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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
73/430

72 賑やかになった

 懸賞金の額のデカさに戸惑い困惑する一同。


「ダ、ダール間違ってないのー?」


 クレールはダールに問いただした。当然の質問だ。

 三人の盗賊団を捕まえたからといって五十万ラビの懸賞金はあまりにも高すぎる。


「ま、間違ってないはずッス……」


「い、一応なんだが……聞いてきてくれ。あとで手違いだったとか言われたりするの嫌だし……こんなあっさり五十万ラビが手に入るの怖い……怖すぎる……ガガッガガガガッガガガガ……」


「わ、わかったッス。聞いてくるッス」


 マサキは震えながら懸賞金五十万ラビが入った袋をダールに渡した。それを受け取ったダールは再び聖騎士団白兎の団長ブランシュの元へと震える足で向かう。

 そして入り口の扉を開きさらに驚愕するのであった。


「キミか。ちょうど大樹を植え終えたところだ。もう移動はできないがこれでいいかな?」


 ブランシュが言うようにダール三姉妹が引越すための大樹が植えられて堂々とそびえ立っていたのだ。

 場所は無人販売所イースターパーティーの隣。そう。勝手にお隣さんに引越したのである。

 その大樹の家を植えるのがあまりにも早くてダールは声が出ないほど衝撃を受けていた。

 懸賞金の五十万ラビと大樹の家。度重なる衝撃でダールもマサキとネージュのように震えが止まらない。


「大丈夫か?」


 ダールは頷くことしかできなかった。

 しかしブランシュはダールの感情を読み取ったのか、それとも手に持つ懸賞金が入った袋を見て思ったのか、ダールが再び戻ってきた理由に気付く。


「この懸賞金は五十万ラビで間違いはない。安心して受け取ってくれ。これで聖騎士団の役目は終わった。私たちはこれで失礼するよ」


 そう言うとブランシュは部下を引き連れて去っていく。部下の中には事情聴取をとっていたエームの姿もある。肩を回しながら疲れ切った様子でブランシュの後ろを歩いている。


 ダールは大樹の家を貰った喜びよりも聖騎士団の凄さに圧倒されて腰が抜けてしまい歩けなくなってしまった。

 しかしダールが動けなくなった代わりに今度はマサキが歩けるようになる。なぜなら聖騎士団が去って行ったからだ。


「ダ、ダール大丈夫か?」


 腰が抜けて歩けなくなったダールに声をかけるマサキ。その後ろには服をひっぱりながら歩くクレールもいる。


「だ、大丈夫ッス……懸賞金も五十万ラビで間違いじゃないみたいッスよ」


「ま、マジかよ……いきなり大金が入ったな……人生って何が起きるかわからねーな……」


 マサキとクレールはダールのそばへ近付くにつれて違和感に気が付く。


「なあクレール……なんか景色が変わった気がするんだが……気のせいかな?」


「おにーちゃん……クーも思った。あんなところに影なんてなかったよね……」


「いや〜大きな影だな。まるで隣に大樹が立ったみたいな」


「まさか大樹がそんなすぐに立つわけないよ……」


「あははだよなだよな」


 二人はダールの横を通り過ぎて影の正体を確かめるために玄関から外へ出た。マサキは外へ出るときはネージュと一緒じゃなければ平常心を保てないが家の周りで尚且つ他に人がいなければ問題ない。ここで言う他の人とはクレールやダールのことを除く。

 なのでマサキもクレールと一緒に外へ出て影の正体を確認することができたのである。。


「な、なんだこれぇええええ!!」


 マサキの黒瞳とクレールの紅色の瞳には昨日までそこには存在しなかったはずの大樹が映っていた。それがマサキとクレールが感じた違和感の正体。そしてダールと双子の妹たちデールとドールの新たな家だ。


