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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
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61 サボる理由

 クダモノハサミを食べたダールは空腹状態から抜け出して体力を回復した。

 弱々しかった姿から一変。いつものおちゃらけた調子に戻る。


「いや〜兄さん姉さん。今日もありがとうございますッス」


「今日もありがとうございます……じゃねぇよ。妹たちを心配させんなって」


「あははは……そうッスよね……あははは」


 ダールの双子の妹デールとドール、そしてマサキとネージュの妹のような存在のクレールの頭を順番にわしゃわしゃと撫でながらダールを叱るマサキ。

 流石に三日連続、空腹で倒れられてしまえば叱るしかない。


「ところで昨日の仕事探しはどうだったんだ? 見つかったのか?」


 マサキはふと思った。

 今までダールは一人でここに来ていたのに三日目の今日は違う。双子の妹たちを連れてきているのだ。

 なのでいつもと違う状況から良い知らせを持ってきたのではないかと淡い期待を抱いている。


「それがッスね……全滅ッス……全部落とされたッス」


 あははと惚けた笑い方をしながらオレンジ色の髪を掻くダール。マサキの淡い期待は一瞬のうちに水の泡となって消えていったのだ。


「マジか……それじゃあなんで妹たちも一緒に来たんだ?」


「それがッスね。どうしても兄さんたちのお店に行きたいってせがんできたもんで仕方なく連れてきたって感じッス」


「そ、そうなのね……」


 マサキの視線は一段下に向かった。その視線の先にはオレンジ色の髪の小さな頭が二つある。その頭が同時にマサキの方へ振り向き太陽のように明るい満面の笑みを浮かべた。


「お兄ちゃんのお店楽しかったよ」

「お兄ちゃんのお店楽しかったよ」


 双子のデールとドールが同時に言った。声の波長が合いタイミングもリズムも一緒。そして何より甘く幼い声。耳心地は最高だ。


「この笑顔にせがまれたら断れないよな……そんで今日も仕事探すのか?」


「そうッスね。少しだけ妹たちと遊んだら探そうと思うッス。兎人族の里(ガルドマンジェ)にはまだまだお店がたくさんあるはずッス。だからいつかアタシの運命の仕事が見つかるはずッス! 兎人族の里(ガルドマンジェ)で見つからなくても兎園(パティシエ)でなら見つかるかもしれないッス! アタシはまだまだ妹たちのために頑張るッスよ!」


 突然情熱的に語り出しやる気に満ち溢れるダール。


(こんなにやる気がある人材なら俺だったらすぐには落とさないけどな……やっぱり即決で落とされる理由としては()()()()()()()()()()という過去があるからか。なんでサボったのかは詳しくは聞いてなかったからこの際だ。聞いてみよう)


 マサキはダールが過去にクビになった仕事でなぜサボってしまったのかを聞こうとする。しかしマサキが質問をする前にネージュが口を開いた。


「前の仕事はどうしてサボってしまったんですか?」


「お、俺も今同じこと聞こうとしてた」


 マサキが質問しようとした内容と同じ内容の質問をネージュがしたのだ。

 もう少しマサキの思考が早ければ目の前にいる双子の妹たちのように同じタイミングで喋っていたかもしれなかったほどだ。


「理由ッスか……」


 サボった理由を言う一瞬、ほんの一瞬だけ間があった。その間は待つ側にとってはかなり長い間にも感じるほどだ。


「……アタシ()()()()()()()()()()()んッスよ……飽きてしまうってのもあるんですが……同じことをしていると何をしているのかが分からなくなってしまって……それで出来てたことが出来なくなって違うことをしてしまい……仕事中に同じ作業をするのが苦になってサボってしまい……それでクビになったんッスよ……」


