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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『空飛ぶウサギが来た編』
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74 カオスな状況

 マサキとウサギは無表情のまま見つめ合っていた。


(なんでウサギが降ってきたんだよ。というか本当にウサギか? ウサギってこんなに耳が大きかったっけ? ネージュみたいに耳が垂れてるけどロップイヤーとかそこら辺の種類か……ってやばいやばいやばいやばいやばい。ネージュと繋いでた手を離しちゃってる!)


 ここでようやくマサキはネージュの手を離してしまったという重大なことに気が付いたのだ。

 マサキとネージュは外出中に手を繋いでいなければ平常心を保てない。だから外出中は常に手を繋いでいる。しかしその手が今離れてしまっている。


(で、でも俺はいつも通り落ち着いてる……震えてない……ネ、ネージュは?) 


 なぜだろうか。マサキはいつも通り平常心を保っていた。そんなマサキは相方のネージュが気になった。

 マサキはウサギの吸い込まれそうな漆黒の瞳から雪のように白い兎人族の美少女へと視線を変えた。


「ネージュ! 大丈夫か!?」


 マサキに駆け寄ってきたクレールとダールもマサキの慌てる様子から視線をネージュの方へと変えた。

 心配される側が心配しているという異様な光景だが、クレールもダールもマサキとネージュの手が離れていることに気付いたのである。


「おねーちゃん!」

「姉さん!」


 だからこそ無事であるとわかったマサキよりもマサキとの繋がれた手が離れてしまったネージュの方が心配になったのだ。


「え? み、皆さん……なんで私の心配を……大丈夫ですよ」


 ネージュはいつも通りだった。なぜ心配されているのかわからない様子で小首を傾げるがすぐに心配された理由に気が付いた。


「マ、マサキさんと……手を握ってない! は、離れてしまってます! た、大変……大変です! どどどどどどどうしましょう」


 意識してしまった途端ネージュは慌てだし取り乱した。しかしいつものように怯えて体が小刻みに震えたりなどしていなかった。


「ネージュ落ち着け。俺が大丈夫だからネージュも大丈夫なはず……」


 マサキはウサギを抱き抱えながら立ち上がりネージュに向かって右手を伸ばした。マサキとネージュの距離は約ニメートルほど。一歩踏み出し手を伸ばせば届く距離だ。

 ネージュはマサキに向かってウサギのように跳んだ。そしてマサキの右腕に抱きついた。


「おっとっとっと」


 勢いよく跳んできたネージュを受け止めた反動でよろけるマサキだったがネージュが腕を引っ張ったおかげで転ばずに済んだ。


「ありがとう。ネージュ」


「いいえ。こちらが跳び付いてしまったので……」


 そのまま二人はいつものように手を繋いだ。そして黒瞳と青く澄んだ瞳が交差する。

 三回ほど瞬きをしてから二人は同時に口を開いた。


「ネージュ……」

「マサキさん……」


「俺たち成長してる!」

「私たち成長してる!」


 突然叫び出す二人。

 手を繋ぎながらぴょんぴょんとウサギのように跳びながら喜びを体全体で表現している。

 マサキは跳んでいる際、左手でしっかりとチョコレートカラーのウサギを落とさないように抱っこしている。


「俺たち手を離しても大丈夫だったぞ」


「これで私たち手を繋がなくても外を歩けるかもしれませんね」


「ああ、一緒じゃなくても歩けるかもしれないな!」


「い、一緒じゃなくても歩けます! 一緒じゃなくて……も……そ、そう……です……ね、歩けてしまうんですね……」


 ウサギそっちのけではしゃぐマサキとネージュ。手を離した状態で平常心を保てたことが相当嬉しいようだ。

 しかしネージュはマサキと一緒に歩けなくなってしまうのではないかと思うと少しだけ寂しい気分を感じていた。


「ちょっと試してみるか」


「試すって何をですか?」


「手を離しても大丈夫なのかどうかだよ」


 マサキの左腕にいるウサギを完全に忘れている二人。そのまま手を離しても大丈夫なのかどうかの検証が始まる。

