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二刀流の美少女 美少女風の全職使い

「あー、ごめん、クレナ。なんかすっごいいけそうな雰囲気だったけど数が多い」

「ホントだよ!? え、どうするのこれ!」

 二刀流の美女がゴブリンを斬殺しながら焦る様子は比較的珍しい。というかままない。

 簡単な話、いくら2人が強いと言っても、モンスターがスポーンする場所に近すぎる。

「これあれだな。ボス部屋のモンスターって無限リスポーンするんだな」

「え、じゃあ私たちって、向こうがボス倒し終わるまでここで耐えないといけないの?」

「そうなる。あー、弾薬使い過ぎだな。弾持ってない? ハンドガンの」

「わ、た、し、け、ん、し。剣使いは銃使えないんだから持ってるわけないでしょう?」

「さーせんした。よーし、向こうがボス倒し終わるまで、こっちは裏側で死闘を繰り広げよう」

「え、そんなにまずい状況、なの?」

 心配そうな顔をするクレナに、クロンは親指を立ててにっこり笑った。

「一杯、俺が驕るよ。好きなもの頼んでいいぞ」

「え、死ぬの? そんなにまずいの!?」

「君のユニット次第ってとこかな」

 敵の殲滅が出来ない上に数が大規模戦闘レイドバトルように設定されているため多い。

 簡単に言うとジリ貧。終わりは下でフロアのボスを倒しているユニット――プレイヤー4人以上からなる集団――次第だ。

 要するに終わらない苦行をやり続ける必要に駆られるわけだ。

 ようやく意味を知ったクレナは絶句しながらもゴブリンを斬り続ける。

 そのうち後ろからカマキリ型のモンスター、マンティスが出現。ゾクゾクと種類が増え始める。ボスが弱ると種類が増えるらしかった。

「嫌、ちょ……虫無理!」

「いやいやいや、君に今抜けられるとさすがにさすがなんだけど」

「そういう割には余裕そうだね!」

 クレナの言う通り、ソードダンスのディレイ中にハンドガンを撃ちまくり、続けざまにソードダンス。ずっと動き続けているクロンは無敵だった。

 全く他を寄せ付けていない。あまりに、《全職適正》が強力すぎるのだ。

「よし、元気にやっていこうじゃないか」

「いや、だったら、下で参加した方が良いんじゃない? クロン君、こんなに強いのに。内に入れば幹部にもなれるよ?」

「……デスゲームのクリアは飽き飽きだよ。それより、協力してるんだから黙っててくれよ。俺のランクがSSSだって」

「うん。それが知られたくないから、全職適正のスキルも隠してるんでしょう?」

 穏やかな会話をしながらゴブリンやマンティスを殺害する。クレナは先の宣言通り虫が無理なため、クロンがマンティスを集中的に潰していた。

「ああ。よし、少し楽になったな。下はどうだ?」

 バレットを装備して下を覗いた。丁度、一応陣形を保ちつつボスを囲おうとしていた。

 レベル40代を抱える大手ユニットと寄せ集め。ようやくクリアできると踏んで攻略に乗り出したものの、戦闘は既に4時間が経過していた。

 現実の世界というか元いた世界と違って肉体的疲労はないものの、精神はガリガリと削られていく。

「くっそ……なんだよこいつ、倒れないんじゃないのか!?」

「HPバーもまだイエロー――半分近く――あるじゃない」

「もう、4人も死んでんだぞ……」

 悪いことしか考えられなくなっている。

 クロンはハンドガンを抜き、背後に迫っていたゴブリンを見ることもなく射撃。倒した後もまだ耳を傾け続けていた。

(この光景、デジャヴだな。まだここは異世界な分、リアリティがあるけど)

 この世界で肉体的疲労はないが肉体的な痛みは存在している。殴られれば痛いし斬られれば死ぬほど痛い。

 さすがに仲間が何人か死に、疲れもあれば希望もない。そう思っていた。


「怖いのは分かる。だが考えてみてほしい。諸君の帰りを待つ者は、諸君の背後にいる者は、もっと怖い思いをしている。

 今、我々の目の前にあるのは絶望ではない。

 この閉ざされた世界から脱することのできる手段、希望だ! この【四竜の塔】をクリアし、元いた世界に帰還を果たすためにも、我々は戦う!」

 金髪。銀色の鎧に青いマントをはためかせる青年。ネイビーの瞳が美しい、端正な顔立ちは美少年と言うに相応しい。

 少なくともクロンのように美少女に寄ってはいない。

 彼がこの世界を攻略する大手ユニットの一つ《テーブルナイツ》のリーダー、アーサーである。

「クレナ、君んとこのリーダーは大したカリスマだな」

「え!? 何!? ごめん、ゴブリンだらけで聞こえない!」

 ゴブリンの群れに両腕突っ込んで刻みまくるクレナ。赤い斬撃エフェクトが飛び散り、ソードダンスで一度敵の塊を遠くへ飛ばす。

 ディレイ中は敵の位置を把握、ディレイが解けると同時に疾駆するクレナ。

「あー、うん。あと少しで終わるからがんばれー。さて、と」

 バレットを構えるクロン。さすがにラストアタックをもらうつもりはない。

 ないが、そろそろ裏方も姿を消しておかないと表舞台に出かねない。

 スコープを覗き、ボスのウィークポイントに照準を定める。

 呼吸を整え、引き金を軽く指先で撫でた。

 時を同じくしてアーサーの剣が白く輝いた。

 アーサーがソードダンスを使い、クロンは引き金を引いた――

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