29話 クラン結成
日曜日も投稿してきましたが,正式に水土の週2回投稿に致します。
「うーむ。クラン名なあ。どうしような」
「ああ……ケント様が決めて下さい」
リザの眉が上がる。
「ちょっと、エマ! 聞こえは良いけど、自分は考えないってことだからね、それ!」
「むぅ……一利ありますね。リザ。何か良い案を持っているって表情ですが?」
「もちろん! アタシは天才だからね。言うわよ。ケントと情婦達。どうよ?」
ドヤ顔だ。
「じょ、じょ、情婦?!」
あぁ……。
「そっ、そんな、いかがわしい名前は却下です!」
うんうん。同意だが、エマも真っ赤になることでもないぞ。
「なぁにが、いかがわしいよ! アイちゃんが、言っていたわよ。エマは、昨夜悶々としても眠られなかったって! その人が、いかがわしいだって、プッ」
「このぅ……リザが、夜中に変な声を出しまくるからでしょう!」
ああ、あの耳は聴力が良いのかな。
「そりゃあ、しょうがないわよ。だって、ケントがうま「その辺にしておけ! 2人とも。今はクラン名だ」」
「だから、ケントと……」
「却下だ。ギルドの窓口で呼ばれたら恥ずかしいだろう。呼ぶ職員にも迷惑だ」
「アタシは恥ずかしくないけど。まあ……職員はそうよね」
「情婦は論外ですが、ケント様のお名前を冠するのは悪くないですね。ならば、ケント騎士団というのは、いかがでしょう」
「騎士は、エマだけでしょう?!」
「そうだな。騎士団というと、どうも公の団体ぽく聞こえるよな」
「むぅ。だめですか」
苦情が出そうだ。
「うーむ。ケントも案を出してよ」
「そうだな。俺の名前か……名前は、もうひとつある。三浦だ」
「ミュラーかぁ」
どうしても、そうなるのか。
「そのままだとな……ミュラーズにするか?」
「ミュラーズ。語感は良いわね」
「だろ?!」
何ミュラーズがいいかな。ア●ナ・ミュラーズ。いやいや、ふたりの胸を見ながら発想したらおかしくなる。
「なるほど。ケント様の家名を戴くのですね」
「ああ」
「ちなみに、最後の”ズ”とは」
エマが真顔で訊いてきた。訳されていないのか。まあ固有名詞だしな。
「最後のズは、俺が居た世界の複数形を指す発音だ。チーム名でよく使われる」
「ありがとうございます。よく分かりました」
「家名で、その一員。じゃあ、ケントの家族になるってことね! いや妻、妻だわ!!」
リザが、顔を押さえて悶えた。
「いいですね!」
エマも乗っかった。
「うぅむ。やめようかな」
「ダメよ! 男が一度、口にしたんだからね」
「はいはい。でもそれだけだとな。前に何か付けた方が良くないか? なんとかミュラーズみたいに」
「要らない要らない。ねえ、エマ」
「そうですね。不要かと思います」
おまえら……。
「わかった。ミュラーズにしよう」
「やったぁ!」
「ですね」
2人ががっちり握手した。おまえら、本当は仲良いだろう?!