 そんな二人をダールは呆気に取られながらクレールと一緒に見ていた。


「何やってるんッスかね……ウサギはどうするんッスかね……」


「わかんない。でもおにーちゃんたち楽しそうだよ」


「そうッスね……でもまずウサギが先ッスよね普通」


 ダールが言うように普通なら天から落下してきたウサギを先に対処するべきだがマサキとネージュは検証に夢中になっている。


「それじゃ手離すぞ。ダメだったらすぐに跳び付いてこい。俺も跳び付く」


「は、はい。で、でもさっきは、たまたま大丈夫で……今はダメだったらどうしましょう……こ、怖いですよ……」


「俺も怖いけど……やってみる価値はある。やってみよう!」


「わ、わかりました。それでは手を離しますよ」


 せーのの合図で二人は繋いだ手を離した。

 マサキの右手とネージュの左手はお互いの手のひらを求め磁石のように引き寄せられそうになるが、二人はなんとか耐えた。

 そして互いに目を合わせてゆっくりと口を開く。


「だ、大丈夫だよな」


「は、はい。と、とりあえずは何ともないです……」


 互いに心情を確認し合ったところで次のステップに移行する。

 ネージュはゆっくりと一歩ずつマサキから離れていく。距離が近いが故に震えないのではないかと思っているからだ。


 一歩目。不安はあったが変化なし。

 二歩目。互いの距離が遠くなる恐怖はあるが変化なし。

 三歩目。いつも隣にいたはずの相方がどんどん離れていき息が苦しくなる。

 四歩目。先ほどの手を離していたくらいの距離に到達。二人の限界は近い。

 五歩目。ついにその時は訪れた。


「ガガガッガガガガガガガッガガガガガガッガッガガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 いつもよりも激しく震え出してしまった。小刻みではない。大刻みで震えてしまっているのだ。


「ガガガッガガガガガガガッガガガガガガッガッガガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 顔色は真っ青。苦しそうにしていて今にも死にそうなほど。否、二人は呼吸を忘れてしまっている。このままでは本当に死んでしまう。


 これが二人の離れられる限界の距離ということだ。

 ネージュの歩幅を五十センチと考えよう。やはり二メートルほどが二人の限界。ウサギが落下した際に手を離してしまった時の距離がギリギリのラインだったのだ。


「おにーちゃん! おねーちゃん!」


 驚きのあまりクレールが叫んだ。それと同時にダールは俊足スキルを使い一瞬でネージュの元へと駆けつけた。

 ダールはネージュを支えながら一緒に歩き出しマサキに近付いて行く。二人を助ける方法は二人を近付けることだからだ。


 一歩目。二人は忘れていた呼吸を思い出し肺に酸素を送る。

 二歩目。震えが止まり呼吸も落ち着く。

 三歩目。顔色が戻る。

 四歩目。ネージュはマサキに向かって跳び付いた。

 跳び付いてきたネージュをマサキは片手でキャッチ。そのまま抱き合いながら膝から崩れ落ちた。


「ネージュネージュ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だー。もうやめよう。死ぬかと思った。二度とこんなことしないぞ。もう二度と離れるもんか。一生離れない。だから一生俺から離れないでくれ……ぁぅ……うぅ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」


「マサキさんマサキさんマサキさんうわあぁぁぁぁぁんっうわあぁぁぁぁぁぁんっ」


 地面に座りながら子供のように泣き出すマサキとネージュ。

 死ぬかもしれないほどの恐怖を味わったのだ。泣き出すのも無理はない。


「ぅぅ……ダール助けてくれてありがどうありがどう。ほんとぉうにぃありがどゔぅぅ……」


「あはは……当然ッスよ。それよりも……その、ウ……サギ……を……」


 ダールは泣いている二人の横にそのまま倒れてしまった。倒れてすぐにお腹から『ぐうぅぅぅぅ』と大きな音が鳴る。俊足スキルを使った反動でお腹を空かしてしまったのである。


