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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『空飛ぶウサギが来た編』
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76 受付

 マサキたち一行は、兎人族の森(アントルメティエ)から隣接する荒れた土地へ。さらにその先にある兎園(パティシエ)へと向かっていた。


「ンッンッ……ンッンッ……」


 マサキに抱き抱えられウサギはご機嫌なのだろう。マサキが歩くたびにその振動を感じて声が漏れていた。


 そして休む事なく歩き続ける事、三十分。ついに兎園(パティシエ)の入り口の門へと到着した。


「ここがパティシエか……想像してたのは広大な草原だったんだが……ここは、まるで要塞だな……」


 兎園(パティシエ)は石の塀で囲まれている。その高さ十メートルを超えるほど高い。

 そのそびえ立つ石の壁からマサキは要塞を想像したのである。


 この石の壁は兎園(パティシエ)にいるウサギたちが逃げ出さないようにと作られた壁だ。あまりにも高い石の壁はウサギどころか人間族すらも門を(くぐ)らない限り外へ出るのは困難だろう。


「中に入ったらおにーちゃんが想像してる草原が広がってるよー!」


「おっ、やっぱり草原あるよな。よかったよかった」


 そのままマサキたちは門を(くぐ)る。門を(くぐ)るのと同時にクレールは透明になった。中にいる兎人と会わないためだ。

 門を潜ると左側に受付、右側にはフェンスがありその奥に広大な草原が広がっていた。要塞のような石の壁は外の塀だけのようだ。


「アタシが受付してくるッス!」


 そう言って駆けて行ったのはダールだ。むちむちの太ももを揺らしながら受付へと走っていく。


「受付とかあるんだな。まさかお金とか取ったりしないよな?」


「お金は取られませんよ。ただ迷い込んだウサギを連れてきたら受付が必要なんですよ。どの子が帰ってきたのか、誰が連れてきたのかとかを把握するためだと思いますよ」


「そうなんだ。意外としっかりしてるんだな」


 兎園(パティシエ)にウサギを連れてきた訪問者は受付が必要になる。それ以外の場合は受付は不要。自由に兎園(パティシエ)に入る事が可能だ。ただし兎人族に限る。


「マサキの兄さん! 人間族は個人的に受付が必要みたいッスよー! こっち来て受付してくださいッス!」


「え……マ、マジで……受付しなきゃいけないのかよ……やばい。緊張してきた。息も苦しくなってきた……俺、門の外で待ってるよ……」


 マサキは受付をすることに対して緊張してしまいこの場から逃げ出そうと門の方へ振り向いた。そのまま受付とは反対の門へ歩き出そうとするがネージュがそれを阻止する。


「マサキさん。ウサギさんを返さないとダメですよ」


「そ、そうだった。そ、それじゃウサギちゃんを任せるよ。ネージュは手を繋いでるし、クレールは透明になってるからダールに任せるしかないな。それだったら俺は受付しなくてもいいだろ?」


「そうですけど……この子マサキさんから離れようとしませんよね」


「い、いや、今なら離れてくれるかもしれない。パティシエはウサギちゃんの家みたいなもんだろ? だったらもう俺から離れてくれるはず!」


 マサキはその場に座り込んだ。そして左腕で大事に抱えているウサギを地面に下ろそうとする。


「ンッンッ」


 ウサギはマサキの腕から離れようとしなかった。激しく抵抗しマサキの黒いジャージに爪を立てて絶対に腕から離れないと主張している。


「おいおいおいおい。勘弁してくれよ。ウサギちゃんの家だぞ。帰ってきたんだぞ。離れてくれよ……」


「ンッンッ」


「む、無理か……離れてくれないか……」


 ガッツリと爪を立ててマサキから離れないウサギ。さらにジャージに噛み付いている。相当離れたくないようだ。

 マサキも無理にウサギを下ろす乱暴なことはできないのでウサギを下ろすのを潔く諦めた。


「はぁー、受付に行くしかないよな……ところで受付って何すんの?」


「わかりません」

「わかんないぞー」


 受付が不要な兎人族は、兎人族以外がやる受付がどのようなものなのか知らないのである。


「マジか……事前に受付の内容を知っていれば少しでも緊張がほぐれると思ったのにな……やばい緊張してきた。というか受付の兎人族のおじいさんめっちゃ怖そうなんだけど……ウサギをパイにして食べてそうなおじいさんなんだけど……こ、怖……」


「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


「な、なんでネージュの方が緊張してんだよ……も、もう無理。お、俺も……ガガガガガッガガガガガガガガッガガガ……」


 ただ受付をするだけのことなのにマサキとネージュは緊張して小刻みに震えてしまった。

 受付をしなければならないという緊張感のほかに受付の兎人族のおじいさんの見た目が怖いという二つの原因で二人は怯えてしまったのである。


「兄さん姉さん何やってるんッスか……」


 小刻みに震えている二人をダールは呆れながら見ていた。そして二人に向かって歩いていく。


「兄さんのギルドカードあるッスか? それでアタシが受付してくるッスよ」


「ガガガッガガガガガガガガガガガガガガッガッガガガガ……」


 マサキは小刻みに震えながらギルドカードを取ろうとする。マサキの右手はネージュと手を繋いでいる。左手はウサギを抱っこしている。両手が使えないマサキは口でギルドカードを取ろうとしているのだ。

