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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『透明な兎人ちゃんが来た編』
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53 初めてのプレゼント

 ショッピングモール二階の木製のベンチに座り抱き合いながら震えるマサキとネージュ。


「ガガッガガガガガガッガガガガガガガガガガッガガガガ……」

「ガタガガタガタガタガタタガタガタガタガガガガタガタ……」


 そんな二人の前に買い物をしていたはずのクレールが姿を現した。

 突然現れたことに二人は驚きはしたが、ショッピングモールの雰囲気に怯えていた二人はさほど驚かなかった。


「ど、どうかな? クーはこういうのよくわからなくて……だから見せにきたぞ! 似合うかな?」


 姿を現したクレールはボロボロの布ではなく気に入った服を試着していた。それを二人に見せて判定してもらおうとしているのだ。

 服を買ったことがないクレールは服選びが不安なのだ。せっかく買ってもらうのにダサければ意味がない。

 しかしクレールが試着している服はペラペラで白色無地のシャツと黒色のジャージ素材のズボン。マサキの姿を参考にしたのだろうか。


「ガタガガタガタガタガタタガタガタガタガガガガタガタ……」


 震えるネージュは上下の歯が当たる情けない音を鳴らしながら断固拒否。小刻みに震える腕でバツ印を突きつけている。

 マサキもネージュの意見に賛成でネージュと同じように腕でバツ印を作った。


「えぇぇぇ……おにーちゃんの服を参考にしたんだけどな……ダメなのか……」


「マサキさんの服はダサいです。だからダメです。参考にしちゃいけません」


 先ほどまで震えていたとは思えないほど流暢に喋りだすネージュ。マサキとお揃いで着られるのが嫌なのか、それとも本当にダサイから嫌なのか。

 どちらにせよ本人も驚くほど流暢に喋りだしたのだ。


(おいおい辛辣すぎないか……ダサいのは否めないが……それにクレールにはもっと可愛いの着て欲しいってのも事実だし……で、でもさ、そんなにダサくないだろ……そんなに言わなくても……ぅう……お金があれば俺だってカッコいい服買うのに……)


 心の中だけでツッコむマサキ。ジャージ姿で異世界転移したことをちょっとだけ残念に思っていた。そしてカッコいい服をいつか買うと心に誓ったのだった。


「はーい。じゃあ別の探してくるぞー」


 クレールは再び透明になり姿を消した。そして再度服を選びにアパレルショップに戻ったのだ。

 試着している服ごと消えたことからどうやら身につけているものも透明化にできるらしい。


 それから何度もクレールは試着した服を見せにきた。クレールのファッションショーが始まったのだ。

 しかしどれもダサい服ばかり。そして安っぽいものばかりだ。

 シャツやパーカーなどは似合わないわけではない。しかしクレールの可愛さには釣り合わない。

 そしてテカテカの服やピカピカの服、ヌメヌメの服、カチカチの服、さらには魔獣や魔王、勇者などのコスプレのような服なども試着していたがどれもあり得ないほどダサい。

 けれどクレールが着ればどれも可愛く見えてしまうのもまた事実。

 しかしマサキとネージュが求めているのはそんな服ではない。美少女にピッタリな可愛らしい服だ。


「もう、私が選びますっ!」


 ダサい服ばかり持ってくるクレールに痺れを切らしたネージュが突然立ち上がった。そして木製のベンチから動こうとしないマサキを引っ張りながらアパレルショップへと歩きだす。

