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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』
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54 開店休業状態

 マサキとネージュとクレールの三人が一緒に暮らすようになって三週間が経った。マサキが異世界転移してちょうど百日目である。

 三人になった無人販売所だが経営は順調である。むしろ二人の時よりも順調だ。それは役割分担がしっかりしていて作業スピードも上がったからに違いない。

 無人販売所イースターパーティーは兎人族の里(ガルドマンジェ)では徐々に有名店へと近付いていたのだ。


 そんな充実した日々が続いていたのだが突然、客足がピタリと止まったのだ。


「いつもなら忙しい時間のはずなのに客が来ない……なんでだ?」


「そ、そうですね。なんでですかね? もしかして皆さん飽きてしまったとか……」


「それはないだろ。昨日まであんなに忙しかったんだぞ。俺のクダモノハサミもネージュのニンジングラッセも飛ぶように売れてたのに……不自然すぎる……」


「そうですよね。たまたま今日は気分じゃないとかですかね。それか兎人族の里(ガルドマンジェ)で何かあったとか?」


「どうなんだろうな……」


 店内を確認するために作られた覗き穴で店内の様子を見るマサキとネージュ。

 客が来なくなったことを不自然に思っているがそこまで気にしてはいなかった。


「まあ、そのうち来るだろ。俺は少し仮眠とるわ。というか寝るわ」


「私も少し寝ます。朝まで準備してたので疲れちゃいましたから」


「だな。たまには体を休めよう。無人販売所だし店のことはあまり気にせずにな」


「そうですね。クレールも疲れて寝てますし……今日は()()()()にしましょうか」


 三人は無人販売所の準備を朝までやっていたのだ。

 そして一睡もせずに無人販売所をオープンさせて今に至る。


 朝まで準備をしていた理由は前日の店の混み具合が尋常ではなかったからだ。それによって商品が売り切れてしまったのである。

 そして朝まで作ることにした三人はいつも以上に準備をしていた。三日分、否、四日分も商品を作ったのである。

 そのせいもあって三人は疲れ果てていた。そして睡魔に耐えられなくなったクレールは先にもふもふの布団の中で眠りについたのだ。

 クレールの寝間着はマサキとネージュと同じニンジン柄の寝間着だ。三人お揃いがいいというクレールの意見を尊重してショッピングモールで買ったものである。


「……ハフーハフー……お、おにーちゃん……ハフーハフー」


 すやすやと可愛らしく寝ているクレールは、マサキの枕を抱き枕にしながら寝言と寝息を交互に溢していた。

 そしてヨダレをマサキの枕にいっぱい垂らして気持ちよさそうにしている。そんな可愛らしいクレールの姿を見てネージュも寝ることを決めたのである。


 三人での生活になったからといって寝床は変わらない。貧乏生活からは少しだけ抜け出せたのだがそれでも裕福な生活には程遠い。金欠状態は続いているのだ。なので新しい布団が買えないのである。

 だが新しい布団を変えなくても問題はない。小柄なクレールが一人増えたところでクイーンサイズの布団にはまだまだ余裕があるのだ。

 そして三人で寝ることになった布団だがクレールを挟むように川の字のようにして毎回寝るようにしている。まるで本当の家族のように。年齢的に考えると親子というよりは三兄妹だろう。

 しかし朝起きるとマサキとネージュは抱き合っているという不思議な現象が毎回起きている。お互い無意識に引き寄せられて抱き合っているので寝相の悪さはとてつもなく悪いのだ。


