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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第2章:出逢い『透明な兎人ちゃんが来た編』
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45 推理

 眠ってしまったマサキと気を失ってしまったネージュ。二人は同時に目を覚ました。それはマサキが眠ってから約三時間後のことだ。

 意識が覚醒した二人した二人は目が合っている。布団の中のわずかな明かりでも分かるくらいにネージュの瞳は青く澄んでいる。その瞳とマサキの黒瞳は目が合っているのだ。


「お、おはよう……だ、大丈夫か?」


 パチクリと目を合わせながら瞬きをする二人。

 その後、ネージュの視線はマサキの黒瞳から離れて徐々に下を向いていった。

 そしてネージュの青く澄んだ瞳の視線は止まった。その瞬間、ネージュの雪のように白い顔が赤らめていき体温が上昇する。


「……ど、どうした? 急に熱くなったような……」


 気になったマサキはネージュの視線を追いかけた。そして目線は追いついた。布団の中ということもあって暗い。何を見ているのかがハッキリとわからなかった。

 しかし目線が追いついたのと同時に手のひらに柔らかいものを感じ取っていた。

 ネージュが気絶した際に自由になった右手だ。その手は寝ている間に何かを掴んでしまったのである。その何かとはネージュのちょうど胸のあたり。マシュマロのように柔らかいものだ。

 視線も一致している。これがネージュを熱くさせたものの正体で間違いない。


「柔らかい枕だな……い、いやマシュマロか……?」


 枕ではない。そしてマシュマロでもない。謎の柔らかい物体の正体を確認するべくマサキは何度も指に力を入れて揉んだ。

 何度も何度も揉み続ける。


 箱の中身はなんだろな的なノリで指先だけで謎の柔らかい物体の正体を考察するマサキ。その激しく動くマサキの指先は止まった。なぜなら謎の柔らかい物体の正体がわかってしまったのだ。


「ぁ……もしかして……マフマ……」


 時すでに遅し。硬直状態が解かれたネージュの膝蹴りがマサキの腹部に直撃。その後マサキは布団の外へと吹っ飛ばされた。


「がはぁっ!」


 ダメージを受けるマサキ。腹を抑えて倒れ込んでしまう。男の大事な部分に蹴りが当たらなくて安堵するが、膝蹴りされたせいで声が正常に出なかった。おそらく肺にまで響いたのだろう。

 それでもマサキは必死に声を出した。ネージュの誤解を解くために。


「ち、ちがうんだ……ネージュ……落ち着けって……」


「私が気絶している間に私のマフマフを……マフマフを……好き放題に……」


 ネージュは皆まで言わなかった。しかし顔を赤らめ涙目になりながら布団に(くる)まり胸を隠して座っている。その姿を見れば続きの言葉くらいマサキにだって想像できる。


「その……何と言いますか……寝ぼけてて……えーっと……起きたら……揉んでた……てきな? あはは。だから意識して揉んだりなんてしてません。本当です。許してください」


「そ、そんなの信じられません!」


「う、嘘じゃないです……し、信じてください」


「マフマフのことに関してはマサキさんの意見は何も信じません。有罪です!」


 拗ねた子供のように頬を膨らませるネージュ。そんな顔をされたらマサキは頭を下げて謝るしかない。それがどんなに不可抗力のラッキースケベだったとしてもだ。


「ごめんなさい! 許してください!」


 マサキ自身どうしてこんなにもラッキースケベが起きてしまうのか不思議に思っている。そしてどうしてすぐに気付かないのか深く深く反省。そして謝罪した。

 マサキの謝罪を聞くといつもすぐに許すのは胸を揉まれた被害者のネージュだ。


「はぁ〜、次から気をつけてくださいよ。はぁ〜、次は許しませんからね」


 冒険者ギルドのスタッフで口癖のようにため息を吐くミエルよりも大きなため息を吐いた。クソデカため息だ。

 ネージュもまたどうしてすぐに許してしまうのか不思議に思っている。


「と、ところで……ゆゆゆゆゆ、幽霊は……」


 マサキを許したところで幽霊を思い出すネージュ。布団から出ている顔でキョロキョロと辺りを確認する。首を左右に動かすのと同時に垂れたウサ耳が激しく揺れた。


「俺たちの叫び声にビビって逃げたはずだよ。だからいないと思う……でも戻ってくるかもしれない……人を驚かせる立場の幽霊が驚かされたんだから……仕返しにくるかもしれない」


