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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
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67 豪華な夕飯

 夕飯の買い出しを終えて家に帰ってきたマサキとネージュとクレールの三人はすぐに夕飯の準備に取り掛かった。

 豪華な夕飯にするためにマサキとネージュが腕に()りをかける。そしてクレールは二人の手伝いをする。

 こうしてダールたちがやってくるまでにテーブルの上に豪華な料理を飾り付けることができたのだった。


「お邪魔しますッス。約束通り夕飯に来たッスよー!」


「お邪魔しまーす」

「お邪魔しまーす」


 ダールと双子の妹デールとドールがちょうど良いタイミングでやってきた。これで役者は揃った。


「わーすごーい!」

「わーすごーい!」


 デールとドールはテーブルの上を豪華に飾り付けする料理を見て同時に驚いた。さすが双子だ。


 マサキが作った料理はイチゴとバナナとメロンとミカンなど様々なフルーツを使ったクダモノハサミだ。もちろんクレールの要望通りドラゴンフルーツだけを挟んだクダモノハサミも用意してある。

 そしてチーズフォンデュとチョコフォンデュも作っていた。それはこの世界には無い料理だ。一同は興味津々で見ていた。


「パーティーの定番、テーブルの中心といえばこれだろ! チーズフォンデュとチョコフォンデュ! テーブルの彩りを良くしてさらに豪華にする!」


「すごいです。初めて見ました。こ、これってスープみたいに飲むんですか?」


 初めて見る料理に驚くネージュ。マサキはこの世界にチーズフォンデュが無いという予想を的中させてドヤ顔で食べ方の説明を始めた。


「ふっふっふ。これはだなチーズフォンデュとチョコフォンデュと言ってだな、周りに置かれたパンや野菜、果物などに串を刺してチーズかチョコにつけて味わう食べ方なのだよ。これなら食べて美味しい、つけて楽しいの一石二鳥! 食事をもっと楽しくするパーティーには欠かせない料理だっ!」


「な、なるほどですね。真ん中のチーズとチョコはスープじゃなくて料理を楽しむスパイスだったということですね。恐るべしマサキさん!」


「そういうこと。マシュマロも欲しかったところだが売ってなかったからな。仕方ない」


 ネージュの意見に指をパチンと鳴らして肯定するマサキ。

 マサキが作ったチーズフォンデュとチョコフォンデュには滝のように繰り返し流れる専用の機械はない。この世界の料理ではないので当然だ。

 その代わりに火を起こすために用いる火竜の鱗をチーズとチョコの器の下に敷いている。熱を保つことによってチーズとチョコがすぐに固まってしまうのを防いでいるのだ。

 そしてチーズとチョコに付ける食材はクダモノハサミを作った際に余った食パンの耳と果物。さらにはサイコロ状にカットした食パン、一口サイズにカットした野菜などがある。


「すごいすごーい。早く食べたーい!」

「すごいッス。早く食べたいッス」


 説明を聞き終えたクレールとダールの二人は瞳を輝かせながらはしゃいでいた。


 これでマサキの料理は以上となる。

 次にネージュの料理の紹介になる。まず真っ先に目に止まるのは豪華に盛り付けされた野菜のタワーだ。


「ネージュの姉さんのこの派手な野菜の山は何ッスか?」


「これはですね。私のおばあちゃんが作ってくれた思い出の料理です。名前は野菜タワーと言ってました。マサキさんの料理と同じでソースにつけて食べます。皆さんの分のソースは個別で用意してますので今から配りますね」


「そうなんッスね。食べるのがもったいないくらいすごい盛り付けッス!」


 棒状にカットされたニンジンやパプリカなどの野菜やラディッシュ、キノコ類などが様々な形で綺麗に盛り付けられている。どうやって盛り付けたのかはわからないがその形はまさに山。

 これもネージュが持つスキル『盛り付けスキル』によるものなのだろう。誰も真似できない美しい盛り付けに一同は感動していた。

 そしてネージュが用意したソースを見てマサキはあることに気付く。


(あれってバーニャカウダソースじゃね? アンチョビとかニンニク、確かオリーブオイルとかも入ってるソースだよな。ってことはネージュの料理ってバーニャカウダか? ソースをつけて食べるって言ってたもんな……ネージュのおばあちゃんが考えた料理なのかな。だとしたらすごい……というか料理として俺のフォンデュと丸かぶりしてんじゃん。やっぱり考えてることはほぼ一緒ってわけね。でも、より一層豪華になった。ますますパーティーって感じだ)


