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兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが  作者: アイリスラーメン
第1章:異世界生活『無人販売所を作ろう編』
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22 ノコギリ作り

 昨日ぶりにレーヴィルが待つ道具屋の前に立った二人。いつものように手を繋いで平常心を保っているが、昨日のトラウマが思い出され小刻みに震えていた。


「こ、これは人間不信である俺の妄想なんだが、聞いてくれるか?」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


「ノコギリが完成したら、そのノコギリの切れ味を何で試すと思う?」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 二人のトラウマは刃全てを床に突き刺した剣だ。

 ルーヴィルいわく、()()()()()()()()らしい。その切れ味を証明するために二人の目の前に投げ飛ばしたものだ。

 当たっていれば即死案件。そんなことがあったのだ。トラウマを植え付けられてもおかしくはない。

 そのトラウマのせいでノコギリの切れ味を自分たちの体で試されてしまうのではないかと人間不信のマサキは妄想し恐怖に支配されている。

 ネージュは小刻みどころか大刻みで怯えて震えていた。


「洞窟の入り口よりも怖いんだけど……昨日の蜘蛛が可愛く見えちゃうくらい怖い……てか洞窟よりも暗くて不気味だぞ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 扉は半開き状態でそこから中が見えるが洞窟よりも暗い。文字が欠けて斜めに傾いている看板がさらに恐怖心をくすぐっている。

 そんな道具屋を見ながら二人は足がすくみ立ち尽くしていた。そんな時、半開き状態の扉から白髪頭で緋色の目そして真っ赤な口紅をした兎人族が顔を出した。


「お、いらっしゃいませー。待ってましたよー」


 元気に明るく挨拶をしたのは道具屋の店主レーヴィルだ。

 営業スマイルにしては素晴らしいほどの笑顔を二人に向けている。その笑顔はトラウマを植え付けられている二人にとっては恐怖でしかない。

 可愛らしい兎人族の少女なのだが二人には鬼族のように見えてしまっている。


「ガガガッガガガガッガガガガガガガガガガッガガガガ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 二人は怯えすぎて声が出ない。震えすぎて上の歯と下の歯が擦れ合う情けない音しか出せずにいた。


「き、昨日はごめんなさいー。少しやりすぎちゃいましたー。反省してますー。もうやらないのでそんなに怯えないでくださいよー。本当にごめんなさいー」


 レーヴィルは後悔していた。剣の鋭さを証明するためとはいえやりすぎてしまったことに。

 反省の意からか何度も頭を下げている。何度も何度もペコペコと大きな声で謝りながら頭を下げ続けた。

 そんなレーヴィルの姿を道具屋の前を歩く兎人族の里(ガルドマンジェ)兎人族(とじんぞく)たちは不思議そうに見ていた。

 中には見当違いな妄想をこそこそと話している兎人族もいる。これ以上レーヴィルが二人に謝り続けると里中に変な噂が広まってしまいかねない。

 周りを気にしながらそんなことを思考したマサキはネージュの左手と繋いでいる自分の右手でネージュを引っ張りながらレーヴィルと共に道具屋の中へと駆け込んだ。

 半開きの扉がギコギコと揺れる音だけが道具屋の前で虚しく鳴り響いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……ふー」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 思い切った行動をしたマサキはすぐに息が上がってしまった。緊張と恐怖の影響もあったかもしれない。ネージュは怯えたまま変わらない。