「おい、ダール。お前の欲しいものってまさか……」


「はい! アタシと妹たちの家ッス! せっかくなのでここに作ってもらいましたッス! これならいつでも警備の仕事ができるッスよ。それにいつでも兄さんと姉さんたちのそばにいれるッス」


「マジか……まさかお隣さんができるなんてな……想像してなかった……というか想像できないだろ!」


 ダールの大樹の家を無人販売所イースターパーティーの隣に植えるという発想に驚かされるマサキだったがその発想をあっさりと叶えてしまう聖騎士団の凄さにさらに驚かされるのであった。


 玄関の前で立ち上がれなくなるダール。大樹の家を見て呆然とするマサキとクレール。

 そんな時、意識が戻ったネージュがやってくる。


「ぅう……マサキさ〜んマサキさ〜ん。うぅ……ぁぅ……なんでそんなところにいるんですかー。いなくなったと思いましたよ……うぅ……」


 ネージュはマサキがいない不安に駆られて号泣していた。下唇を噛んで泣くのを必死に堪えているが涙は止まらない。そのまま必死にマサキの元へと駆けていく。

 その後ろをオレンジ色の髪を揺らしながら楽しそうに歩く双子の姉妹デールとドール。


「ネ、ネージュ心の準備なしでここに来ちゃダメだ」


「マサキさ〜んマサキさ〜ん」


 時すでに遅し。ネージュはマサキの言葉を聞かずに飛び付いた。そしてマサキに抱きついた。強く強くマサキを抱きしめる。

 マサキは立ったままネージュを受け止めたが足腰に力が入っていないマサキは倒れそうになった。それをクレールがなんとか支えて倒れるのを阻止する。

 ネージュが飛び込んだ際、豊満なマフマフがマサキの顔面に当たるがそのマシュマロのように柔らかいマフマフをマサキは楽しんでいる余裕などなかった。

 そしてネージュはマサキに飛び込み抱き付いた後、視界の先に異様に大きな影を捉えた。ここでようやく違和感に気づいたのだ。

 ネージュはマサキがいる安心感からか平常心に戻っていた。取り乱したことに後悔しつつも今は違和感の正体を見る方が先だと振り向こうとする。


「ネ、ネージュ……ダメだ振り向くな……また気絶するぞ!!」


「おねーちゃんダメ!」


 マサキとクレールの言葉はネージュの耳に届いた。しかしネージュの振り向く動きをネージュ自身も止められなかった。

 これは違和感の正体を確認したいという強い気持ちがそうさせているのか。それともただ単に脳から止まれという伝達が間に合わなかったのか。どちらかわからない。ただどちらにせよネージュは振り向いてしまう。


「え……」


 ネージュの青く澄んだ瞳は新たに植えられた大樹の家が映った。それは自分の家の隣に堂々と立っている大樹。昨日までそこにはなかった大樹だ。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「お、落ち着けネージュ。平常心だ平常心。そうだ。深呼吸をしてみよう」


「おねーちゃん深呼吸だよ」


 マサキとクレールに言われるがまま深呼吸をするネージュ。そのおかげでなんとか気絶せずに済んだ。


「こ、これは……」


 当然の疑問だ。その疑問に答えたのは双子の姉妹デールとドールだ。


「私たちの新しいお家だよ」

「私たちの新しいお家だよ」


「兄さん姉さんこれからお世話になるッス!」


 さらっと言った後、デールとドールは新しい家の中へと入っていった。ボロボロだったテントから一変、新築とも呼べるほど大きく綺麗な大樹の家だ。

 さぞ嬉しいだろう。その証拠にデールとドールはぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「ふふっ」


 楽しそうに飛び跳ねている様子を見てネージュは笑った。そしてボソッとマサキに聞こえる声で呟いた。


「死ぬまでずっと私は一人だと思ってましたがいつの間にか隣にはマサキさんがいてクレールがいて……そしてダールたちもいて……随分と賑やかになりましたね。本当皆さん突然すぎますよ」


