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正義の味方

「雑魚が俺の友達を傷つけたらどうなるか教えてやろうか? ああ、もういないか」

 かちゃっと音を立てて、クロンは銃をホルスターにしまい、装備を全て納めた。

 さすがに全ての敵を一掃するのには骨が折れたが、クロンは題18層の敵を全滅させた。

「立てるか?」

 クロンがクレナに手を差し出すと、彼女はそれを拒んだ。

「なにをしているの……こんな、危険なところで」

「下は完全に制圧されたが、非難は完了している。既にアーサーとクラッススが外で封じ込めをしているから安心だ」

「そうじゃない! なんで来たの! ここは私の場所よ!」

 クレナが泣き崩れ、剣で乱暴に岩肌を叩きつけた。軽い音が悲し気にふたりの間を埋める。

「友だちだからだ。俺も《テーブルナイツ》に入った」

「なんで……はあ、もう良い」

「よくない。今度はこっちから質問だ。なんだ、あの戦い方は。死ぬつもりか!」

「それが何!? 私は、結局ナインスロートも倒せなければ、誰も救ってない! ようやく、皆のために戦えたと思えばこれよ!

 私が聞いたことでしか見知らない災害獣が、ここにいるの!

 もう、何をどうしろって……言うのよ……」

「……何もしなくていい。君の罪の意識を、俺が全て受け止める」

 涙を止められないクレナの肩を力強く抱いた。襲っているのと変わらない。

 それでも、どうしようもなく泣く少女をどうにかしてあげたかった。

 ふたりの視線が交錯する。クレナの濡れた瞳が、うっとりと何かを求めているようだった。

「もう少し待った方が良いっていうのは分かってるど、ちょっといいかにゃおふたりさん」

 ふたりはバッと離れ、闖入者のナギハを向いた。

 バツが悪そうなナギハは耳をぴくつかせながら、とことこと寄って行った。

「アーサーとクラッススが揉めてる。その間に、ライムっちが割って入って戦争になった」

 クロンとクレナは深い溜息を吐いた。急いで、一気に一回まで駆け降りていく。

 一々全ての階層を制圧する暇もないため、まさに駆け降りて行っただけだ。

 ダンジョンの明かりがすべて破壊されたせいで、いよいよ外へ出ると陽光が目に刺さるようだった。

 手で傘をしてぐるっと見渡すと……軍勢がいた。その中核で、三人の戦いは繰り広げられていた。

「ここは《テーブルナイツ》が管轄すると言ったはずだ」

「ほう。それでも構わないが、じゃあどうする。君の軍隊は先の戦いで疲弊した。これ以上戦えるのか?」

「ちょっと、ふたりで進めるのは良いけど、もう誰が救う救わないの問題じゃないんだっての。

 さっさと、町に、帰らないと死者が出る。

 今まで以上の量よ。今のでわかったけど、あんたら町の事より自分のことしか考えてないのね」

「抜本的な解決のためには話し合いは不可欠だ。一丸になる前に、この事態が起きてしまった。戦いはもう、始まっているんだ」

「へえ、じゃあ、あんたが率いるの? 死に急ぐための軍団を。まあ良いけど、私らのユニットは、あんたのユニットに吸収され、支配はされないわ」

「噂が独り歩きしているようだ。アーサーも私も、支配しようとは思わない。

 それよりも、今は彼女のことを考えるべきだろう。分かるか?

 この世界で最も強い、クロンだ」

 ライムは一瞬動揺したが、すぐに表情を戻した。それだけで、クラッススにも、アーサーにも、伝わるべき情報は伝わった。

「なるほど。全部ばれたってことね。まあ良い。で? クロンは正義の味方になるわけ?」

「その気はないが、アーサーの部下になる」

 短く、クロンは答えた。これ以上茶番に付き合いたくはなかった。

「それなら君も納得するんじゃないか? いらんままごとはしてないで、大人に任せろ。私の資金とアーサー、クロンの力があれば、この苦境を乗り越えられる。

 分かるかい? お嬢ちゃん。ヒューマニズムを語るなら、力をつけて語るんだ」

「あっそ。分かった。私が災害獣を潰す。あんたらの力は借りない」

 踵を返し、ライムは町ではなく森の方へ姿を消した。どうにも不和が全員の間を支配していた。

 アーサーの号令で、クレナとナギハ、そしてボロボロになってはいたが、ミュウルが軍団を率いて町へ戻った。

 クラッススの軍隊も傭兵隊長の号令で町へ戻った。

「あんたのせいで皆バラバラだな」

「クロン。止めろ。父さんは正しいことを――」

「君にお父さんが立派だと信じたいならそうしろ! だが、やってることは書き乱してるだけだ」

「なにを――」

 ゼスを手で制し、いくつか言葉を交わしたクラッススはスーツを正した。

「オメガ。息子を、頼む」

「ご命令のままに、王」

 喧騒に隠れて気付かなかったが、オメガにアルファがいつの間にかクラッススの傍にいた。

「良い息子だな」

「ああ。だからこそ帰してやりたい。元の世界にな」

「……あんたまさか、ゼスのためにこんな大それたことを?」

 クラッススはニヒルな笑みを浮かべて、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 こんな森の中に良いスーツと言うのは随分と、おかしなものだ。

 彼はとうとうと、語り始めた。

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