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帰還後の世界

「私がセカンダーとなった理由はいとも簡単だ。私はここに来る前、経済コーディネーターをしていた。一般的な家庭よりはるかに裕福で、はるかに忙しかった。

 私には妻がいた。息子もいた。愛は燃え上がっている時間が短いと知っているか?

 私の仕事は人と人との間を飛び回り、助言することだ。

 皮肉だよな。誰か私の家庭について助言してほしかったが、それはいい。

 とにかく私には、冷めた家庭があった。別に浮気したわけじゃないが、私と妻との間の軋轢は徐々に広がっていった。

 最後に食事交わした日すら覚えていない。

そんな中……息子が私と妻の手を引いて、ゲームをやらせてくれた。これの元になったオンラインゲームだ。

私は仕事で忙しかったが、全ての仕事を部下に任せ、妻と一緒になって、息子と3人でゲームをした。

私にとってその時間が唯一の家族サービスで、良き夫、良き父であれた時間だった。

毎日できるわけでもない。時間も限られている。それでも、楽しかった」

全てを話し終えて、クラッススは再びニヒルな笑みを浮かべた。

クロンは不思議に思っていた。いくら情報を持っていたからと言って、クラッススがそれだけで町一番の金元になれた理由がわからなかった。

単純に、前職を活かしての話だったようだ。

そして、帰還の理由は家族。ゼスを息子だというのも、その過去があったからだ。

「あなたは、ゼスとの帰還を望んでいるのか?」

「そうだな。それも悪くない。だがとにかく、どちらにせよ協力は不可欠だ。私のためでもゼスのためでもなくていい。君の意思で、協力してほしい」

 改めて、と言う感じでクラッススは手を差し出して来た。

 確かに今まで軋轢はあったものの、クラッススの本心が垣間見えたようで、クロンは取りあえず握手に応じることにした。

「で、どうする。うちのボスは町に戻ったが?」

「ここは破棄する。災害獣があの大きさだ。町に来るまでいくらか時間が稼げるだろう。それまでに、私が私財を投じて壁を作ろう」

「なるほどな。それはそうと、次にあのアルファが俺のステータス画面を覗き見たら殺すぞ」

「承知した。やはり君は聡明だ。アルファ、私を守れ。クロンの見張りは解除だ」

「ご命令のままに、王」

 本人の前で言うべきではない会話を聞きつつ、クロンも町へ戻った。どうやら、まだダンジョンからモンスターが湧き出ていないらしい。

 とりあえず、ダンジョンの近くに行かなければ安全らしく、クロンたちは町で作戦会議を行うことになった。

 町が騒ぎと混乱で溢れることは目に見えたが、それ以上だった。

 全員が適当に集団になってざわめき合っている。誰の話をしているのか何の話をしているのか、一つ一つ聞いていけばわかるだろう。

 しかしクロンに雑音を紐解いていく趣味も無ければ暇もなかった。

 表情は一様に不安でいっぱいだった。誰もが何か、そう、言葉を待っていそうだった。

 人々の不安を解消する方策はたった一つしかありえなかった。

「みんな、落ち着いてくれ。聞いての通り、災害獣が回廊に姿を現した。前回の行動パターンを鑑みるに、恐らく数日の猶予がある。

 焦らず、私の話を聞いてほしい。我々《テーブルナイツ》は全ユニットを吸収し、一丸となってこの町を救おうとした。

 しかし、それは叶わなかった。当然だ。私に迎合しようなどというユニットはいない。

 それでも問いたい。諸君らにこの町を救うつもりがあるのなら、私に協力してほしい」

 驚くべきことに、町の人々は黙りこくった。アーサーの言葉に耳を傾けたのだ。

 どこまでも影響力とカリスマのある男だと、クロンは首を振った。

「そして、今回我々は、より強い力を得た。クロン君、ここに来てほしい」

 最悪だった。町の人間のほとんどがいるというのに、晒されるというのは。

 仕方なく、クレナは壇上に上がった。傍から見れば、金髪の美男子と銀髪の美少女。

「彼女はSSSランクの全職適正を持っている。この力と私の力、そして、クラッススの軍勢さえあれば、必ず勝てる!

 どうか信じてほしい! 我々は、この町と、諸君のために、剣だ!」

 アーサーとアーサーの騎士が剣を高々と掲げた。

 金属音が人々に感動と言う鳥肌を立たせ、大歓声が沸き起こった。

「……すまないな」

「俺は今、あんたの部下だ。兵の準備を整えたいが?」

「君に短剣を渡したままだ。好きに使ってくれ」

「了解した。それより、クラッススは――」

 クロンが言うよりも早く、クラッススが拍手をしながら壇上に上がり、随分芝居がかった仕草で微笑んで見せた。

「私の軍団も無論この町のために戦う。だが、私の持ち味は、有り余る、エルだ。

 私のこの資金を使い、この町の周辺に壁を作ろうじゃないか。強固な壁だ。

 安全な世界を、届けよう」

 クラッススは大金を使って壁を作る。アーサーは軍勢を指揮する。

 猶予は数日。ナギハの見立てを待つばかりだが、数日だ。何が出来るか考える必要がある。

 クロンの頭に浮かんだのは、クレナとライムだ。

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