「そ、そんな……で、でもなんで……今までこんなこと一度も起きませんでしたよ」


「だろうな。ネージュの反応からしてそれはすぐにわかった。あと……俺も布団の中に入れさせてください……幽霊のこと思い出したら怖くなってきちゃったよ……」


「……揉まれた後なので本当は嫌ですけど……マサキさんをいじめてるみたいになっちゃうので……今回は特別に……どうぞ」


 ネージュは渋々マサキを布団の中へ入れてあげた。座りながら布団に包まる二人。布団から出ている二つの顔は部屋を見渡し幽霊が戻ってきていないかを注意深く観察している。


「そんじゃ状況を整理するぞ……今までなかった心霊現象がなぜ今更になって起こったのか……そしてどんなことが起きたのか。最近おかしな出来事はなかったかなど話し合おう」


 視線は部屋を注意深く観察したまま。そのまま心霊現象についての状況整理が始まった。


「まず俺たちが寝てしまう前のことから整理していこう」


「はい。えーっと、クダモノハサミが宙に浮かんでましたよね。しかも食べかけの……」


「そう。他にも冷蔵庫が閉まる音がしたりニンジンが宙に浮いてたりしてた……ニンジンも食べかけだったぞ……」


「こ、怖いですね……絶対に幽霊ですよね……」


 見えない何か、つまり幽霊の仕業で間違いない。


「幽霊の仕業で確定だろうな……そんで他にも不可思議なことはたくさんあったのだよ。ネージュくん」


「ネ、ネージュくん!?」


 名探偵のように推理を始めようとするマサキ。彼は布団に包まっているがそれでも清々しい顔で推理を始めた。


「鍵が閉まっているはずの店の扉が開いている。そしてまだ確認してないが看板もクローズからオープンに変わってるんはずだ」


「それって()()が私たちの代わりに無人販売所の営業を始めてくれたってことですよね」


「ああ。そうだ。その()()ってのは多分……俺たちの目の前に現れた幽霊だろうな……」


「えぇ! ゆ、幽霊が? で、でもなんのために……」


「そこが謎なんだよな……そんで過去に今日みたいな不思議なこと不可解なことがあったかどうかを聞きたい。それも無人販売所が開業するまでの過去でだ」


「過去で……開業までの……ですか……」


 ネージュは過去に不思議なことが起きたかどうかを目を瞑りながら考えた。その姿から必死に記憶を辿っているのが分かる。

 今日の出来事から無人販売所が開業するまでの過去の記憶を探る。記憶のフタを一つずつ丁寧に開けて不思議な出来事を探っている。

 そして目を瞑っていたネージュのまぶたが開き青く澄んだ瞳が現れた。


「八百屋さんの時なんですが……カゴの中にお菓子が入ってたこととかありましたよ。別の日はぬいぐるみとかも入ってたりしたことがありましたよ。でも私たちって手を繋いで買い物してるじゃないですか。その時に商品とぶつかってカゴの中に入ってしまったんだと私は思ったんですよ。だから気にせずに商品棚に商品を戻したんですけど今思えば不思議な出来事だったと思います」


「おお、そんなことが! この調子で他に何かあるか?」


「えーっとですね……マサキさんも不思議に感じてると思いますが兎人族の森(アントルメティエ)でのニンジンの収穫の時にニンジンの収穫した本数が増えてることあるじゃないですか。それも不思議なことですよね」


「そうなんだよ。それそれ! 無人販売所を経営する前は一回もそんなことはなかったよな。なのに無人販売所を経営してから収穫したニンジンの数がいつの間にか増えてるんだよ」


 神様からの祝福だろうと笑って誤魔化していたがこれは非常に不思議なことなのだ。

 二人が一日にニンジンを収穫できる本数は少ない。多くて五本だ。収穫した本数を数え間違えるはずがない。


「あとは……関係ないかもしれませんが、売り上げがいつも足りないってことですかね……」


「そうだよな。お客さんの計算ミスってことでいつも気にしてなかったけど毎回足りないんだよな。それも五百ラビか千ラビ。かおかしいよな」


 五百ラビは商品一個分。千ラビは商品二個分。それが毎回売上金の計算の時に足りないのだ。


「あと料金箱の改善の時なんだが、開けてないはずのペンキのフタが開いてあったって事もあったぞ。そのせいおかげでニンジンの料金箱が完成したんだけどな……」


 貼り紙の矢印の余白にペンキで色を塗り潰しそうとした際、開けていないはずの緑色のペンキのフタが開いていた事もあったのだ。


「でもマサキさん。どれも不思議に思いますがあり得ない事ではないですよね。ペンキのフタだって開けてたかもしれませんし、売り上げが足りないのも本当にお客さんの計算ミスとか……」