 ショッピングモールの空気に慣れてきたらしくアパレルショップにまで入ることができたのだ。

 恥ずかしがり屋のネージュにとっては時間との勝負。心が耐えられなくなってしまったら服を選ぶ前にこの場から逃げてしまう。

 そんなネージュは青く澄んだ瞳を光らせ店全体を見渡した。


「見つけました!」


 アパレルショップに入ってわずか十秒。低身長で可愛らしいクレールに似合いそうな服を見つけた。

 それはピンク色のドレスのような服だ。ヒラヒラとしたフリルがたまらなく可愛い。

 薄桃色の髪のクレールにはとても似合いそうなドレス。そのドレスを素早く掴み試着室へと向かうネージュ。

 外出中は繋いだ手を離せない二人。マサキも一緒に試着室へと入っていく。


「お、お客様……試着室はたくさんありますので……」


 金髪のアパレル店員が驚きながらも困った様子で声をかけたが時すでに遅し。マサキとネージュは試着室に入りカーテンを閉めている。

 そして二人は返事をしない……否、恥ずかしくて返事ができないのだ。


「……な、何かわからないことがありましたらお声かけてください……」


 アパレル店員は仕方なく試着室から離れた。


「お、おいネージュ……どうすんだよ。俺たちが試着室に入っても意味ないだろ。今回はクレールの買い物なんだし」


 マサキが慌てた様子で声をかける。


「だって仕方ないじゃないですか。あのまま外にいたら店員さんの目が…………でも心配いりませんよ。ね、クレール」


「うん! ここにいるよー!」


 ネージュの問いかけに合わせてクレールが姿を現した。直後、驚くマサキ。


「うおっ、いたのか」


「うん! おねーちゃんたちが入ってきたの見えたからついてきたんだぞー!」


 試着室の中では誰にも見られていない。そして密室。三人は小声だが震えることなく普通に会話ができている。


「これ私が選びました。試着してみてください。きっと今までの試着したやつよりも似合いますよ。いや、絶対似合います」


 ネージュは先ほど見つけたピンク色のドレスをクレールに渡した。


「お、おい、き、着替えるってここでか?」


「そうですよ。ここは試着室ですからね」


「い、いやわかってるんだが、俺も試着室の中にいるんだし……外に出た方が良いのでは?」


「ダメです。商品を持って入ったのに出た時に商品がなかったら不自然ですよ。クレールが着替え終えるまで私たちもこのまま試着室の中にいなければいけません」


「た、確かにそうだな……」


 試着室はマサキとネージュとクレールの三人が入ってもあと一人くらいは入れるくらいの広めのスペースになっている。

 この広さに調整されているのはブラックハウジングのオーナーのブラックのように大柄な兎人族そして体の大きな種族のためなのである。


「おにーちゃん見ないでよね。絶対に目を瞑ってよね」


「わ、わかってるよ」


「本当かな〜? お風呂の覗……」


「わわわわわかってるって! 絶対に目を開けないって! あ、あまりからかうなよー」


「ふふふっ」


 楽しそうにマサキにちょっかいを出すクレール。マサキが目を瞑っていることを確認してから着替え始めた。


 ボロボロの布が肌と擦れ合い脱がれる音がマサキの耳に届く。そしてピンク色のドレスが着られる音も耳に届く。その音だけでマサキは満足だ。


 そしてすぐにクレールはピンクのドレスに着替えた。目を開けていいと合図がありマサキは目を開けた。


「ど、どうかな?」


 そこにはどこかの貴族のお姫様のように美しい姿の美少女……否、お姫様が立っていた。


「か、可愛いすぎる。どこかのお姫様みたいだ」


「可愛いです可愛いです可愛いです。やっぱり私が選んだものは間違いありませんでした!」


 先ほどまでのダサい服装に慣れていた二人はクレールの可愛さに鼻息を荒くしながら見惚れていた。ネージュが選んだだけはあるほど似合っている。否、似合いすぎている。


「ほ、本当? に、似合ってる?」


「はい。すっごく似合ってますよ。クレールの可愛らしさが前面に引き立ってます!」


「そ、そうかな〜。さっきまでダサいダサい言われてたからなんだが恥ずかしい……」


「クレールは自身はどうですか? 着心地とかは?」


 顔を赤らめながらも鏡で自分の姿を確認するクレール。左右に動いたり首を捻って後ろ姿を確認したりしている。

 薄桃色の髪とピンク色のドレスのフリルが揺れ動く。


「着心地はすごくいいぞ。いつもの布のヒラヒラと似てて違和感はないぞ」


「いや、比較対象が……」


 比較対象が何年も着続けてきたボロボロの布だった。しかし着慣れた服と比較するのは当然といえば当然だ。そして着やすければなんの問題もない。


「でも、これいいの? 高そうだよ……」


 クレールは値段のことを気にしてスカートの中にある値札を確認した。


「ほらやっぱり高い……一万ラビだってよ……こんなに高いのはクーにもったいないよ」


 買ってもらう側としては値段を気にしてしまうのは仕方がないこと。だからこそ今まで試着で選んだ服も安っぽいものばかりを選んでいたのだった。

 値段ではなく気持ちだというが、買う側にとっては安いものをプレゼントするよりも高いものをプレゼントしたくなるのもまた事実。

 そして一番似合うものがこのドレスなのだからどんなに高くても購入しプレゼントする。そうでなければ二人はきっと後悔してしまう。