「閉店時間までには起きましょうね」


「さすがにそんなに寝ないだろう。夕方までには起きると思うぞ」


「そうですね。ではおやすみなさい」


「おやすみ…………って俺の枕……今日も取られてる……」


 枕を取られているマサキは仕方なく自分の腕を頭の下に置き目を閉じる。

 ネージュは仰向けになり布団で顔を隠し目を閉じた。部屋の明かりを遮断するためだ。その寝方は垂れたウサ耳が可愛らしく布団からひょっこり出ている。

 疲労が蓄積していたせいもあり二人はすぐに暗い暗い闇の中へと意識が吸い込まれていった。夢を見ることもない深い深い暗闇だ。


「スハースハー」とマサキの寝息。

「フヌーフヌー」とネージュの寝息。

「ハフーハフー」とクレールの寝息。

 川の字で眠る三人の寝息のハーモニーが部屋に響き渡る。


 三人はしばらくの間、眠り続けた。


 十分に睡眠が取れたマサキとネージュは同時に目を覚ました。目を開けた先には黒瞳と青く澄んだ瞳の視線が交差している。そして目が合った瞬間パチクリと瞬きを繰り返した。

 クレールを挟み川の字で寝ていたはずなのに隣同士で寝ていたのだ。そしてクレールはまだ寝ている。なのでクレールが起きて布団から出たということではない。二人は寝相の悪さから抱き合いながら寝てしまっていたのだ。

 しかしそれはいつものこと。二人は何事もなかったかのように同時に起き上がった。抱き合いながら寝ていたことに対して気にしているが恥ずかしさからそれ以上は追求しないのである。


 マサキは目を擦りながら壁にかけてある丸時計を確認。時刻は夕方の六時ちょうどを差している。

 マサキの予想通り夕方に目が覚めたのだ。


「おはよ……」

「はい。おはようございます」


 二人は固まってしまた体を伸ばし軽いストレッチを始めた。そしてマサキは腕や腰を回しながら料金箱へと向かう。

 料金箱の中の売り上げは部屋から確認することができるのだ。。


 料金箱のフタを開けて中身を確認したマサキは驚愕する。


「ぇ……嘘だろ……」


 驚くマサキの声にネージュの垂れたウサ耳はピクピクと反応した。そして不思議そうな顔で小首を傾げながら口を開く。


「そんな驚いた声を出してどうしたんですか?」


「ない……」


「え? なにがないんですか?」


「う、売り上げが……」


「え?」


 店を開店してから夕方までの時間帯の売り上げが一ラビも入ってなかったのだ。

 盗難に遭って商品がなくなっているのではないかと思った二人は慌てて店内へと向かった。

 そして商品棚の前に立ち商品を確認する二人。丁寧に人差し指で数えながら商品の個数を確認していく。


「泥棒に入られたかと思ったが……一個も減ってねぇ……ということは……」


「お客さんが一人も来なかったってことですよね。朝まで頑張って作ったのに……しかも四日分も……」


「でもおかしくないか。昨日までは普通に客は来てたぞ。客が一人も来ないなんて初めてだよ。どうして……」


 客が一人も来ていないことを不思議に思う二人は目を合わせた。そして合わせた黒瞳と青く澄んだ瞳は同時に視線をずらしていく。二人の視線は入り口の扉を見た。


「鍵は空いてるよな。なら客は入れるはずだ。外の看板はどうだ?」


「鍵が空いてても看板がオープンじゃなければ、お客さんが入らない可能性もありますもんね」


「そうだよな。兎人族(とじんぞく)はそういうところしっかりしてるからな。それに常連なら尚更だろう」


 二人は外の看板を入り口の扉の隣にある小窓から確認した。


 看板はしっかりとオープンの文字になっている。しかしマサキとネージュは驚いていた。


「ぇ……」


 二人は外の異変に気付いたのだ。


「マ、マサキさん!」


 驚きのあまりネージュはマサキの名前を呼んだ。その後、二人は手を繋ぐ。マサキは右手、ネージュは左手。しっかりと指と指を絡み合い繋ぎ合った。

 二人は外出をする際、手を繋がなければ平常心を保てないのだ。だから外の異変を確認するために手を繋いで外に出ようとしているのだ。


 ネージュは右手でドアノブに手をかける。そして扉を開けて外へと出た。

 黒瞳と青く澄んだ瞳は外の異変をその瞳に映した。


 二人の目の前、無人販売所イースターパーティーの入り口には一人の兎人族が倒れていたのだ。

 その兎人族はオレンジ色のボブヘアーで細身の体型。ショートパンツを履いていることから女性だとわかる。そして太ももはムチムチだ。

 さらにウサ耳が付いているので兎人族であることは間違いない。マサキは異世界転移してから兎人族しか見たことがないので兎人族であるかどうかは当たり前のように確認しなかった。


