悲劇の始まり
「ほう。俺の劣化スキルか」
恐らくゼスは銃と剣の適正が恐ろしく高いのだろう。
その点、全ての武器を不変に扱えるクロンはやはり驚異的だ。
さらに、攻撃をする前に攻撃をするなんてとんでもないスキルを持っている。
明らかに強者だが、今まで攻略の最前線で見たことがない。レベルは最高位の50で、さすがにクロンは驚きを隠せなかった。
「クラッススは他にどれ程の兵力を囲っているんだ?」
分からないが、アルファやオメガも相当な実力者だとクロンは感じていた。
確かにアルファの見張りに気づきはしたが、いつからいたのかは分からないレベルだった。
それに、弓使い。弓を扱える職業の【戦士】で生き残るなら、単純に戦闘センスがないと無理だ。
剣士と違って、鍛錬が必要な武器を扱う必要がある。当初戦士死亡率の大半を占めたのが、仕方なく剣を使っての戦闘をしたがために殺害されてしまった。
ただのモンスターごときに、殺された。それを考えれば、それだけでも。
「その技、まさか攻撃よりも先に攻撃を?」
「そうなんだが少し違う。お喋りよりもカバー入ってくれ!」
「へーへー。どうせ弱点は……ここだろ!」
目を瞑っていても対象に当たる。それがオートエイム。
なら、目をしっかりと開いて当てようと思えば、確実に当たる。故に必中。
ヘイトは全てゼスが買っている。クロンにはゆっくり狙いをつける時間があった。
菱形の攻撃は尾と、強靭な足。そして菱形のボディから吐き出される光線だ。
多彩な攻撃を仕掛けているようで、その実と単調だ。動いていれば攻撃を仕掛けてくる。
ゼスが剣を片手に避けつつ、通常攻撃。距離を取らず詰めていれば攻撃そのものの資格に入り込めるため、攻略は容易に思えた。
だが、一度クロンが精密射撃をしようとすると、菱形は動きを止めて銃弾も止めた。
そして違和感がクロンを駆け抜けた。ドリームのHPバーが減っていない。
いいや、減ってはいるが回復している。
「自動回復か。なら、ソードダンスで!」
剣の動きは止められない。ゼスがソードダンスを使って菱形に距離を詰めた。
肉薄してしまえば攻撃を喰らうこともないと考えての事。
しかし、ドリームは尾で足元を払い、ゼスのソードダンスの軌道をばっちり逸らすと、体から光線を吐き出した。
ほとんど直撃コース――
「っと、危ない」
間一髪のところでクロンが狙撃。弾丸がゼスの装備に当たって軌道が逸れ、難を逃れる。
体を掠める僅かな熱さのせいか、クロンの銃撃のせいか、ゼスは眉を顰める。
「防御力が高いやつだな。動きっていう意味で。ゼス」
「分かってる。同時攻撃だ。剣も使えるんだろう?」
「まあ落ち着きなって。あのドリーム野郎、防御の時動きが止まる。もしかするとだが……」
「そうだとしても反射速度が異常だぞ」
「そこは君に任せる」
クロンは手斧を持って投げると同時にナイフを持って投げつけた。
ドリームは回避行動をとり、まるで斧やナイフを嫌がるようにぬるぬると動いた。
やはり、と顔に出してクロンはニヤリと笑んだ。
ドリームが止められるのは弾丸だけだ。投擲武器を投げ続ければ嫌がって回避行動、つまり……動く。
そこへ向けて、実質ダブルタップの2丁拳銃をゼスが撃ち続ける。
やはりウィークポイントは頭部にあり、銃撃を受けると大幅にHPバーが削れていく。
この世界はおかしなところでゲームバランスの安定化にこだわっている。
高い防御力を持つやつの体力はかなり低い、とか。
一気に……撃滅が完了した。
「ふう、終わったな」
拳銃を2丁ホルスターに入れ、ゼスがクロンの方を見た。表情は疲れている。
それを見たクロンはゆっくりとほほ笑んだ。
「おいおい、あと一層分あるぞ。攻略は後回しで取り敢えずボス部屋を叩き潰す」
「なるほど。あとのリス地制圧は他のやつらにやらせるってことか」
「ああ。驚くべきことだが、この戦闘で俺たちは回復ポーションを使っていない」
クロンは攻撃を喰らわないようにスキルが誘導するが、ゼスは違う。
才能と努力だけでここまで来れるとも思えない。そこで、クロンはある考えに達した。
「君はセカンダーだな?」
ぴくり、とゼスの肩が揺れたが、クロンは表情を変えない。図星を突いたとしても。
「安心しな。誰にも言わない。その代り、俺のことも誰にも言うな」
「……分かっている。聞かないのか? 隠すわけを」
「君がクラッススの息子になっているのと同じ理由だろう。聞きはしないさ。俺も似たようなものだ」
本当にそれ以上追求することなく、クロン、そしてゼスは19層へ向かった。
そして、次の日にナギハが書いた新聞には、こう載る事になる。
大快挙! ダンジョンのフロア最速攻略記録更新! ヒーローはゼス。
そう、クロンの思惑通り、表舞台はゼスが躍ることになった。
そしてこれが、悲劇の始まりでもあった。