「でもさっきの浮いてたクダモノハサミの説明はできないだろ?」


「そ、そうですけど……」


 幽霊を信じたくないのか俯くネージュ。

 こうして話し合いは終わった。あとは自分たちの目で真実を確かめるのみ。


「看板の確認と売り上げの計算をしよう」


 マサキは布団から出た。そして己の右手を布団の中にいるネージュの前に差し出す。

 布団の中からネージュを出すための右手だ。その手さえ繋いでくれれば看板の確認と売り上げの確認ができる。


「看板はわかりますがどうして売り上げの計算を? まだ閉店時間まで時間があり…………ま、まさか!」


「そのまさかだよ。ネージュくん」


「ネ、ネージュくん!?」


 ネージュはマサキの右手を取った。そして手を繋いだ。指と指が絡み合う恋人繋ぎだ。

 もう慣れたもので二人が繋ぐ手は自然とフィットし体の一部のようになっている。

 手を繋ぐ二人は覗き穴から店内を見て客がいないことを確認する。


「いない。今がチャンスだ」


 部屋から通路へと飛び出し店内へと移動。そして客がいつ来るかわからない状況の中、二人は最善の動きで商品の確認を始めた


「俺はどのくらい売れたかを確認する。ネージュは看板が変わってるかどうかの確認を!」


「マサキさん! もう確認しました! 看板はしっかりとオープンの文字が表になってます!」


 マサキに言われる前に入り口の扉の横にある小窓から看板を確認するネージュ。看板はマサキの予想通り営業を知らせるオープンになっていたのだ。


「さすがネージュ。仕事が早い! よし、そのまま客が来るかどうかを見張っててくれ! 客が見えたらすぐに伝えてくれよ」


「はい!」


 手を繋ぐ二人のコンビネーションは凄まじい。打ち合わせもなしに自分のやるべきことをしっかりと理解、把握しそれを実際におこなっている

 マサキが指示する前にネージュは行動しているのだ。


「まだ営業の途中だから商品多くて時間かかったが在庫の計算終わったぞ。ネージュすぐに部屋に戻るぞ」


「は、はい! ちょうどお客さんのウサ耳が見えました。ナイスタイミングです。さすがマサキさんです!」


 用が済んだ二人はすぐに部屋へと戻った。

 そして向かってくる客よりも早く料金箱の中身を確認する。

 すぐに確認しなければまた商品棚に残っている商品の在庫を確認しなければならないからだ。


「計算は私に任せてください!」


 料金箱の中身を計算するのはネージュだ。銀貨ワンコインに設定した商品の料金だが、銅貨でお支払いをする客もいる。なのでしっかりした計算が必要になる。

 異世界人のマサキよりもこの世界の住民でこの世界のお金に慣れているネージュの方が素早く、そして正確に計算することができる。適任だ。


「マサキさん。計算終わりました。七千ラビです」


 料金箱の中には七千ラビ、つまり商品十四個分の売り上げが入っていた。


「やっぱりな……」


 自分の推理が正しかったと薄く微笑むマサキ。


「やっぱりって……まさか!」


「そう。そのまさかだよ。ネージュくん」


「ネ、ネージュくん!?」


 本日三回目の推理小説ネタ。ネージュには伝わらないが名探偵が助手の名前を呼ぶ名台詞だ。


「やっぱり五百ラビ足りねーよ。あの幽霊が持ってたクダモノハサミの分だ……」


 マサキの中で点と点が繋がり一本の線となった。


「毎日うちの商品を食っている犯人は幽霊だ!」

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


マサキが何度も言っている「ネージュくん」は有名な推理小説のシャーロックホームズの名台詞です。

相棒のワトソンに語りかける台詞です。

これをネージュに言ってますがもちろんネージュはなんのことかさっぱりわかってません。



あと何度も言ってますがマフマフは胸のことです。

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[良い点] まさかの犯人が幽霊という推理!果たして真相は?
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