「あはは、そうだな。まさかこんなことになるなんて想像してなかったよ」


「そうですね。私たちの夢の三食昼寝付きのスローライフも賑やかになりそうですね」


「だな」


 手を繋ぎながら大樹を見上げるマサキとネージュ。その横でマサキにくっつくクレール。三人は腰を抜かしているダールへと視線を変えた。


「ダール。ここに引越すなら先に言ってくださいよ」


「そうだぞ。それに懸賞金がいくらなのか先に聞いとけよ」


「懸賞金は知らなかったッスよ。あと引越しのことは言おうとしたッスけど兄さんも姉さんも無人販売所の準備で忙しそうだったんで……邪魔したら悪いと思って言えなかったッス……ごめんなさいッス……やっぱり勝手に家を建てたこと怒ってるッスか? お店の隣ッスもんね。邪魔ッスよね……」


 ダールは冷静になり自分の勝手な行動に反省した。

 しかしマサキとネージュそしてクレールは初めてのお隣さん、否、新たな家族を迎え入れた。


「邪魔じゃないぞ。隣が家なら仕事をサボろうにもサボれないからな。その代わりクビにもできないけどな。まあクビになんてしないけど……これから店の警備の仕事その他もろもろを頼んだぞダール。それと今日みたいに俺たちの代わりに訪問者と話してくれると助かる」


「ぅぅ……兄さん」


 マサキの言葉に涙を流すダール。マサキに飛びつきそうな勢いだが、腰を抜かしているので飛びつくことはできずにいた。。


「多分先祖代々恥ずかしがり屋のフロコン家でお隣さんができたのは初めてですよ。でも完全に大樹同士がくっついてるのでお隣さんというよりは増築ですかね。つまり家族……そう。家族同然というわけです。私たちはもう家族なんです。なので邪魔なんか一切思ってませんよ。これからもよろしくおねがいしま……って私、今とても恥ずかしいことを言ってませんでしたか? は、恥ずかしい。先ほどまでの自分を呪いたいです」


「ネージュの姉さん……恥ずかしいことじゃないッスよ。家族って呼んでもらえてアタシはすごい嬉しいッス」


 ネージュの言葉に心から喜ぶダール。両親が亡くなりその両親の代わりに妹たちを育ててきたダールとしては頼れる兄さん姉さんがいることは心の支えでもあり嬉しいことなのだ。


「ダールよろしくね。わからないことがあれば先輩そしてお姉さんでもあるクーになんでも相談するんだぞー。あとデールとドールの遊び相手はクーに任せろー」


「クレールの姉さん。妹たちも喜ぶッス。ありがとうッス」


 ダールは年下のクレールに笑顔で感謝を告げる。そしてダールは改めて目の前にいる三人に安心し心の中でこの巡り合わせに感謝した。


「兄さん姉さん。これからよろしくお願いしますッス。一生懸命頑張るッス」


「おうよろしくな。サボるなら適度にな」

「よろしくお願いします。楽しく暮らしましょうね」

「これからよろしくだぞー」


 こうしてオレンジ色の髪の兎人族の三姉妹が家族に加わった。そして長女のダールは無人販売所イースターパーティーの警備員そして雑用係となったのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


これにて今回の章は終わりです。

ダール三姉妹が引っ越してきて家族になるという終わり方です。

今のところ考えているメインキャラはマサキとネージュとクレールとダールと新キャラ。

無人販売所イースターパーティーで働くメンバーです。

そして双子の姉妹デールとドールはサブキャラ扱いになると思います。

デールとドールは今後は小学校みたいなところに通わせようかなって思ってるので登場が減ります。


次回の章で新たな仲間を加えたらいろんなことをさせたいです。

海とか温泉とか旅行系が書きたい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々小説読ませてもらってますけど、なかなか兎さんをPUしてるの見かけないので楽しく読ませて頂いています。 小さい頃兎を飼っていたのでこの様に小説にして頂けるの嬉しいです。 今後も楽しく読ま…
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