 チーズフォンデュとチョコフォンデュ、そしてネージュが作った野菜タワーという名のバーニャカウダー。材料やつけるソースは違えど料理のジャンルとしてはほぼ同じ。

 無数にある料理の中から選んだ料理が被ってしまったのだ。


 そしてネージュの作った料理はそれだけではない。ニンジンがたっぷり入ったトマトクリームパスタも作っていた。


(パスタか。そういえばこっちに来てから麺類は一度も食べてなかったな。トマトソースにニンジンか。栄養満点の野菜たっぷり料理。俺の子供頃だったら味見をせずに拒否ってたかもしれないな。嫌いな食べ物がある大人に育たなくてよかったとしみじみ思うよ。でもパクチーは嫌いだけどな……)


 マサキは日本人の子供が嫌う野菜がたっぷり入っているネージュが作ったパスタを見ながら思考した。しかし日本人の子供たちとは違い兎人族(とじんぞく)は野菜を嫌う方が珍しいのである。

 その証拠に幼い双子の少女のデールとドールは目を輝かせ口元を緩ませながらパスタを見ていた。そして同時にゴクリと生唾を飲み込み食べるのを楽しみに待っている。


 これでマサキとネージュが調理してクレールが手伝った料理の紹介は終わった。ちなみに飲み物は八百屋で購入したニンジンジュースと新鮮な湧き水が用意されている。


「そんじゃみんな飲み物のグラスを持ってくれ。本来ならワインとかがあってもおかしくない豪華な料理だが……それはまた別の機会に」


 グラスにニンジンジュースが注がれて全員がグラスを持った。マサキとネージュは恥ずかしげもなくハート柄のペアマグカップを持っている。


「ダール今日は盗賊団を捕まえてくれてありがとう」


「当然のことッスよ」


「デールとドールも騎士に事情を説明してくれてありがとうな」


「当然のことっすよ」

「当然のことっすよ」


 姉の喋り方を真似するデールとドール。ダールとは違い慣れていない喋り方をしているところが可愛らしい。


「そしてネージュとクレールもいつも色々とありがとう。これからもよろしくな」


「はい。もちろんです。よろしくお願いします!」


「よろしくだぞー」


 天使のような笑顔と無邪気な笑顔がマサキに向けられる。マサキはその笑顔に胸がきゅんとなる。


「あとダール!」


「は、はいッス」


()()()()()()()()()()()()()()()! ではカンパーイ」


「「「カンパーイ」」」


 マサキによる乾杯の音頭が終わりダール以外は口を揃えて『乾杯』と、大きな声で言った。

 ダールはマサキの言葉に困惑している。


「えぇぇぇぇ! ちょ、ちょっと待ってくださいッス!」


「なんだ? ダールからも何か言いたいことがあるのか?」


「もちろんあるッスよ!」


 ダール以外は食事を始めた。ダールの話に耳を傾けるマサキもネージュが作った野菜タワーを食べている。


「やっぱりこれバーニャカウダだ! これネージュのおばあちゃんが作ったの?」


「そうですよ私のおばあちゃんが作ってくれました。そのマサキさんが言ったバーニャナントカは初めて聞きましたが……バーニャ……バーニャって、おばあちゃんって意味ですか?」


「いやいや名前の意味はよく知らないけど、おばあちゃんって意味ではないと思う。俺の知ってる呼び方だから気にしないでくれ」


 ダールをほっといて会話と食事を楽しむマサキ。そんなマサキにダールはツッコんだ。


「兄さん兄さん。アタシのこと忘れないでくださいッスよ」


「あっ、ごめんごめん。ダールも食べながら話しようぜ。で、なんだっけか?」


「いやいやだから……パクッ……もぐもぐ……兄さんのチーズのやつ美味しいッスね。ニンジンの甘味とチーズの甘味が絡みあって最高に美味しいッス。あとこのとろとろたまんないッスね」


「だろだろ。このとろける感じが再現できてよかったよ」


「チョコの方も食べ……って違うッス。話したいことを忘れるところだったッス」


 マサキのチーズフォンデュに夢中になるダール。チョコフォンデュに手を出していたら話の脱線は確実だった。


「兄さんさっき警備員がどうとか言ってませんでしたッスか?」


「でしたッスかってなんか言葉が変じゃね? 話したいことがあるって言ったじゃんか。それだよそれ」


「それとはなんなんッスか?」


「いやだから……ダールは『仕事をしているようで仕事をしていない』そんな仕事を探してるんだろ? だったら警備員がいいんじゃないかなって思ってさ。足も速いし盗賊団を倒せる実力もあるしさ」


「そ、それってつまり……」


 徐々にマサキの言いたいことを理解してきたダール。マサキは鼻を掻き照れた様子で口を開く。


「やっぱりちゃんと言わないとダメだよな。ちょっと照れ臭くて誤魔化しながら伝えようとしたけど無理か……なんかこっちまで緊張してきたわ……ネージュやっぱり代わってくれ」