 マサキのギルドカードはネージュのブラウン色のロリータファッションのポケットの中に入っている財布の中にある。

 その財布が入っているポケットは胸ポケットだ。つまりマサキはネージュの胸ポケットに向かって顔を近付けているのである。

 マサキは緊張から頭が真っ白になりこのような行動に出てしまったのである。


「に、兄さん!? 何やってるんッスか!」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 マサキの顔はネージュのマフマフの上で弾んでいる。マサキ本人もそうだがネージュも小刻みに震えているのが弾んでいる原因だ。


(マ、マサキさん!? な、何を! わ、私の……私のマフマフに、か、顔を……マフマフに……か、顔を!)


(ネ、ネージュ動かないでくれよ。ギルドカードが取れないだろ……早くギルドカードをダールに渡して受付を終わらせたいのに……)


(な、なんか口を……口を……う、動かしてる? こ、こんなところで……マ、マサキさんは……な、何を! こ、こんな……大胆な……はぁはぁふぅ……)


(全然ギルドカード取れないんだが……ネージュどこにしまってんだよ……動いてて取りづらいし……)


 マサキは頭が真っ白でギルドカードを取ることに必死になっている。

 ネージュはマサキ顔がマフマフの谷間に入り込んでしまい恥ずかしさから顔が真っ赤に染まっていく。そして体がどんどんと火照っていき、のぼせたかのようになってしまった。


「は……は……はぁふうぅぅぅぅッ!」


 ネージュは羞恥に耐えられなくなり叫びながら気絶してしまった。


「兄さん離れるッスよ。姉さんが気絶しちゃってますよ! 兄さん! 兄さん!」


 ダールはマサキの頭を引っ張りネージュのマフマフから離れさせようとしている。ダールのおかげでマサキはネージュのマフマフから離れる事ができた。

 ネージュのマフマフから離れた瞬間にマサキは冷静さを取り戻す。


「あ、あれ? お、俺は何を? ってなんでネージュは気絶してるんだ?」


「に、兄さんって猛獣だったんッスね……い、意外ッス」


 猛獣のようにマフマフにがっつくマサキを見たダールは、顔を真っ赤に染め興奮しながらマサキを見ている。そして自分のマフマフを隠していた。


「も、猛獣? な、なんのことだよ。そ、そんなことよりもネージュ。おい起きろネージュ。大丈夫か? 緊張しすぎて気絶したのか……」


 マサキはギルドカードのことなどすっかり忘れて気絶しているネージュを心配している。

 マサキのせいで気絶したネージュだが、マサキ本人はそのことを覚えていない。なので小首を傾げて不思議そうにネージュを見ていた。


 ネージュからの応答はない。気絶しているので当然だ。

 そんな時、ネージュの胸元のポケットから財布がぷかぷかと浮いてきた。


「おっ、さ、財布……クレールか」


 透明スキルの効果で透明になっているクレールが財布を取ったのである。

 そのままぷかぷかと浮かんでいる財布からマサキのギルドカードが抜き出された。


「そ、そうだ。ギルドカード! う、受付!」


 マサキはぷかぷか浮かぶギルドカードを見て本来の目的を思い出した。

 そのギルドカードはダールの手元へと向かっていく


「クレールの姉さんありがとうございますッス! 兄さんの受付をしてくるんで兄さんが暴れないように見ててくださいッス!」


 透明状態のクレールからの返事はない。しかしぷかぷか浮いている財布が何度も左右に揺れているのでそれがクレールからの返事なのだとダールは受け取った。


「な、なんだよ暴れないようにって……俺がいつ暴れたんだよ。まあいいや。ダール受付頼んだぞ!」


「了解ッス!」


 ダールはマサキのギルドカードを持って立ち上がった。そして人間族のマサキの受付をするために受付へと向かって行く。

 マサキはダールが代わりに受付をしてくれる安心感からか体の震えが止まっていた。

 そして再び震え出さないように受付を見ないようにしている。なぜなら受付にはウサギをパイにして食べてそうな怖めの顔のおじいさんがいるからだ。


「ンッンッ」


 マサキの左腕に抱かれているウサギは無表情だったが、気絶をしているネージュを心配しているのかネージュの顔を見ながら声を漏らしていた。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


兎園の受付にいるおじいちゃんはマサキが言っているようにウサギをパイにして食べそうな怖い顔をしたおじいさんです。

顔のイメージとしましてはピー○ーラビットのマ○レガーおじさんのような感じです。


いよいよ次回は兎園の中へ!!!

ウサギはどうなるのか!?

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