 マサキはネージュが大事そうに抱えているノコギリの材料が入った茶色い布袋を受け取り、レーヴィルに渡した。


「頼んだ量よりもたくさんありますねー。これなら二つ作れそうですよー」


 中身を確認するレーヴィル。暗い店内でも確認できるほど鉱石はハッキリと存在を主張していた。


「それと怖がらせてしまった謝罪がしたいのでお金はいりませんー。無償で二つ作りますよー」


 本当に反省しているようだ。

 無償で作ってくれると聞いた二人はお言葉に甘えて首を縦に大きく振った。マサキとネージュの二人が同じタイミングで同時に首を縦に振る姿はもはや一心同体と言えるほどだ。


「それじゃあ今からノコギリを作りますが見ていきますかー? 武器とかなら見ていくお客さん結構多いので、ノコギリも見ていったら愛着湧くと思いますよー」


 断る理由がない二人。そして断れない二人は、頷くしかできない。

 まだ完全に恐怖は払い切れてない。何重にも絡まったヒモのようになかなか解くことができないでいた。

 その心に絡まった恐怖のヒモを(ほど)くためにレーヴィルは気を利かせて言ってくれたのだ。


 そのまま二人は店内のレジカウンターの奥にある扉に案内された。その扉の先には鍛冶職をメインとした作業部屋になっている。

 道具屋の雰囲気とはガラリと変わり職人感が増し雰囲気が出ている鍛冶場になっていた。中央には大きな溶接台が設置されておりその上には黒い石のようなものが赤く点滅している。

 マサキは日本にはない直径五十センチほどの大きさの赤く点滅する黒い石を不思議そうにじっーと見ていた。そのマサキの視線に気付いたレーヴィルは説明を始める。


「これはですねー、火竜の爪ですよー。見ての通り欠けた爪なんですけどねー。この火竜の爪の上で刀とか防具とかを打って作るんですよー。ノコギリも一緒なので見ていてくださいー」


 するとレーヴィルはノコギリの材料の鉱石を火竜の爪の周りに並べ始めた。そして奥から持ち手の部分になる部品を取り出した。さらにハンマーのようなものと作業用のマスクも取り出す。


 いよいよ鍛冶が始まる。


 火竜の爪の上に鉱石を一つ乗せ持ち手部分にくっつけながらハンマーを打ち始めた。まずは鉱石と持ち手部分を溶接するところから始まったのだ。

 ハンマーで打てば打つほど火竜の爪は赤く燃える炎のように真っ赤に染まっていく。先ほどまでの黒い石のような見た目からは想像もできないほど赤い石のような見た目になっていた。もはや炎の石だ。


 ハンマーで鉱石を打つたびにビクッっと反応するマサキとネージュ。まるで拷問を受ける前のような反応だ。


 何度かハンマーで打った後は、黒い砂のようなものをかけている。これによって強度が増す美しい鋼になるらしい。

 この黒い砂のようなものも火竜の爪だ。火竜の爪を細かく粒状にした鍛冶に必須の材料だ。

 そのまま何度も打っていくうちに持ち手部分と鉱石の溶接が完成する。打ち続けていた分、鉱石は薄くなりノコギリの薄さに近付いていた。

 そこからは鉱石をひたすら打っていく作業が三十分以上続いた。


「ふぅー。まずはここまでですー。どうでしたかー?」


 作業用マスクを外し満足そうな笑みを浮かべるレーヴィルが三十分以上打ち続けていた鉱石を見せてきた。それは鉱石だったとは思えないほど美しい鋼になっており薄さはノコギリの薄さにまでなっていた。

 しかしノコギリの特徴でもあるギザギザとした刃ではない。どちらかと言えば中華包丁のような大きな包丁に見える。

 それでもマサキとネージュは目を輝かせながら感動していた。心に絡みに絡まったトラウマという恐怖のヒモが解けそうになるほどレーヴィルの鍛冶をする姿に感動したのだ。

 そして未完成のノコギリにも感動している。


「す、すごいです……」

「ああ、初めて見たけどすんごかった……」


 思わず二人は感想が口から溢れた。本心から出た言葉だ。まるで素晴らしい二時間の映画を感動はそのままでギュッと三十分に凝縮して視聴したかのような感動すら感じている。


「嬉しいですー。それに二人の震えも治まって私はもっと嬉しいですー!」


 満足気に笑うレーヴェルの顔はさらに笑顔が増した。真っ白な肌、緋色の瞳、真っ赤で妖艶な唇が汗と共に輝きだしレーヴィルという兎人族の女性をさらに魅力的に魅せていた。


「で、でも、そ、それだと、ほ、ほ、ほ、包丁……ギ、ギ、ギ、ザギザ……ギザギザ」


「ギザギザの部分は今からやりますよー」


 興味津々なマサキは震えながらもレーヴィルと会話する事に成功した。

 マサキは恥ずかしがり屋ではなく人間不信だ。なので相手を信用したり尊敬したり慣れたりした時点で会話をすることができる。もちろんぎこちない会話だがそれでも怯えて喋れない時よりは百倍マシである。

