20話 誤算
誤算の上に誤算を重ねて生きてますけどねえ……
思うところが有りまして、本作の題名を変えました。
色々バタバタしまして申し訳ありません。
マンティコアを狩ってからも、別の魔鉱獣の小さい群れをいくつか斃した。
当初戦闘の度にリザはレベルアップしていたが、次第に頻度が減っていった。俺と同じだ。
今日戦闘したのはレベリング目的ではなく、とりあえず1回経験を積ませるためだったので、まだ日は高いが町に戻り、その足で冒険者ギルドに直行した。
ギルマスは別の接客をしていたが、アデルさんに会うことができた。
応接室に入る。
「昨日は、本当に世話になった。感謝する」
アイに警告されていたので、不本意ながら偉そうに礼を言う。
「ありがとうございました」
リーザは深く頭を下げた。
「まあまあ。お掛け下さい、お茶を淹れましょう」
それはマズい!
「ああ。いや、お茶は!」
激甘汁は勘弁だ。
「ふふふ。じゃあ、お水でも」
うれしそうだ。昨日は本当に砂糖を半分にしたのか?
水を出して貰って、ソファーセットで向かい合う。
アデルさんは、艶っぽい笑顔だ。
「ああ。本題の前に昨日の礼金を……」
「お金は、必要ありません」
「えっ?」
「ケント様は、同じエルフと昨日仰いました。その通りです。エルフ族は社交性に乏しく同族同士で固まり、サピエン族が居る所にはあまり居ません。私たちは、助け合っていくべきなのです」
「あっ、ああ……」
協力して貰いたい一心だったが、圧を掛けてしまったらしい。
「よって、お礼は頂きません」
「そうか……」
頭を下げる。
「うふふ。それより、ちゃんとリーザさんに服を与えたのですね」
「はい。仰った通り、ケント様は別にローブを仕立てるお金も出して下さいました」
「やはり、見込んだ通りの方ですね。良かったわね」
「はい」
「ああ……それで、今日はリーザを冒険者登録させようと思って」
リザだと何かと問題になるかも知れないので、リーザで登録することにした。
「リーザさんの初戦闘は?」
「済ませてきた」
「手回しが良いですね。わかりました。昨日申し上げた通り、リーザさんの場合、登録料の他に保証金が掛かりますが、よろしいのですね?」
冒険者ギルドは、身分が自由民でなくても登録できる。特典も同じだ。ただし、奴隷の場合は、2年間30ヴァズの保証金が必要となる。無論その金は、主人が出すことになる。正当な理由なくギルドの活動を中断すると、保証金は没収されるという制度だ。
これは、主人の心変わりなどで、そのような状況に陥らないための牽制らしい。
なお、今はD級だが、B級となるか、登録から2回更新して6年が経過すると、保証金は返還される。
ちなみに登録料は、俺が免除された適性試験を受けるので、自由民と変わりないそうだ。実戦経験がないと、さらに基礎訓練が必要で、時間と料金も別途必要となる。
「もちろんです」
「では適性検査を受けていただきますが。まあ、D級ですから、余程虚弱な体質でもなければ不合格となることはありません」
†
俺の同席が必要な手続きのあと、リーザをアデルさんに任せ、別途俺は青銀の買取を頼んだ。
その後、しばらくロビーで待っていると2人が別室から出てきた。
「ケント様、お待たせしました。無事ギルド員登録されました。見せて差し上げたら?」
「はい」
アデルさんに促されて、リーザがこちらへ手の甲を見せると、そこに扇形の登録証が表示された。
俺の登録証にはない項目、身分:奴隷、所有者:ケント・ミュラーと記されている。
リーザの特殊体質が、少し心配だったが問題なかったようだ。
「アデルさん。礼を言う」
「はい。では、私は仕事に戻ります」
階段を昇っていくアデルさんを見送る。佳い腰回りだ。親切だし、茶の好み以外は完璧なのだが。
ギルドを出た。
「ケント様」
リーザの足が止まった。
「どうした」
「登録料と保証金を出して頂き、ありがとうございます」
「いや。リーザも冒険者になっておいた方が良いからな」
「それで、本当に代官所へ行くんですか?」
「ああ。まだ4時前だ、役所も開いている」
「あのう、私……はい」
気が進まなそうだったが、諦めたように頷いた。
リーザを冒険者登録した理由の半分だから、行かないという選択肢はない。
†
代官所に行くと、すぐに応接室へ通された。なかなかな良い待遇だ。
しばらく待っていると、アバース代官が役人ぽい1人と入って来た。
俺も立ち上がる
「時間を取って貰って申し訳ない」
「いえ。他ならぬ、ケント殿のことですから。どうぞお掛け下さい。それで今日はどういった件でしょう?」
「ああ、リーザを奴隷から解放しようと思ってな。どういった手続きをすれば良いか、教えて欲しい」
「リーザ? ああ。あの子は元気にしていますか?」
「は?」
ああ、そうか。
「えーと。信じにくいと思うが。俺の隣に立っているのは、代官殿が知っている、あのリーザなんだ」
眉根を寄せた代官は、彼女をまじまじと見た。
「ははは、ご冗談を。確かにこちらもエルフのようですが、首に填まっていた大きな環もないし、そもそも年齢がまったく……5歳や6歳は老けて見えます」
そうだよな。
「冗談ではないんだ。首輪を外したら、急に成長したのだ。リーザ、あれを」
「はい」
手の甲を差し出すと、その上が光った。
「ああ、冒険者ギルドの登録証ですな」
「さっき登録して貰ったばかりだ」
「確かに、リーザ……名前は同じようですな」
「むう」
そう来たか。
立場が逆なら、俺もそう簡単には信じられないだろうし。とはいえ、これ以上証明するための材料がないんだが。
「仮にその娘が私の思っている者と同一人で、年齢は良いとして……」
「ん?」
話が進んだ。アイにビビっているとかか?
「奴隷の保持期間が2年に満たない条件で解放する場合は、人身売買の擬装を防ぐため、解放時点の所有者とは3年間接触禁止になります。したがって、ケント殿とその娘は別れ別れになりますが、よろしいですか?」
「いやです!」
おおぅ。リーザが大声を出した。
「すみません。でも、私は生涯掛けて、ケント様にお仕えしたいのです。別れ別れなど考えられません」
「しかしだな」
「ケント様は、ちゃんと引き取ると仰いました」
「確かに言ったが、あの時と今では」
「私のことが嫌いになったのですか?」
「そっ、そんなことはない」
「あのう……」
代官だ。
「ああ、すまない」
「お話を総合すると、2年待てば良いのです。接触禁止制限は解除されます。また、ギルド員となったと仰いましたが、登録日は今日。しかも、D級となると、安定的な収入が見込めません」
「むぅぅ……」
2年か。
「ケント様」
「ん?」
「私は、主人がケント様であれば、奴隷でも望むところです。心からお仕えしますので」
いずれにしても、今は無理だな。
「わかった。手間を取らせて済まなかった。代官殿」
「いえ。また、いつでもお越し下さい」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2022/10/01 くどい表現回避、少々加筆
2022/10/05 誤字訂正
2022/12/21 誤字訂正(ID:371313さん ありがとうございます)
2023/09/15 誤字脱字訂正(ID:1576011さん ありがとうございます)




