22話 リーザが妖しい
新婚……いいですねぇ。
「……ト様、ケント様!」
ん……。
少し覚醒して薄く目を開けると、すぐそこに顔があった。
腕に力が籠もる。
「キャッ!」
あれ、この声は……。目一杯、瞼が開く。
「おおぅ! リーザだったか、すまん」
抱き付いた腕を放して、何が悪いのだっけと考える。
「いいえ。こちらこそ、大声を出して申し訳ありません。突然だったので、びっくりしただけです。あのう、よろしければ、そのう……続きを」
可憐な唇を突き出してきた。
「あっ、ああいや、うん。もう朝なのか?」
ランプは消えていたが、窓の板戸の隙間から陽光が漏れ出ていて、そこそこ明るい。
「あぁ……はい。7時の鐘がついさっき鳴っていました」
何だか残念そうだ。
「で、では。こちらにお召し物を用意してありますので、起きて下さい」
おおう。何だか、新婚みたいで良いなあ。
昨夜とは、奥さんの見た目が違うが。リーザはリーザで、ほっそりとしていて、幼妻感が高い。
それにしても、眠い。
あの後、アタシが攻める番なんて言い出したので、ふざけるなと組み伏せてヒーヒー言わせてやったのは良かったが、おかげで寝不足だ。
「あのう……」
なんか、リーザが切迫している様子なので起き上がる。
眩しい!
ベッドを降りて服を着ていると、リーザが窓を開けた。そして掛け毛布を捲る音がする。
「ああ、やっぱり?!」
なんだ?
見るとシーツに赤黒い染みが点々と線上に付着している。
「ああ、俺の背中の傷から滲んだのか、こんな下の方にも?」
リーザの顔が真っ赤になった。
それから、ごにょごにょっと詠唱が聞こえ、ベッドが光った。
「あぁ、消えない……もう1回!」
もう1回もう1回と、何回か断続的に光っていたが、それが止んだ。
「はあ、やっと綺麗になっ……」
バサッと音がして振り返ると、ベッドにリーザが突っ伏していた。
「えっ? おい! 大丈夫か?」
細い肩を掴んで起こすと白目を剥いている。
『ああ、リーザのMPが底を突いていますね』
「そんな馬鹿な! 今の魔法で?」
気絶しているらしい。
『まあ、シミ抜きの魔法は生活魔法の中ではMPを消費する方ですが』
「いや、それにしても。昨日、魔法士がレベル29になってMP最大値も相当上がったよな。寝たから回復しているはずだろう?」
『おや?』
「どうした?」
『リーザの天職が、魔法士ではなく回復神官になっています。レベルは10です』
「はっ? えっ!」
『リザとリーザが別のステータスとは。これは興味深いですね』
「本当かよ。回復魔法はリーザの方が得意だとって言ったのは、そういう意味か」
『そうです。天職で言えば、リザは攻撃系で、リーザは回復系です』
人格が入れ替わると、ついでにクラスチェンジするのかよ。
おっと納得している場合じゃない。リーザが喘いでいる。
「で、どうやったら治るんだ?」
『魔力を使いすぎただけです。このまま寝かしておけば、いずれ治ります』
「いずれって……苦しそうだし、早く治してやりたいだろ!」
『ああぁ。マナポーションを飲ませば治ったって例がありますね』
「マナポーションか……」
『ご主人様、出掛けるのですか?』
「ああ、持っていないから、買いに行ってくる」
この前、そう遠くない雑貨屋で売っているところを見たからな。
『過保護ですねえ! ああ、でもマナポーションより手っ取り早い方法を思い付きました。出掛ける必要がないかも知れません』
「そうなのか?」
座り直す。
『結局、MP切れのショック状態ですから、ご主人様から魔力を譲渡すれば、効果のある可能性が高いでしょう』
なるほど。って、さっきは分かっていて、わざと言わなかったな。
俺は魔法士クラスや回復神官クラスを持っているから、魔法が使える……はずなのだが。自分以外にはあまり効果が無い。昨日、帰りの道すがら、リザに教えて貰いながら試してみたのだが、少なくとも攻撃魔法は全く発動しなかった。
ただ、魔力譲渡についてはアイが俺に発動させている。さっさとやってみよう。
リーザに手を翳す。
「いと深き慈愛を分け与えん!」
≪魔力譲渡!≫
『だめですね。全然魔力が移動しません』
「くそぅ」
リーザの痙攣が止まらない。哀れになって、抱き締める。
≪魔力譲渡!≫
同じ魔法の繰り返しでは、詠唱が不要だそうだ。
「うぅ……」
『あら?』
「どうした?」
『少し効きましたよ、ご主人様!』
「本当か?」
『普通では考えられませんが。ご主人様の場合は肌で触れている必要があるようです。ガルヴォルンとの契約の時もそうでしたし』
≪魔力譲渡!≫
『うーむ。やはり、大して効いていません。もう放っておいたらいかがですか?』
もしかして。
俺はリーザのブラウスを脱がす。
リザよりは白っぽい肌。今はそれどころじゃない!
抱き締め直し……。
≪魔力譲渡!≫
『おおぅ。効いています効いています。なるほど、接触面積の問題ですか。もっと接触箇所を!』
これ以上?
俺も上を脱ぎ、裸になって抱き付く。
≪魔力譲渡!≫
夢中になった俺は、リーザを押し倒し、蕾のような唇を明けさせ、吸い付くと唾液を流し込んでいた。
ん?
んん?
気が付くと背中に回された腕が、俺を優しく締め付けていた。
肩を持ってリーザを引き剥がす。
「リーザ、治ったのか?」
痙攣は止まり、平静に戻った気がするが。
「はい。だいぶ楽になりました。ありがとうございました。せっかくなので、このまま夜伽を……」
「夜伽?! いや、もう日は昇っているし」
下瞼に見る間に涙が溜まり、リーザが泣き始めた。
「こんな貧相な躰では駄目ですか?」
「いや、そういうわけでは……うっ」
また抱き付かれた。
さっきは治療だし必死だったけれど、こうやって抱き付かれると催してくるものがある。
「貧相じゃない、立派なものだ」
引き剥がして、反論する。
リザと比べたら、まあボリュームでは劣るが。胴回りが細っこいからカップで言ったら結構なサイズだろう。スレンダー美乳だ。
なぜか先端が尖っているし。
しかし……ん。
リーザが俺の手を取ると自分の胸に宛がった。おいおい。
何か、頭に血が上る。
「じゃあ、お願いします」
待て待て、なんでこんなに積極的なのだ?
なんだか、おかしい。人格が変わっていないか?
「とりあえず、夜にしよう。夜だ!」
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訂正履歴
2022/10/05 微少に変更
2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




