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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『空飛ぶウサギが来た編』
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77 兎園パティシエ

 気絶をしたネージュが目を覚ましたのは人間族のマサキの受付を終わらせてから一時間後だった。


「やっと起きたか。いきなり気絶したから心配したんだぞ」


「あ、あれ……私……いつの間に……気絶……」


 ネージュは不思議そうに辺りを見渡している。ネージュの青く澄んだ瞳にはマサキとダールそして耳が大きなウサギの姿が映る。

 ネージュは自分がなぜ気絶していたのかということを覚えていないみたいだ。それほど衝撃的な事が起きていたということになる。

 ネージュを気絶させた原因のマサキも覚えていないのでそれはそれでよかったのかもしれない。一部始終を見ていたクレールとダールが黙ってさえすればそれでいいのだ。


「そ、そうだ。ウ、ウサギさんは?」


「まだいるよ。俺から離れてくれないから、中に入って家族とか仲間たちのところまで連れて行ってあげようと思ってるところ。さすがに家族と会えばそっちに跳んでいくと思うんだよね」


 マサキの左腕の中にはまだウサギが抱き抱えられていた。

 ネージュが気絶していたので手を繋いでいるマサキは移動する事ができなかったのである。そしてウサギもマサキからは離れようとしないので受付の前から一歩も動けずにいたのだ。


「私が気絶してしまったあまりに……待たせちゃってごめんなさいね」


 ネージュはマサキの左腕の中にいるウサギの頭を優しく撫でた。そして大きなウサ耳の付け根辺りを掻くようにして撫でている。

 ネージュもウサギと同じ垂れ耳だ。そこがウサ耳の付け根辺りが気持ちいいことを知っているのだ。


「ンッンッンッ!」


 ウサギは無表情だがいつも以上に声を漏らしていた。ネージュに撫でられて上機嫌なのだろう。


「それじゃあネージュの姉さんも起きたことッスし中に入るッスよ!」


 ダールが元気よく指揮を取った。そうでもしないとマサキとネージュは再び怯えだして情緒不安定になりかねないからだ。だから少しでも明るい気持ちで臨もうとしているのである。


「はい。入りましょう!」


「ンッンッ」


 マサキたちはウサギたちがいるエリアのフェンスの扉の前へと向かった。その扉には鍵はかかっていないが二重の扉になっている。ウサギが逃げ出さないように工夫されているということだ。

 マサキたちがウサギのいるエリアに入るときに声がかかる。


ウサギ(ソイツ)を見つけてくれてありがとうよ。気が済むまでもふってってくれ」


 声をかけたのは受付にいる園長のマグーレンだ。怖そうな顔のおじいさんだが優しく温厚な声でマサキたちに声をかけた。


「はいッス!」


 ダールが元気よく返事をした。

 マサキとネージュはというとおじいさんのかけてきた声に驚いて震えてしまっている。しかしかけてきた声が優しかったのでその声に無視する事なく震えながら会釈で答えた。

 その会釈を見てニッコリと微笑む兎園(パティシエ)の園長のマグーレン。そしてマサキの左腕の中にいるウサギに向かって手を振って見送った。


 マサキたちはマグーレンの見送りを受けて兎園(パティシエ)のウサギがいるエリアへと入っていった。


 兎園(パティシエ)は円形の土地を十メートルほどもある石の壁で囲んでいる。マサキたちが入っていったウサギがいるエリアはその土地の約八割を占めている草原だ。残りの二割の土地はマグーレンの家と先ほどの受付そしてエントランスだ。


 兎園(パティシエ)兎人族の国(キュイジーヌ)とマグーレン一族が共同で運営している施設だ。

 三千年前の大戦争『亜人戦争』が終結した後に建てられた施設で先祖代々マグーレン一族が管理している。


 兎園(パティシエ)が建てられた理由はウサギが魔獣に襲われて食べられてしまわないようにウサギを守るため。そしてウサギに何一つ不自由のない暮らしを送らせるためだ。

 これも全て兎人族がウサギを愛しているからこそ作られた施設なのである。

 なので兎人族の国(キュイジーヌ)に野生のウサギは存在しない。


 ペットとして飼われているウサギは存在するが国の条約上ウサギは室内でしか飼うことができないことになっている。

 そしてペットとしてウサギを飼う方法は一つしかない。それは兎園(パティシエ)でウサギを選び手続きをすること。無断で飼うことは国の条例で禁止されている。

 なのでウサギを見つけたら兎園(パティシエ)に届けなければならないのである。

 これも全て兎人族がウサギを愛しているからこそ作られた条例なのである。


 異世界転移して百二十五日目のマサキだが、施設と条例があることによって、この世界でウサギを見たのは左腕の中にいるウサギが初めてになるのだ。

 そしていよいよマサキは左腕の中にいるウサギ以外のウサギと対面することになる。


「す、すげー広ーい! ウサギがいっぱーい!」

「すごいです! あっ、ウサギの群れですよー!」


 マサキとネージュは広大な草原とウサギの群れに感動している。


「そのリアクション。もしかしてネージュも初めてなのか?」


「いいえ。私は小さい頃におばあちゃんに連れていってもらったことがありますよ。でもテンションは上がりますね! ウサギさん可愛いです!」


 ネージュは青く澄んだ瞳を輝かせながらウサギを見ていた。今にもウサギと同じようにぴょんぴょんと跳び跳ねてしまうのではないかと思うくらいテンションが上がって胸を躍らせていた。