 地面に座り抱き合いながら泣いているマサキとネージュ。マサキの腕には耳の大きなウサギが無表情のまま鼻をひくひくさせている。そしてその横には腹を空かして倒れているダール。

 なんともカオスな状況だ。

 そんなカオスな光景をみたクレールは呆れを通り越して安心していた。そして笑っていた。


「何もなくて本当によかった……本当にうちの大人たちはこういう時はダメダメなんだから。ふふふっ。でも本当によかった」


 クレールは安心した表情のままマサキたちの方へとゆっくり歩いていく。

 そして持っていニンジンを一口サイズに折った。その後、折った一口サイズのニンジンについている泥を肘を使って綺麗に拭き取った。

 そのニンジンを腹ぺこで倒れているダールの口にゆっくりと入れてあげた。

 ダールは口の中に侵入してきたニンジンを受け入れてガリガリと咀嚼する。そして飲み込む。


「ぅ……ニン……ジン……ありが……とう……ッス…」


「残りはここに置いておくから食べるんだぞー」


 クレールは倒れているダールの目の前にニンジンを置いた。その後、抱き合いながら泣いているマサキとネージュの背中を小さな手で優しくさすった。


「よしよし……よしよし……」


「うぅぅおぉぉぉぉぉんっ……クレールクレール……背中をさすってくれるなんてなんて優しいクレールなんだ。ぬぐうぅぅぅ……ぅうぅぅ。うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ」


 背中をさすられているマサキは感動して余計に泣き出す。マサキにとって優しさは逆効果だった。

 クレールは呆れながらも背中を優しくさすり続けた。するとマサキが片手で抱っこしている謎のウサギと目が合った。紅色の瞳と漆黒の瞳が交差する。

 次の瞬間、さすっていた小さな手が止まった。魔法に掛けられたかのように突然と止まってしまったのだ。

 そしてクレールの幼い体が勝手に動き出してしまう。マサキとネージュの背中をさすって慰めたいはずの体が言うことを聞かなくなってしまったのだ。これこそ魔法にかけられ操られているような感覚だ。


「ぅ……」


 クレールの口から小さな声が漏れる。そのままクレールの小さな手はマサキとネージュの背中から離れてマサキが片手で持つ謎のウサギの元へと吸い込まれるように近付いていく。

 そしてウサギの頭にクレールの小さな手が触れた。ほんのりと感じるウサギの体温。そして毛並みのもふもふ。


「も、もふもふだぁぁ」


 クレールは一瞬でウサギの虜になってしまった。そのままなにかに取り憑かれたようにウサギをわしゃわしゃと触る。触る。触りまくる。

 手だけでは飽き足らず自らの顔でもウサギのもふもふを堪能し始めた。顔と顔を擦り合わせたり大きな耳同士を擦り合わせたりしている。

 クレールはウサギのもふもふの魅力にやられておかしくなってしまったのである。


「うへうへ。もふもふ。うへうへ。もふもふだーもふもふだー」


 地面に座り抱き合いながら泣いているマサキとネージュ。その横で倒れながら生のニンジンをガリガリと食べるダール。

 そして泣いているマサキとネージュを気にせずにマサキの腕の中にいるウサギと戯れるクレール。ウサギは無表情でクレールにされるがまま。たまに「ンッンッ」という声が漏れる。


 兎人族の森(アントルメティエ)の中心。先ほどよりもさらにカオスな状況になったのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


謎のウサギをほったらかしにしてマサキとネージュは自分たちの成長に喜びその成長がどこまでなのかを検証しました。

離れるのがちょっぴり寂しいネージュですが離れられる距離が二メートルまでだと判明してほっとしています。

ニメートルしか離れられないのなら今まで通り手を繋ぎますよね。ってことです。


ちなみに成人の歩幅の平均は七十センチらしいですよ。

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