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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
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66 夕飯の買い出し

 聖騎士団のエームとの事情聴取が終わった。その後、エームは兎人族の里(ガルドマンジェ)にある聖騎士団の支部へと帰って行った。

 エームの姿が見えなくなるのと同時にマサキとネージュの体の震えはピタリと止まる。


「……き、緊張した……もう騎士には会いたくないな……」


「そ、そうですね。私も震えが止まりませんでした」


「なんかすごいオーラだよな……」


 臆病者トークを弾ませるマサキとネージュ。このまま話題は無人販売所へと変わる。

 ボロボロだったマサキの体は聖騎士団のエームが治癒魔法をかけてくれたおかげで回復している。ネージュの支えなしでも歩けるほどになっているのだ。さすが治癒魔法。


「今日は臨時休業にするしかないな……」


「そうですね。商品がないので仕方ないです」


「一番商品が多い朝に狙いやがって……そう考えるとプロの盗賊団だったってことか。いや、たまたまか? どっちにしろ臨時休業には変わらない……」


 悲しげな表情を見せるマサキとネージュ。

 盗賊団に商品を盗まれたせいで無人販売所イースターパーティーは臨時休業となった。

 このまま一同は一旦無人販売所イースターパーティーを目指す。


 マサキとネージュは手を繋がなければ平常心を保ちながら外を歩くことができない。なので二人はしっかりと手を繋ぎ歩いていく。

 その後ろをピンク色のドレスが可愛い薄桃色の髪のクレール。さらにその後ろに腹ぺこで倒れている姉を必死に引っ張る双子の妹デールとドールがいる。


 マサキとネージュとクレールは盗賊団に盗まれた盗難品を回収しながら歩いていく。さすがに聖騎士団は盗賊団を捕らえるだけでそれ以上のことはしなかったのだ。


「大丈夫だったクダモノハサミは一個だけか……」


 盗賊団の一人黒髪の男が盗んだクダモノハサミの中に一個だけ無事なクダモノハサミがあった。

 袋の中から飛び出しておらず形を崩してない綺麗な状態ままだった。このまま商品として出せるレベルの状態だ。

 しかし縁起が悪いのと一度盗まれてしまったものを商品として置くことができないことからネージュはダールに食べさせてあげることを提案する。


「まずはお腹を空かせたダールに食べさせてあげましょう」


「そうだな」


 マサキとネージュは手を繋いだままクダモノハサミの袋を器用に開けた。まるで自分の手を使っているかのように。

 この二人が二人羽織などをしたら完璧にこなせるかもしれない。そう思えるほど二人の息はピッタリなのである。


「……ぁ……いぃ……かおり……」


 クダモノハサミの香りに刺激されダールの腹の虫は『ぐうぅぅぅ』と悲鳴をあげた。腹の虫はもう耐えられない。


「お姉ちゃん食べて」

「お姉ちゃん食べて」


 双子の妹たちは帰り道の途中で腹ぺこのダールにクダモノハサミを食べさせて空腹状態から救ってあげた。

 ゆっくりと咀嚼して飲み込む。すると見る見るうちに回復。クダモノハサミを食べ終えると太陽のような満面の笑みを浮かべた。

 治癒魔法よりも効果は絶大だ。


「ダール完全復活ッス!」


 マッチョポーズをとるダール。クダモノハサミを一個食べただけで完全回復したらしい。


「毎回思うんだが一個だけでそんなに回復するもんなのか? 自分で作ってるクダモノハサミだけど変なの入ってないか心配になるレベル……」


「心配いらないッスよ。それほど美味しいって証拠ッス!」


「そ、それならよかった」


 その流れからマサキは盗賊団を捕まえたダールとその妹たちに感謝の気持ちを伝える。


「今日はありがとうな。もしよかったら今夜一緒に飯でもどうだ? 俺たちがご馳走してあげるよ」


「兄さんいいんッスか!?」


「ああ、お礼をさせてくれ」


 感謝しているのはマサキだけではない。ネージュもクレールも同じだ。


「ダールもデールもドールも遠慮しないでください。今日はパーッとやりましょー! 私みんなでお食事会みたいなことをするのとか憧れてましたから!」


「クーもクーも! やりたいやりたい!」


「ネージュの姉さん……クレールの姉さん……」


 マサキとネージュとクレールの三人の笑顔を見たダールは泣きそうになる。

 ダール自身も恵まれていない兎人族だ。両親を失い妹たちを悲しませないために必死に生きてきた。だからこそ友達など作る余裕もない。

 そして飽き性な性格や俊足スキルの影響で仕事すらまともにできない。そのせいで職場の仲間も作ることができなかった。

 しかし今は違う。ダールは今この瞬間、友達以上の大切な存在ができたと直感したのだ。だから嬉し涙は見せずに持ち前の太陽のように明るい笑顔で答えた。


「兄さんと姉さんのご好意ありがとうございますッス! 夕飯参加するッス!」


「やったー」

「やったー」


 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶデールとドール。跳ねるタイミングも着地のタイミングも同時。さすが双子だ。