「デールとドールにも見せたかったッス! 今度学舎が休みの日に連れてきてあげたいッス!」


 ダールは妹たちのことを思い浮かべながらウサギを見ていた。


「な、なんかここ、ふれあい型の動物園って感じだ。ウサギもふり放題なんだよな。あっそうだ、エサとかってないの? 渡したりできない感じ?」


「エサはあっちの小屋にいっぱいあるぞー! 自由に渡していいんだぞー!」


 マサキの素朴な疑問に答えたのは先ほどまで透明だった薄桃色の髪の美少女クレールだ。

 ウサギのエリアに入ったことによって受付の園長の視線を感じなくなり姿を現したのである。

 そんなクレールは細い人差し指で小屋を差している。そこにウサギのエサがあるのである。


「マジか。エサあるのか! でも……ネージュと手を繋いでて離せないし、左腕にはウサギちゃんが……」


 マサキの右手はネージュと手を繋いでいる。左腕ではウサギを抱っこしている。エサをあげるどころかウサギを触ることすらできないのである。


「ウサギちゃん。もう中に入ったんだからいい加減下りてくれよな」


 マサキはウサギを左腕から下ろそうと挑戦するがウサギは断固拒否。全く離れようとしない。


「ンッンッ!」


 ウサギの漏れる声が少しだけ大きい。何かを訴えているようにも思えるが、ウサギの無表情からは何を訴えようとしているのかは全くわからなかった。


「このウサギの楽園を見るだけだなんて……あぁ……いろんなウサギもふりたかった……エサもあげたかった……」


 マサキは自分だけウサギを触れないことに対して落ち込んでしまった。そんなマサキにネージュは優しく声をかけた。


「大丈夫ですよ。この子の家族が見つかればきっと離れてくれますよ。今は家族から離れてしまって怯えてるのかもしれませんよ」


「そ、そうだな……そうだよな。よし! いろんなウサギを見ながらウサギちゃんの家族を探すぞ!」


 ネージュの説得力のある言葉にやる気を出したマサキは歩き出した。それに続いて手を繋いでいるネージュも歩く。その後ろをダールが付いて行く。

 ここでマサキはクレールがいないことに気付いた。


「あ、あれクレールは? また透明になった?」


「クレールの姉さんはあっちッスよ!」


 ダールが指を差す方を見るとウサギに群がられているクレールの姿があった。

 クレールはマサキたちよりも先にウサギの元へ行っていたのである。


「あっはっはっは! もっふもっふだー! もふもふーもふもふー!」


 クレールはウサギに群がられてとても幸せそうな表情をしている。無邪気な子供の純粋無垢な笑顔。見ていてほっこりする光景だ。


 兎園(パティシエ)にいるウサギはありとあらゆる種類いる。もしかしたらウサギと呼ばれる種類のウサギは全ているかもしれない。否、全ている。

 ホーランドロップイヤー、ネザーランドドワーフ、レッキス、ミニウサギ、アナウサギなどの有名なウサギからライオンラビット、フレミッシュジャイアント、イングリッシュロップイヤー、アンゴラウサギなどの珍しい種類などもいる。

全種類のウサギがこの兎園(パティシエ)で暮らしているのである。その数、九百三十二羽。


 そして種類だけではない。カラーもそうだ。ホワイト、ブラック、オレンジ、グレー、ブルー、チョコレート、ライラック、ブロークン、セーブルポイントなどウサギの種類ごとに様々なカラーのウサギが存在している。

 カラーも全色あるだろう。


 中にはこの世界の独特な色をしたウサギやこの世界だけの種類のウサギも存在している。

 異世界人のマサキにとっては夢のような場所なのである。


「そ、そうだ。何も自分から触りにいかなくてもいいじゃないか。クレールみたいにウサギから群がってくれればいいんだ。よし! ネージュ! あっちのウサギがいっぱいいる方で寝っ転がるぞ!」


「は、はい! もしかしたらこの子を知っているウサギさんがいるかもしれませんしね! 行きましょう!」


 マサキとネージュはウサギの魅了にされて走り出してしまった。


「ンッンッ」


 マサキの左腕の中にいるウサギはマサキが走る振動を感じて声を漏らしながら揺れていた。


「兄さん姉さん! アタシはエサを持ってくるッスよー!」


「おう! 頼んだぞー!」


 ダールはぴょんぴょんとスキップをしながらウサギのエサを取りに小屋へと向かった。


 ウサギの家族探しと無人販売所イースターパーティーで働く四人は一時(ひととき)極楽時間(リラックスタイム)を送るのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


兎園にいるウサギは作中にも飼いてある通り932羽です。

これはマサキが抱っこしているウサギも含めての数です。

この数字は無理やり語呂合わせしたものです。

ウサギを無理やり語呂合わせ。932になりました。

キュウの「ウ」。サンの「サ」。ギの部分は一番発音が近い2「ニ」です。


ウサギの数え方で「匹」なのか「羽」なのか「頭」なのか考えることありますよね。

ウサギの数え方の正解は上で表記した全てだそうです。

「羽」と数えるイメージがありますが実際には使われることが少なく「匹」がほとんどです。

ただ一つだけ正解を言うのならばやはり「羽」が数え方として一番正しいみたいですよ。

それにはいろんな諸説があって一概には説明できませんが、「羽」が正しいみたいです。

でも「匹」でも大丈夫です。

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