 ダールは声のトーンを少しだけ落としながら話した。笑顔は無理やり作った笑顔だとバレバレだ。

 その姿は過去の自分に後悔し恥じているようにも受け取れる。


「そうだったんですね」


「なるほどな。毎日が同じ作業の繰り返しだもんな……それじゃあどこの仕事も雇ってくれないってわけか……」


 納得するマサキとネージュ。

 ネージュは青く澄んだ瞳でダールの黄色の瞳を見ながら別の質問を投げかける。まるで面接をしているかのように。


「ダール自身はどんな仕事だったら続けられると思いますか?」


「そうッスね……()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな仕事ッスかね。それだったら苦にもならないと思うッス。それにサボろうにもサボれないッスからね。そんな仕事ありますかね? ネージュの姉さん」


「えぇ……えーっと……()()()()()()()()()()()()()()()()()仕事ですか……えーっと……んーっと……そ、そんな仕事あるんですかね? マサキさん何かありますか?」


 ダールの不意の質問に困り果てたネージュはマサキにバトンタッチをする。

 この世界に存在していない無人販売所を思いついたマサキにならきっと良いアイディアがあると思ったからだ。


「そんな仕事があれば俺がやりたいくらいだよ……でもそれに近いのは無人販売所なんだろうな……営業中に寝てられるし……でもその裏側には大変な思いがあってのことだからな。商品の準備とかそういう大変を積み重ねることが前提だからな。そう考えたら無人販売所も結構大変だな……そもそも調理しなきゃだから同じことの繰り返しになるよな……」


 マサキも何も浮かばなく頭を悩ませるだけだった。

 ダールの理想の仕事の案が見つからなくてダール自身も肩を落とし少しだけしょんぼりとしている。何より小さなウサ耳に元気がなくなったようにマサキには見えていた。


「そうッスよね……でもこんなアタシでも受け入れてくれる仕事を絶対見つけるッス」


「仕事探しは熱心なんだよな……」


 ダールに再びやる気が戻った。このままやる気が戻らずに仕事探しに支障が出てしまうことにならなくて良かったとマサキは思う。


 ここまで大人しく話を聞いていた双子の妹のデールとドールはクダモノハサミを食べていた。

 小さな口でクダモノハサミにかぶりついている。はみ出したイチゴが落ちそうになるが小さな手で受け止めて床に落ちるのを防いだ。

 口いっぱいに生クリームをつけて無我夢中に食べているその姿はあまりにも可愛い。それが双子なのだから可愛さは二倍だ。美味しそうに食べている姿にマサキとネージュは癒される。

 そして双子の妹の横でどさくさに紛れてクレールもクダモノハサミを食べていた。クレールもまだ幼い美少女。双子の妹たちに負けないくらい食べている姿は可愛いらしく美味しそうに食べている。

 なのでマサキとネージュはクレールにも癒され微笑ましく食べ終えるのを見届けた。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