 こうして夕飯の約束を取り付けることに成功した。しかしマサキの狙いは他にあった。


「そんじゃ決まりだな。あとダールに話したいことあるから楽しみにしててくれ」


「話したいことッスか……もしかして愛の告白とかッスか? やっぱりアタシのことが好きなんッスね。この兎人たらしの兄さんめ〜」


「なんでそうなるんだよ。って足でツンツンすんな。太ももを寄せるなー」


 ダールは満更でもない表情でマサキの足を何度も長い足でツンツンとする。その後、自慢のむちむちな太ももをマサキに擦り付けて魅了する。

 マサキは顔を赤らめながらも抵抗をするがどこか楽しそうに見える。

 その様子に笑顔だったネージュとクレールはムスッと頬を膨らませた。

 そして対抗するかのようにネージュはマサキにベッタリとくっつく。クレールはマサキの腹目掛けて頭をグリグリと始めた。


「ちょ……みんなどうした……落ち着いて落ち着いて……」


 三人はやめる事なくマサキへのちょっかいのような愛情表現が続いた。ボロボロの体は回復したが歩き辛い状態はそのまま……否、さらに酷くなった。

 そんな歩き辛い状態は目的地の家に着くまで続いた。

 家に着くとネージュはマサキにジャージを返して着替え始めた。同じブラウン色のロリータファッションを持っているのでそれに着替える。

 そして着替え終わったら財布にお金を入れて外へと出る。


「それじゃ俺たちは夕飯の買い出しと無人販売所の買い出しをしてくるわ」


「それでしたらアタシたちは一旦家に帰って夕飯までに戻ってくるッス」


「オッケー。そんじゃまた後で!」


「はいッス!」


 二組に分かれて別行動することなった。マサキとネージュとクレールは夕飯そして無人販売所の買い出し。ダールと双子の妹たちは一旦家に帰るとのこと。


「またねー」

「またねー」


 デールとドールの小さな手が右へ左へ同じリズムを刻みながら精一杯振られる。その姿は愛くるしい。

 マサキたちも歩きながら手を振り返す。

 そして買い出しのために品揃えが豊富ないつもの八百屋に向かった。


 マサキたちが向かう八百屋はマサキとネージュが唯一震えずに買い物ができる八百屋だ。

 なぜなら八百屋の店主はおばあちゃんで寝ながら働いているからだ。働いていると言ってもレジの横で眠りながら客の質問に答えたりお会計をするだけ。

 眠っている相手にならさすがのマサキとネージュも怯えたりはしない。そして何より無人販売所を開業して以来ずっと通い詰めている八百屋だ。さすがに慣れてきている。


「ネージュいくらくらい財布に入ってるんだ?」


「無くなったりするのが怖かったので今までの売り上げまとめて全部入れてきましたよ」


 盗難事件があった後だ。何が起きるか分からないので用心したほうが良い。なのでネージュは売り上げの全てを財布に詰めて持ってきていた。


「で結局いくらなんだ?」


「えーっとですね。たしか……十万とちょっとくらいですね」


「わぁお! リアルな数字!」


「今日は少しだけ奮発しましょうか」


「そうしようか。せっかくみんなで食べるんだからな」


 貧乏生活から少しずつ抜け出しているマサキたちだが全財産は十万程度しかない。まだまだ夢の三食昼寝付きのスローライフには程遠い。

 しかし今日は節約などはしない。夕飯を豪華にするためにダンボールのような買い物カゴにどんどんと商品を詰めていく。


「クレールも食べたいのがあれば持ってきてくださいね」


「わーい! でもでもでもクーはおにーちゃんのクダモノハサミが一番食べたいな!」


「その気持ちはわかりますっ! それじゃあ挟んでほしい果物を選ぶのがいいかもしれませんね」


「うん。そうするぞー。選んでくるー」


 ネージュと手を繋ぐマサキ。ネージュとクレールの二人の会話は耳に届いている。