「だ、大丈夫か? ど、どうしたんだ?」

「だ、大丈夫ですか?」


 二人は倒れてる兎人族に声をかけるが倒れている相手にすら緊張してしまい喉が狭くなり声が小さい。

 そのまま二人はゆっくりと近付き生存確認をする。


 じーっと顔を確認する二人。苦しそうな表情だが綺麗で整った顔立ちなのはわかる。

 そして生きているということも同時にわかった。なぜならぶつぶつと何かを言っているからだ。けれど一刻も争う状況には変わらない。


「息はしてる。それに何か喋ってるけど聞き取れん。これ大事な遺言とかだったら……」

「そ、それは大変です。わ、私に任せてください。聞き取ってみせます」


 倒れている兎人族はぶつぶつと何かを言っているがマサキは全く聞き取れていない。なのでその声を聞くためにネージュは垂れたウサ耳を少し持ち上げて顔を近付けた。

 ウサ耳を立たせることで聞き取りやすくしたのである。


「ふむふむ、なるほどなるほど」


「な、なんて言ってるんだ? この兎人大丈夫か?」


「えーっとですね……どうやら……お腹が」


 倒れている兎人族の言葉を聞き取ったネージュがその言葉をマサキに教えようとした瞬間『ぐうぅぅぅ』と地響きのように大きな音が彼女のお腹辺りから聞こえてきた。


「あっ、そういうこと……」

「そういうことです」


 腹の虫が雄叫びをあげたのである。


「えーっとだな。ちょっと状況を整理しようか」


「はい」


「この兎人は腹が減って倒れてる。本人がそう言ってるし腹の虫が鳴ったのが何よりの証拠だよな。そんで食べ物を求めて歩いていたらうちの店に辿り着いたのかな? そんで店に入る前に力尽きてしまったと……」


「そんな感じだと思いますよ」


「そんでだ。ここからが重要だぞ」


「……重要?」


「この兎人が店の前で倒れているせいで客が怖がって店に入れなかった。だから今日の売り上げがゼロ……」


「さ、さすがですマサキさん。名探偵ばりの推理ですね。点と点が繋がりましたよ。えーっと()()()()()でしたっけ?」


「いや、これくらい誰だってわかるだろ……それにその名台詞の使い方間違ってるぞ」


 無人販売所に一人も客が来なかった理由が判明した二人。

 無人販売所に買い物に行こうとした客は倒れている兎人族の女性を見て逃げ出してしまったのである。

 誰も助けなかったのは単純に怖かったのだろう。

 マサキやネージュ同様に兎人族の里(ガルドマンジェ)に住む兎人族は争い事を嫌うので臆病者が多いのだ。そして面倒事にも巻き込まれたくないのだろう。


「まあ、店の前で倒れてたら店と何かしらのトラブルがあったって考えるもんな……俺だったら巻き込まれたくないから見て見ぬ振りする……」


『ぐうぅぅぅ』


「ま、またお腹が鳴りましたよ。早く助けてあげましょう」


「そ、そうだな。さすがに俺たちがほっとくわけにはいかないしな。店の前だし……」


 二人は腹を空かして倒れている兎人族の女性を助けることにした。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回から『腹ぺこ兎人ちゃんが来た編』が始まります。

新たな登場キャラクター!

店としては入り口で倒れられてると営業妨害なんですが、倒れてるってことで何も言えませんよね。

助けなくては!!!



似たような話なんですが作者はウサギを二匹保護したことがありますよ!

ちゃんと受け取りの紙にもサインしました!

その二匹はもうすでに天国なんですが長い間一緒に暮らしてました。

今となっては楽しい思い出でした。

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