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戦えない理由とデスゲームと

「ったく、空気読んでほしいな」

 なまくら、となった剣を捨て、クロンは吐き捨てた。

 何度か重火器のマガジンチェックをしていくが、弾もほとんどなくなった。

 おかげで敵のスポーン速度を上回って撃滅は完了した。でも……

「グロロロロ」

 蜥蜴の頭2つ。灰色で筋肉質の肉体。腰の周りにぼろぼろの布をまとっただけの人型モンスター。だが、大きさは4メートル近いし、手にはクロンよりも大きな斧を持っている。

 間違いない。ダンジョンレベルの中ボスクラスモンスター。

 リザードガード。それが3体。

 おそらくだが、九頭竜ナインスロートの体力がかなり低い段階なのだろう。

 ナインスロート自体、攻撃力は高いが、決して倒せない体力でも攻撃力でもない。

 難易度が高い理由は、こういったモンスターたちが空気を読まずに出現することにある。

「ったく、まあ、やってみるか、二刀流」

 剣を二振り構え、笑んで見せた。デスゲームを楽しんでいるかのように。

 クレナのように《二刀流》が使えるわけでもないクロンはソードダンスを両手発動できるわけではない。

 それでもクロンには、前の人生で培われたデスゲームの経験がある。

「悪いが俺は、裏方でいいんだ」

 地面を蹴り、先頭のリザードガードの顔面を狙う。

 モンスターはアルゴリズム――設定された動き――通りの動きを見せる。つまり、攻撃されればガード行動を取る。

 いい反応速度で顔を守るリザードガードだが、彼が実際に攻撃を受けたのは後頭部だ。

「ミスリードは戦術の基本だろ?」

 斬ると同時にギリギリ後方の一体の側部に剣を突き刺し、斬りあげる――

 上に跳び、胸元めがけて二本とも剣を打ち込む。

 止まったら負ける。

 地面に立てば死ぬ。

 過去に学んだことをすべて生かし、行き過ぎたスキルがクロンを守る。

 打ち込んだ後のわずかな隙を狙って三体目が斧を振り下ろす。

「オートガード」

 オートガードが発動し、無茶な体制でも剣が斧を完全に防いだ。

 膂力に任せて斧を弾く。二体目の胴体を足掛かりに三体目の頭部に一撃。

切り上げでもう一撃。

クロス斬りでトドメの一撃。

硬直の後、リザードガードが光の粒子になって消えた。

一度地面に降り立ったクロンは剣を軽く振って、最初の一体の背中に飛び掛かる。

 背中に剣を突き刺し、ウィンドウを展開。武器チェン――武器を再装備――する。

 これまでの時間は僅か病に満たないものだった。すさまじい速度の武器チェンジは、スキルやレベルを関係ないただのテクニックの中でも最高位。ここまでくればある種のスキルである。

「続けて一撃!」

 刺すと同時に再度武器チェンジ。右手、左手で突き刺す。トドメとばかりに、バレットM2再装備。

 超至近距離のヘッドショットはダメージ減衰がないため、攻撃力がダイレクトに伝わる。

 つまり絶命。

「んじゃあ最後はでかいの打ち上げますか」

 刀身が真っ赤に光る。

 ソードダンスを使って一気に距離を詰め、リザードガードの腹に強烈な一撃を叩き込む。

 モンスターの頭上に降り立ち、ディレイエフェクトをまといながらもくろんは武器チェン。

 攻撃力の高いマシンガン、アサルトライフルを二丁装備。

「打ち上げるっていうか、撃ち下す、だな」

 二連斉射。火花のエフェクトが散り、惜しげもなく、容赦なく、弾丸が撃ち込まれていく。

 剣と銃を同時に使い、テクニックで武器チェンジしていく。

 恵まれた力と才覚が見事に融合したクロンはたったひとりで邪魔者をすべて消し去った。

 陰の実力者。

 縁の下の力持ち。

 裏方。

 ただの自己満足なのかもしれない。

 だが、攻略したくないクロンにとって、これが最善だ。

 見殺しにすることなく、かといって表立つこともしない。クロンの過去が彼を表に立たせようとしない。

「俺は攻略しないって決めたんだ。デスゲームはもうこりごりなんでね。精々レベルキャップを上げて安全マージンを確保した上で、スローライフさ」

 ひとりで中ボスを打倒したクロンの生活は、町で生活する人間にとってはスローライフでもなんでもない。

 だが、死ねば死ぬデスゲームでフロアボス、そしてラスボスを相手にしたクロン。

 クロンにとってこの程度、充分スローライフの域だ。ラスボスやフロアボスという命を散らしかねないモンスターを相手にしないのなら、なおさら。

「さて、こっちはそろそろ一通り終わったかな。向こうはどんなもんだ? ライムが行って負けるってこともないだろうけど」

 さすがに気になりはした。ライムも、クレナも、クロンにとっては大切な友人だ。

 守りたい。それでも、過去の約束がクロンを縛り続けていた。

「デスゲーム……デスゲーム……デスゲーム、全く嫌になる。攻略組ももう少し統率が取れていれば、俺が頑張る必要もないんだけどな」

 長い髪を揺らした。最近はて手櫛が癖になってきている。

「アーサー。少ない人員で、倒せるか分からない戦いをなんでやった? 今までやってきた世界のセオリー全てに反する行いだ。それはな」

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