(すんごい嬉しい会話が……恥ずかしさと嬉しさが混じり合って変な気持ちに。くぅー。ニヤニヤが止まらん。これが幸せってやつか……異世界転移して本当によかった。ありがとう俺を転移させてくれた神様よ。って神様が転移させたかどうかは知らないけど……でもありがとう神様!)


 と、幸せを噛み締めていた。

 マサキの頭の中でイメージされた神様は日本でよくイメージされる神様ではなくこの世界の神様だった。それはマサキが唯一知っている神様。

 冒険者ギルドの前に等身大の銅像が設置されている兎人族の三千年前の神様アルミラージ・ウェネトだ。

 髪も髭もモジャモジャなおじいちゃんの神様をマサキは頭の中でイメージしている。


 そのまま三人は他の客が来ないかチラチラと入り口の方を確認しながら買い物を進めた。

 そしていつもの三倍の量を買い物カゴに詰め込んだ。

 夕飯の食材もそうだが無人販売所の商品がゼロになってしまったからである。だから大量に仕入れて大量調理をする計画だ。

 そして最後にクレールが悩みに悩んで持ってきた果物はドラゴンの鱗のような果皮をしている果物だった。


「そ、それは?」


「名前は見てなかったからわからないけど果物のところにあったからこれにしたぞー。どんな味なのか気になる。食べてみたい!」


(クレールが持ってきた果物ってドラゴンフルーツだよな。この世界にもあるのか……というかドラゴンフルーツ食べたことないんだけど……どんな味すんだろう? 食べたことないせいで元の世界と比較できないのは残念だけど……味は一緒だよな? バナナもイチゴもミカンも同じ味だからこの世界のドラゴンフルーツも大丈夫だよな。なんでだろう。見た目のせいかめちゃくちゃ怖い……)


 マサキはクレールが持ってきたドラゴンフルーツの味を想像しながら眠るおばあちゃん店主がいるレジへと向かった。

 いつもの三倍の量の商品。この量の会計は普通なら相当な時間がかかるのは一目瞭然。

 スーパーマーケットなどでレジに並ぶ際、先に並んでいる客の商品の量で並ぶかどうかを判断することがほとんどだろう。なぜなら並ぶ時間を割きたいからだ。

 そのように判断した場合、マサキたちの後ろに並びたくないと思ってしまう。それほど大量に購入しているということだ。

 しかしここの八百屋は違う。会計は一瞬だ。


「……三万二千三百ラビ」


 レジに商品を持っていくだけで眠っているおばあちゃん店主は一瞬で合計金額を叩き出す。買い物カゴの中から商品を取り出して確認することなく一瞬だ。

 そしてこの計算は的確である。マサキたちも計算をしながら商品をカゴに入れているので間違いでないことがわかる。

 さらにおばあちゃん店主は今までも一度も計算のミスをしたことはない。どういう原理なのかは誰も分からないが、おばあちゃん店主のレジでの計算は一瞬で的確なのである。


「今回は量が多いからちゃんと計算が正しいか不安でしたが大丈夫でしたね。いつもと変わらず一瞬でしたし。寝てるのに本当に不思議です……」


 ネージュは財布を取り出しながら言った。

 そして毎回のようにこの現象に驚きながら会計を済ませる。

 こうして夕飯そして無人販売所の買い出しが終了した。三人は大量の荷物を分け合いながら持って家へと帰っていくのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回は無人販売所を臨時休業にして買い出しをしました。

マサキは神様を想像するときはすっかり兎人族の神様を想像するようになりました。

これは異世界にそして兎人族に慣れてきたという証拠です。


クレールが買い物カゴに入れたドラゴンフルーツはこっちの世界でも全く同じものにしようと思います。

なんか究極に美味しかったり不味かったりどちらかにしようと思ったのですがそれはそれで別の果物を創作すればいいのかなと思ったからです。

なので味も見た目も同じ。

ただマサキはドラゴンフルーツを食べたことがないので味の比較はできません。

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