「失礼します」
タイミング良く、出納係が戻って来た。
「クランの名前は決まりましたか?」
「ああ」
†
ギルドの手続きを終え、エマ加入の歓迎会をやることにした。
ただ問題がひとつある、場所だ。
「なあ。1つ訊きたいのだが」
「なに? 「なんでしょう?」」
リザとエマが同時に答えて、微妙に気まずい。
「ああ。この世界では、飲酒は何歳から許されるんだ?」
視線を逸らせていた2人が、顔を見合わせる。
「どういう意味?」
「は?」
「あのう。ケント様。なぜ、年齢を?」
「いや……」
「確かに余り幼少期から飲むのは、憚られるところがありますが」
「それで、大体の線は?」
「決まってないわよ。アタシは飲んだことがないけど。そういえば、このまえも、大人に成るのは何歳だと訊いたわよね」
代官所に行く前に訊いた。その時は。
『子供が作れるようになったら、もう大人よ!』
なぜか、リザは胸を張っていた。
代官もリザよりは幼そうなリーザを見て認めていたから、間違っては居ないのだろうが。もうひとつ釈然としない。
「そうですね。強いて言えば、1人で食い扶持を賄えるか、金を稼げるようになったら、飲んでいても特に何も言われませんね」
「そういうものか」
「おかしいわよ。ケント」
「ん」
「だって、大人に成るのだって、成長は人それぞれだし。そもそも、サピエンだけじゃなくて、エルフも居るし……リカントだって」
そうか。
種属が違うからな。年齢で一律には決められないか。
そう言われてみれば、地球でも国によって違うしなぁ。
「わかった。じゃあ、バーにしよう」
「はい」
「えぇぇ、聖職者が飲むの?」
リザが嫌味を言うと。
「もう還俗しましたから。リザこそ、飲んだことないんでしょ!」
「ないけどさ。飲んでも良いよね、ケントぉぉ」
「ああ。2人とも飲んで良し! ただ最初は自分の限界が分からないから、ゆっくりな」
「うん」
「承りました」
俺も油断は禁物だ。
そうやって、このバーに来たのだが。
限界を見極めつつ飲むなどという殊勝な考えは、30分しか持続しなかった。
結局3人とも大いに喰い、大いに飲んでしまった。そして宿に戻ることになったが。
エマは千鳥足気味だし。リザは俺にしなだれ掛かって歩くのがやっとだ。
それでも近かったのでなんとか宿に着いた。
「替わりましょう」
リザをエマに渡す。
「うぅむ」
フロントへ行って、鍵をもらってきて、リザを受け取る。
「ああ、エマ!」
「はい?」
「そっちじゃない」
階段を昇ろうとするので止める。
「いえ。合っていますよ。酔っていてもそれぐらい、ウッフ」
「そうよ。上よぅ! ねえぇぇ」
俺に抱き付いているリザも肯定する。酔ったら余計仲が良くなったようだ。
「そうじゃなくて、部屋を変えたんだ。まっすぐ行って一旦外だ」
「はえ?」
そう。スイートから離れに変えて貰ったのだ。
外に出て、50m位歩いて、生垣を回り込むと離れがあった
鍵を開けて中に入ると、煌々と魔灯が点いている。魔灯は小さい魔石で出来た照明器具だ。暗くなると自動的に灯りをともす優れものだ。
「おおう。豪勢ですねえ」
「まあ、多少はな。風呂もあるぞ」
「フロ?」
「お湯に浸かれる浴室だ。リザは酔っていて危ないから明日な」
えーと。左は1人部屋か。もうひとつ向こうもシングルがあるが。
「今日のところは、エマはここで寝ろ。ほれ、エマの荷物だ」
預かっていた物を保管庫から出してやる。
「ありがとうございます。あれ、えっ? あのう、ちゃんとした寝室のように見えますが」
「当たり前だろう、正式メンバーになったんだ。いつまでもソファーで眠らせるわけにもいかない」
仕事に関わる衣食住は、クランで持つことにしたからな。
「ああ、ありがとうございます。ううう……」
泣き上戸かよ!
「あのう、ケント様は?」
「確か、突き当たりが2人部屋だ。そこで寝る」
「リザと一緒にですか?」
「そっ!」
覚束ない足取りの割に、ご機嫌だなあ。
それを聞いたエマは、反論もせず、さめざめと泣き始めた。
「……では。また明日」
「おう、じゃあな!」
「よぉし、夜はこれからよ!」
「リザも、酔っ払っているんだから、大人しく寝ろ!」
「えぇぇ……」
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訂正履歴
2022/10/19 若干加筆
2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