「いいえ。全然もったいなくないですよ。むしろ他のダサいものを買う方がもったいない。これにしましょう」


「俺も同感。これは買わなきゃもったいない」


「おにーちゃんとおねーちゃんがそんなに言うなら……こ、これにしようかな!」


 購入を決めた瞬間にクレールの純粋無垢な笑顔がマサキとネージュの瞳に映った。

 ピンク色のドレスと合わさって今まで以上に破壊力のある笑顔だ。この笑顔を見たものは一瞬で虜になってしまうこと間違いない。


「さっ、さっ、買うと決めたら脱ぎましょう。試着室に男女二人で長く居すぎると怪しまれますからね」


「わかった。すぐに脱ぐ。おにーちゃんは目を瞑ってよ。あと耳も塞いでよ」


「え、耳も……」


 耳で楽しんでいたことがバレてしまったのかと一瞬だけ焦るマサキ。仕方なく耳も塞いだ。自分の左手とネージュの右手で塞いでいる。

 その後、ネージュの右手が耳から離れた。着替え終わった合図だ。マサキが目を開けると試着室には元気で明るく可愛らしい少女の姿はなかった。透明になり姿を消したのだ。


 そのまま二人は何事もなかったかのように試着室を出てピンク色のドレスを買うためにレジへと向かった。

 レジには先ほど試着室の前で声をかけてきた兎人族のアパレル店員が笑顔で迎えていた。

 金髪でいかにもギャルのような見た目。アパレル店員らしいといえばアパレル店員らしい。そしてウサ耳はネージュのように垂れている。


「ガタガタガタガタガタガタタガタガタ……」


 ネージュは震えながらピンク色のドレスをレジに置いた。

 あとはお金を払うだけ……と思ったが……


「こちらの商品は靴もセットですのでご自身のサイズに合った靴もお持ちください」


 どうやら靴もセットとのこと。靴を選ばなければいけないがクレールの足のサイズなどわからない。

 二人は慌て出した。突然のトラブルに対応する能力は二人にはない。ただ震えるだけ。頭が真っ白になっていくだけ。

 しかし足元からゴツンッと何かが落ちる音が聞こえたきた。視線をそちらに向けるとドレスとセットで販売されている靴が落ちている。


 クレールが持ってきてくれたのだと二人は同時に直感した。

 そのまま靴を拾いピンク色のドレスの隣に置く。


「こちらでよろしいですね? プレゼント用ですか?」


 訪ねてきたアパレル店員に全力で頷く。

 アパレル店員は小さなドレスと小さな靴に違和感を感じていたのだ。購入者の兎人族の美少女の体には小さすぎると思ったのだ。さらに隣にいる人間族の男も着るはずもないと思っている。だからプレゼント用だと思ったのだろう。

 それならなぜ試着室に入ったのかという疑問が残るがそこまでは追求しなかった。


「そ、それでは一万ラビです」


 ネージュはロリータファッションの胸元に手を入れて財布を取り出す。そこから銀貨を二十枚取り出し支払った。それは無人販売所イースターパーティーで二人が頑張って稼いだお金である。


「えーっと、銀貨二十枚で一万ラビちょうどですね。ありがとうございます。ではプレゼント用ということで包装しますのでそちらでお待ちください」


 ピンクのドレスとセットの靴は包装してもらうことになった。断れない二人は近くの椅子で待つこととなる。

 震えながら待つこと五分。可愛らしいウサギとニンジンのイラストが描かれた包装紙に包まれて商品が渡された。


「こちらが商品になります。またのご来店をお待ちしております」


 金髪垂れウサ耳のアパレル店員が笑顔で言った。

 ネージュは小さく頷きながら震える手で商品を受け取った。そのまま二人は猛スピードでアパレルショップを出た。逃げるように階段を降りていきショッピングモールからも出たのだった。

 そしてショッピングモールの正面にある大樹の裏にまで行き腰を下ろした。


「はぁ……はぁ……ふー……はぁ……」


 外の空気がうまい。そう思いながら二人は外の空気を吸いまくり呼吸を整える。そしてクレールを呼んだ。


「クレール。出てきてください」


「はーい!」


 元気に姿を現したクレール。マサキとネージュの目の前にいた。


「どうぞ私たちからのお祝いのプレゼントです」


 出てきたクレールにプレゼントを渡すネージュ。それを子供のような無邪気な笑顔で受け取るクレール。

 紅色の瞳はキラキラに輝いていた。


「あ、ありがとう。一生大事にするね」


 素直に感謝の気持ちを伝えるクレール。そのまま渡されたプレゼントをギュッと抱いた。

 片方のウサ耳だけ大きく体は小さい兎人族の美少女。彼女の初めてのプレゼントだ。喜びで紅色の瞳は少し潤んでいたが涙よりも笑顔がたくさん溢れていた。


「これからよろしくな。一緒に三食昼寝付きのスローライフの夢を叶えようぜ」


「うん! クー頑張る! 絶対に夢、叶える!」


 二人はクレールの喜ぶ姿を見れて大満足するのであった。

 こうしてマサキとネージュとクレールの三人は三食昼寝付きのスローライフを目指すのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


これで『透明な兎人ちゃんが来た編』が終わりとなります。

今後は新たな仲間クレールとともに無人販売所の経営をしていく形になります。

なので次回からは普通にクレールも登場しますし今回二人からもらったピンク色のドレスも普通に着ます。

元気なロリお姫様みたいな感じにしたいです!

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