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孤軍奮闘

「おー、ナギハがさっさと行ったと思ったら、今度はあんたが怖い顔ね」

 腕を組んみ、ギルドの入り口で待っていたライムが呟くように言った。

 言葉を背中に受けながら、クロンは肩で風を切ってさっさと先へ進んだ。

「どうしたのよ」

「色々あったが、まずひとつ。たぶん災害獣が出現したらしい」

「……冗談でしょ。ネデルドーラは1年前に追い払ったわ。その時、フラグは特定のクエストクリアだったでしょう?」

 ライムも去年の戦闘に参加しているため、状況はよく理解していた。

 クロンの後を追いながらも、表情は冷静そのものだった。

「今回は別らしい。あの回廊のクリアで災害獣が解き放たれる仕組みになっていたんだと」

「まさか、もうクリアしたって?」

「想った以上に階層が少なかったんだろうって、ナギハが」

「そのナギハは」

「今、アーサーやクラッススに事情を説明している。とにかく言えることは、クレナとミュウルが危ないってことだ」


   †


「逃げて! 多分このダンジョンから出れば助かるから!」

 喧騒を飛び越え大混乱。戦える者も戦えない者も地面を蹴って逃げ惑っていた。

 彼らを追いかけるようにモンスターの群れが我が物顔で町を跋扈して、混乱をより大きなものにしていた。

 すぐさまクレナが動ける兵士をかき集めてモンスターの群れと対峙してなんとか18層まで圧し留めてはいるが、いつまでもつか分からない。

 全ての階層のリス地が解放され、しかも倍になって帰ってきた。正気とは思えない。

 クレナはこの攻略部隊の統率者だからこそ、常に冷静でいられた。

 焦れば死人が出る。戦うしかなかった。

「防御陣形。私が漏らした敵を狩るだけで強い」

 くるくると剣を回して、切っ先がモンスターに向いた瞬間地面を蹴った。

 同じタイミングでゼス、ミュウルが到着。クレナの指示を聞こうとしたが、止めた。

 無表情で雑魚モンスターのウィークポイントをしっかりと狙ったクレナに話しかける気力が起きなかった。

「クレナ。すまない、迂闊に俺たちが……」

「どの道これは起こってた。20層で終わるなんて誰も思わないから、ね!」

 ゴブリンの首に当てた剣を引き、クモ型の頭部に剣を突き刺した。

 飛び散るエフェクトの中剣を何度か振るったライムはすでに次の敵を捕らえていた。

 戦いの中で成長を遂げたクレナを、《テーブルナイツ》はもちろん、クラッスス軍も尊敬に近い信頼の眼差しで見ていた。

「クレナさん! いくらここで守ったところで無駄です。数が多すぎる!」

「分かってるわ。ミュウルちゃん、ゼスと一緒に他の全員を安全に避難させて。もう、下の階に降りたところで安全なんてないと思うから」

「君はどうするつもりだ。俺たちが残存兵力を回収すれば、それだけ君が苦しくなるんだぞ」

「私に考えがある。早く! これ以上犠牲者を出さないで!」

 ソードダンスを使い、敵の中核に躍り出る。一気に本丸を叩いて敵の戦力を削ぎ、ディレイのタイミングで味方に援護。

 オーソドックスだが一番効果的。

使用しているソードダンスも合計6連撃の《ライズラッシュ》で、合計12連撃。

モンスターからしたらたまったものではないが……向こうの数も異常だ。

味方の援護を待つ前に少し喰らってしまう。すぐにポーションを飲んで回復するが、現状ジリ貧でしかないことは分かっている。

抑えても抑えきれない。斬っても斬ってもキリがない。

ダメージは蓄積され、HPバーの三分の一が削られた辺りで、クレナは頃合いか、と視線を細めた。

「私が殿を務める。あなたたちはゼスたちを追って撤退してください」

「冗談じゃねえぞ、リーダー殿。あんたここを捨てるつもりと思ってんなら――」

「私は大丈夫です。これは、英雄の短剣を持つ私の命令です!」

「……全員撤収するぞ。陣形は何が何でも意地だ。俺たちは壁だと思え」

 傭兵隊長がすぐに部下たちに指示を出し、撤収を開始。モンスターがその間隙を縫おうとするが……二振りの剣が閃いた。

「私が通さないと言っている」

 モンスターを一度に二匹倒し、クレナが今一度群れにその身を投げた。

 強烈なプレッシャーでも感じたのか、モンスターたちの動きが鈍る。

 好機とばかりに攻め、攻め、攻めの一手。

 気が付けば……孤軍奮闘。孤立し、囲まれた。

 関係ないとばかりに剣を振り続ける。攻撃を受けて痛みもあった。

 それは同時に生きていると感じさせられた。昂揚していく気分は同時に死への恐怖に煽られる。

 剣を握っている時は剣士でいられる。誰かを守る存在でいられる。

 ダメージを負い、死の淵に立った今でもその気持ちは変わらない。

「はあ、はあ……皆、逃げられたかな?」

 息も絶え絶え。背中を、追い詰められた岩肌に押し付けた。小さな痛みと冷たさが、次第に興奮を冷ましていった。

 これで、死ぬことが出来る――

「それは大いに誤りだよ」

 声の主は……怒っていた。

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