 可愛らしい声が部屋に響いた。デールとドールがクダモノハサミを食べ終えたのだ。

 口周りや鼻先などについた生クリームを姉のダールが拭き取っている。大人しく拭かれている双子の妹たちは嬉しそうに小さなウサ耳をピクピクとさせていた。

 そして顔についた生クリームを拭き終えるとダールは双子の妹たちと手を繋いだ。その姿から帰るのだと察することができる。


「それじゃあ兄さん姉さん何度も何度もありがとうございましたッス」


「おう。仕事探し頑張れよな。仕事が見つかるまでは……俺たちが支援するよ」


「し、支援って……マサキの兄さん……」


「い、いや支援といってもあれだぞ、今までみたいにクダモノハサミを少しだけあげるって感じだぞ。これも全部かわいいデールとドールのためだからな。いいよなネージュ」


 マサキが咄嗟に決めたことだ。本来なら食べ物を恵んで甘やかすのは良くない。

 しかしデールとドールのような幼い美少女の前では甘やかしてしまいたくなってしまう。そして二人の笑顔を守りたいと思ってしまうものだ。

 そんな優しさは歪んだ性格のマサキにはあった。もちろんネージュにもだ。


「もちろんです。私も同じこと考えてましたよ。またいつでも食べに来ていいですからね」


 ネージュは天使のように優しく微笑みながらデールとドールの頭を撫でた。

 その姿にウルッときたダールは頭を下げた。


「本当に何から何までありがとうございますッス。なんだか今日は仕事が見つかる気がするッス!」


「お、野生の勘ってやつかな! その予感通りにいくといいな」


「はいッス!」


 締まりがいいところでダール三姉妹は部屋から出ようとした。しかしクレールがそれを止めた。


「お客さんが入ったからちょっと待つんだぞー」


 覗き穴を覗いて店内を確認していたのだ。

 無人販売所なのに店員やその関係者がウロウロしているのは客からしたら不自然に思ってしまう。そして店側としてもあまり良いとは考えない。

 なのでクレールは帰ろうとするダール三姉妹を引き止めたのだった。

 帰ろうとしたタイミングで客が入る。よくある偶然だ。マサキたちも買い物へ出かけようとしたタイミングで客が入ったりしたことが何度もあるのだ。


「すぐだと思いますから少しだけ待っててくださいね」


 ネージュは来店した客に聞こえないように小声で言った。

 ネージュの小声に合わせてデールとドールは「はーい」と小声で答えた。


 そんな時、覗き穴から店内を覗いているクレールがマサキのことを呼ぶ。


「おにーちゃんおにーちゃん」


「ん? どうした?」


「早く早く」


 クレールは覗き穴から目を逸さずに手招きしている。その手は慌てているように見える。

 明らかに様子が変だと思ったマサキはクレールの横にあるもう一つの覗き穴へと急ぐ。そして覗いた。


「男が三人……黒髪と茶髪とスキンヘッド。兎人族(とじんぞく)……じゃないな。人間か?」


「うん。おにーちゃんと同じ人間族……」


「それを見せるために慌てて呼んだのか? いや〜しかしウサ耳がついてない人を見たのは久しぶりだな。何日ぶりだろう?」


 マサキは異世界転移して百二日が経過している。その間、兎人族以外の種族を見たことがない。同じ人間族すらも見たことがなかった。

 だからマサキと同じ人間族が来店したのをクレールが慌てて知らせてくれたのだとマサキは思った。


「違うよ」


 しかしクレールがマサキを呼んだ理由は違かった。


「おにーちゃん。ちゃんと見てて」


 甘いロリボイスの持ち主のクレールは覗き穴を真剣に覗く。

 言われた通りにマサキは来店した三人の人間族の男を観察する。否、監視する。


 三人の男たちはそれぞれ大きめの手提げ袋を持っている。エコバックというものだ。

 商品を真剣に選んでいたり店内を細かく見ている。無人販売所というこの世界にない販売形式に戸惑いそして驚いているように見えるが、マサキには別のものに見えた。


「……俺が言うのもなんだけど、ちょっと挙動不審すぎやしないか?」


 マサキでもわかるほど明らかに挙動不審だったのだ。ここで一つマサキの中で仮説が生まれる。


(もしかして俺と同じ異世界転移した異世界人って可能性があるんじゃね? 俺みたいな人間不信の社会不適合者が異世界転移する条件だったりして……だから挙動不審なのか?)


 挙動不審な男たちを見てマサキは異世界転移に選ばれる条件の仮説を簡単ではあるが考察したのだ。

 しかしその考察は間違いだ。なぜなら無人販売所イースターパーティーに来店した挙動不審の男三人はマサキのような異世界人ではない。


「や、やっぱり!」


「……ぇ」


 クレールの声とともにマサキの頭は真っ白になり情けない声が溢れた。

 経営者であるマサキが恐れていたことが覗き穴の先で起きているからだ。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回の話で初めて登場した地名『兎園』

読み方はパティシエです。

皆さんもご存知の通りフランス語です。そして意味はお菓子やデザートを作る人のことですよね。

地名と意味はリンクしていませんが兎園をパティシエという読み方にしました。

理由を無理やりつけるとすれば可愛いイメージがあるからですかね。

今後、兎園を舞台とした話を書きたいなと思ってます。


そして次回は挙動不審な三人組の男たちと……

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