 恥ずかしがり屋のネージュはここからさらに信頼を得て自分に自信を持たなければ会話することができない。

 対人関係においては人間不信で全てを疑ってしまうマサキよりも恥ずかしがり屋で自分に自信がないのネージュの方が重症なのだ。


「それじゃ、こっちでーす!」


 レーヴィルは中華包丁のようになった鉱石を持ちながら仕上げの作業台へと案内した。

 そしてそこの作業台の上にある丈夫そうな透明のカバーを下ろし、足元にあるフタを開けてスイッチのようなものを押した。

 すると、作業台の中心に銀色の刃物のようなものが回転し始めた。作業台の上から下ろした透明のカバーは回転する刃物から身を守るための安全カバーだった。


「この回転する刃でノコギリのギザギザを作っていきますよー」


 物凄い速さで回転する刃物の迫力とは裏腹にレーヴィルはおもちゃで遊ぶかのような口ぶりで説明した。

 そして回転する刃物に向かって先ほど鍛治で作り上げたノコギリを当て始めた。ギザギザと機械のような正確さで前後にずらしていきノコギリの刃を作っていく。

 途中で水のような液体が刃物目掛けて放出され鋼のクズを綺麗に落としていった。


「はい、完成でーす!」


 一分ほどの速さでノコギリの刃のギザギザ部分が出来上がった。まさに至難の技。

 これで兎人族の森(アントルメティエ)の木を伐採することができるほどの切れ味を誇ったノコギリが完成したのだ。


 精密機械で作り上げたような正確なギザギザ。そして鋭い刃先。完璧な仕上がりだ。


「か、か、か、か、か、完璧すぎる……こ、これが、む、無料でもらえるなんて……」


 完璧すぎる仕上がりに開いた口が塞がらないマサキ。そしてネージュは瞬きを忘れるほど完成したノコギリに見惚れていた。


「はいどうぞー」


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございます…………って軽っ! ヤバッ! ネージュも持ってみろよ」


 ノコギリを渡されたマサキはその軽さにさらに驚かされる。そしてノコギリの軽さをネージュと共有したいがためにすぐにノコギリをネージュに渡す。

 ネージュは枝のように細い右腕でノコギリを受け取った。


「そ、想像以上に軽いですね……お、驚きました。す、すごいですね」


 レーヴィル相手だと喋れないネージュはマサキの耳元で感想を述べた。ネージュもマサキと同様に驚いている。


「軽量ですけど切れ味は本物なので気をつけてくださいねー」


 そんなレーヴィルの注意に二人は首を縦に激しく振った。

 レーヴィルはノコギリ専用の入れ物を二人に渡した。ノコギリを裸のまま持ち歩かせるわけにはいかないのだ。

 その後、自分の肩を揉みながら疲れた様子で口を開く。


「さすがに集中力を使いますので連続で作るのは無理なんですよー。なので明日また同じ時間に来てくださいー。二本目のノコギリは今夜中に仕上げときますのでー!」


「は、は、は、は、は、はい。よ、よ、よ、よ、よ、よろしくお願いします!」


 マサキとネージュは打ち合わせをしたかのように同時に頭を下げた。下げた角度も全く同じだった。

 そして約束通りお金は取られなかった。本当に無償でノコギリを作ってくれたのだ。

 鉱石を集めてくれたロシュ。そしてノコギリを作ってくれたレーヴィル。マサキとネージュは感謝する相手が増えていった。


 もちろんマサキとネージュの二人は受けた感謝を返さないほど腐った心の持ち主ではない。

 あくまで人間不信と恥ずかしがり屋という欠点があるだけだ。この感謝は必ず返さなければいけないと二人は口に出さずともしっかりと心に刻んだのであった。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


レーヴィルは道具屋の副業で鍛冶職もやってます。

熟練された鍛冶スキルを持っているので、どちらかといえば鍛冶職の方が稼いでますね。


ノコギリを手に入れたマサキとネージュ。

いよいよ店舗と住居のスペースを分ける壁作りが始まる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しづつでもお世話になった人達に感謝を表現できる日がくるといいですね。
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