かつての災害獣
「ふたりがかり。そうか」
アルファは弓を取り出し、見るわけでもなくそこいらを歩いている人間に矢を放った。
矢は見事に命中したが、始まりの町では対人戦闘が出来ない。
「なにを……」
「あと何人にゃれば、人だかりができる?」
「……ちっ、ライムすまない。ちょっと行ってくる」
「私は必要?」
「その時は呼ぶ」
ライムは静かに頷いて、クロンに背中を向けた。
一番やってほしくない、目立つという行為をされたクロンは若干イラついていた。
「よく戦士でそこまでのレベルに来たな。魔法使いに並んで初心者が死ぬ職業だ」
「ああ、そうだな。剣の適正は高くてB、銃は使えない。代わりに斧の適正がB、俺の場合、弓がSだったからよかった」
さっきまでのやり取りはなかったかのように、アルファは淡々と答えた。
向かっている先は恐らくどこかのユニットハウスを改造した物だろうが、問題ではない。
問題は、アルファもオメガも、今まで表に出ないでこの強さだということだ。
「クラッススは何を考えている。明らかに準備が整ったから今動いたんだろう?」
「俺もオメガも、王のお陰でここにいる。邪推せずに従え。悪いようにはならん」
「協力しないやつはどうなる? 負うに逆らえば死ぬのか?」
「そうなるだろう。むしろ。そうなりたくないと思うのなら、止めろ」
ユニットハウス群が立ち並ぶ、菱形のモニュメントがある建物。ギルドの機能を考えれば、ここにユニットハウスが幾つもあっていてもおかしくない。
この世界は奇妙に律儀で合理的。
そんなこともあれば、雑で奇妙なモンスターがいたり、バランスが考えられていたりと、GMが複数人いると思ってしまいそうだ。
「部屋へ行くぞ。王がお待ちだ」
「他は」
「会議に参加している面々だ」
ぶっきらぼうなアルファの声は光と一緒に飲み込まれ、次の瞬間……円卓の前に来た。
正しくは、円卓にいくつか椅子があり、そこにアーサーや各代表、そし……クラッススが座っていた。
「おお、来たかクロン。ご足労願って悪かったね。美味いコニャックがある」
「今日はスコッチじゃないんですね。それで?」
クラッススではなくアーサーを見ると、彼は肩をすかした。
「ああそうだ。彼女はアーサーの懐刀とでもいうべきか、有能な交渉人だ。私も彼女に言われて金を出すことにした」
ほう、とばかりに、卓に座る人々の視線がクロンに注がれた。何か言いたそうなのはまさに目に見えている。
外で注目を買うのも嫌だがここでもかなり嫌だった。
「今日彼女には、一般人代表として来てもらった。君に問いたい。今複数あるユニットを一つにまとめるには、どうしたらいい?」
突拍子もない発想に、クロンは思わず全員の顔を見やった。皆一様に困惑しつつも反論意見はないようだ。
当たり前か。それはアーサーのやりたいことであり、その上クラッススも同じことを言えば間違いなく賛成するしかない。
「アーサー、本当にこれで良いと? それはもう統治じゃなく支配だ」
「私は――」
「なにを言うかねクロン。人々は支配を、もとい導き手を求めている。
カリスマだ。人類を導く希望の光、英雄にアーサーは相応しいと思わないか?
むしろ、彼のカリスマと私の巨額の資産があればいかように出来る。
君はどう見る?」
「どうもこうも、支配するっていうなら俺は町を出ていきます。ちょうど、クレナが攻略を始めていますし」
「私も彼女の意見には賛成だったよ。だが、クラッススの意見を推す」
アーサーはようやく口を開き、クロンに視線を送った。整った顔立ちに金髪と言う容姿に見つめられると変な気分になる。
「なんで」
「町の平和を守るには、圧倒的な統率期間が必要になる。例えばそれは唯一ユニットだ」
「俺が言ってるのは、入らない人間をどうするつもりなんですかってこと」
「それは私に任せろ。人は金に弱い。金を積めば十分だ。それに、我々は備える必要がある」
クラッススは訳アリの顔を見せた。もしかしたらこの訳アリの顔が、アーサーの折れた理由なのかもしれない。
クロンのほとんど野性的な直観は、この後的中することになる。
「クロン君。去年、多くを失った戦いを覚えているかい? ナインスロートよりも驚異的で凶悪で、我々が倒せなかったモンスターを」
何のことを言っているのか十分理解できた。
今まで一般的に戦ってきたモンスターはフィールド上に存在する野良モンスター。
クエストにのみ登場するクエストモンスターの二種類だ。
しかし、例外的に登場する壊滅的な強さを持つモンスターが存在している。
「災害獣か」
「ああ。そうだ。クラッススがその情報を掴んでいる。木たるべき大戦の時までに兵をもっと育てる必要がある。
君がその時外にいたかはさておいて、我々は一度災害獣と戦った。
結果、120名参加中80名が死亡。討伐は叶わなかった」
知らないわけがない。クロンもいた。
またこの戦いにクロン、ライムが参加していたが、アーサーの目には留まっていなかったらしい。
あの戦いは、一度デスゲームを潜り抜け、ラスボスまで到達した実績のあるクロンから見てもかなりヘビーな戦いだった。
まだ災害獣を相手どることが出来るレベルではなく、戦い方も確立されていない。
それどころか、ようやく《テーブルナイツ》が完成したというレベルだったからだ。




