り道で、エマが、ケント様は腕が立ちますねえ、前から剣を使って居たのですかと訊いていたのが気になったのだろう。


「やっていたと言うには、木っ恥ずかしくてな」

「じゃあ、やっぱり」

「まあな。俺の爺さんが、古武術をやっていてなあ」

「爺さん。コブジュツ?」

 通じないか。


「剣だけでなく槍とか、鎖鎌とかの武術だ。道場の師範だった」

「クサリガマは知らないけど……じゃあ、お爺さんに習ったんだ」

「ああ」

 背中に色んなところ押し付けて貰いながら話す話題じゃないな。


「道理で、腕が立つわけね」

「いや、やっていたのは、11歳位までだ。全然なってない」


 ざっとした理論や、雰囲気が分かるだけだ。小学生にしては断然強いと爺さんの門弟達が言っていた。だが、実戦は初めてだしな。そもそも、魔鉱獣相手でなくて対人の武術だ。


「そうかなあ。アタシが見ても随分強いけどなあ」

「こんなことになるなら、引っ越してからも続ければ良かった」

 嘘だ。

 その前に、子供心に絶望というか幻滅したからな。たとえ引っ越さなくても続けてはいなかっただろう。


「ふーん。ああ、背中は綺麗になったから、こっち向いて」

「ああ」

 振り返ると、リザの胸やら腹が泡だらけだった。


 おぉふ。リザが抱き付いてきた。俺も抱き締める。

 尖りが。


「それじゃあ、洗えないよう」

「わるいわるい」

 腕を緩めると、リザが円運動を始めて愉悦が込み上がってくる。


「11歳で止めたのは、お爺さんと喧嘩もしたの?」

「喧嘩だったら良いんだけどな」


 ある女の顔が脳裏に蘇った。造作は整ってはいるが、酷く醜い表情。俺がイメージの中だけで歪ませたのかも知れない。

 引っ越してから、一度も会っていない。もう忘れたつもりだったんだがな。


 あの日以来、武術に対してやる気がなくなったんだ。

 だからといって、何をやるわけでもなく。お陰で、中学、高校とずっと帰宅部だし。

 良くグレなかったものだ


「あぁぁ気持ち良ぃ。これからもケントのことを聞かせてね。エマだけに教えたら嫌よ!」

「じゃあ、ベッドでな」

「もう。ケントのスケベ!」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2022/10/22 少々表現変え

2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)

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