 マサキの口からは恥ずかしくて言えずネージュにバトンタッチを求めた。


「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」


「いやいや恥ずかしくないって。うちの代表としてネージュからはっきりと言ってくれよ」


「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」


「俺も代表って……それに話し合いの結果って……わかったよ。俺が言うよ……」


「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」


「わかったよ。頑張って言うよ。ありがとう」


 マサキと会話をするネージュ。食事を楽しみながら会話をしているせいで何を喋っているのかはマサキ以外には聞き取れなかったがマサキは正確にネージュが言いたいことが理解していた。

 そしてネージュが本当に美味しそうに食べているので邪魔できないと思いマサキはバトンタッチを諦めたのだ。

 ひょっとしたらクレールに頼めるのではないかと思ったマサキだったがクレールもデールとドールの三人でチョコフォンデュを仲良く食べていたので声をかけるのは違うと思いやめたのだった。


「そ、それで兄さんは何が言いたいんッスか」


「あ、えーっとだな……その、改まるとなんか緊張するな……」


「言ってくださいッス! 言ってくれなきゃアタシわかんないッスよ!」


「わかってるわかってるからそんなに迫ってくるな」


 オレンジ色のウサ耳をピーンッと立たせながらマサキに迫るダール。ウサ耳を立たせているのはしっかりとマサキの言葉を聞くためだろう。


「えーっとだな……ダール仕事探してるだろ?」


「はいッス」


「うちで働かないか? 警備員として」


「……兄さん」


 迫ってくるダールの動きが止まった。

 そして下を向いてマサキからは表情が見えない。見えるのはオレンジ色のサラサラな髪とそこから生えているウサ耳だけだ。


「あ、えーっと、警備員ならダールでも続けられるかなって……うちも防犯対策を強化しようと思ってたし……仕事内容は怪しい人がいないかを見てればいいだけだからさ。それも客が来た時だけ。あっあとたまに買い出しとかもお願いするかも……俺とネージュってあんな感じだしさ……クレールも他の人の前だと絶対に姿を見せないから……だからダールはうちで働いてほしいなって思ってさ……一度断っておきながらあれなんだが……ダ、ダメかな?」


 表情が見えないダールに対して内心焦るマサキ。ゆっくりと優しくダールを雇いたい理由を説明をした。

 マサキは気持ちを伝えることに照れている。そして断られるかもしれないという不安も胃がきりきりするほど感じている。


「ダ、ダール……?」


 ダールからの返事はない。下を向いたままだ。

 気になったマサキはダールの表情を見るために覗き込もうとした。その瞬間、光り輝く一滴のしずくが床に落ちていくのが見えた。そのしずくに見惚れて動きが止まってしまったマサキ。

 その直後、後ろに倒れた。

 なぜ後ろに倒れたのか理解できたのは背中を強く床に打ち付けたあとだった。


「うわぁッ……ダ、ダール!?」


 ダールがマサキを押し倒したのだ。

 倒されたあともダールの表情は見えない。しかしどんな表情なのか見なくてもわかる。


「うわぁあああんありがとうッス。兄さん姉さん一生ついて行くッスよ。うわぁああああああん。ありがとうッスありがとうッスよぉおおおうぅ」


 号泣だ。マサキの服で涙とよだれと鼻水全ての水分を拭き取りながら泣いている。

 さすがにネージュとクレールもマサキの上で号泣するダールを止めることはなかった。

 そんな号泣するダールに妹たちがゆっくりと歩いていき背中を優しく摩った。


「お姉ちゃんがんばってね」

「お姉ちゃんがんばってね」


 妹たちの優しい言葉にダールはさらに泣き出すのであった。


(お、俺、飯を食べたいんだけど……ネージュのパスタめちゃくちゃ気になるんだけど……退いてなんて言えない……この状況で言えるはずがない。ここで言ったら空気の読めないやつだ……泣き止むまで待つしかないのか……)


 マサキはダールが泣き止むまでオレンジ色の髪を優しく撫で続けたのだった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回の小ネタはフォンデュとバーニャカウダについてです。

まずはフォンデュから。

フォンデュはフランス語で溶けるとか溶かすとかを意味する言葉です。

フランス語圏での名物のチーズを使った鍋料理です。


続いてバーニャカウダ。

個人的にバーニャカウダーと最後文字を伸ばして言うのかと思ってましたが伸ばさないのですね。

バーニャカウダはイタリアの郷土料理です。

バーニャはソースカウダは熱いと言う意味らしいです。

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