第五十九話 港町 アストラティカ
現在、俺の目の前には一面の青が、大海原が広がっていた。
そう、ここはフーデリオから西に進んだところに存在する港町。その名もアストラティカだ。
「それでここに連れてきた理由は?」
「だから助けたお礼としてこっちの仕事を手伝って貰うって前にも言ったでしょう? 聞いてなかったの?」
「いや、だからその具体的な内容を問うているんだが」
あれから餌付けなどを駆使してどうにかソラを鎮静化させた後、俺は自分の知る限りのことをシャーラ達に話した。
異世界からやって来た事も、そして俺の天職『贋作者』についても含めた全てを。
デュークの義手に仕込まれていたという記録を見られた以上それらの事はほとんど知られているようだったし隠しても仕方ないと判断したのだ。
そしてそれを聞いたシャーラ達は自分達のクランと連絡を取ったと思ったら急にこんなことを言いだして来た。
「ちょっとやる事が出来たから手を貸して。ちなみに拒否するなら今聞いた情報が翌日にはこの街中に流れることになるわよ?」
どこになど聞くまでも無く俺は了承するしかなかった。
そうして本来なら数日掛けて移動するフーデリオからアストラティカへの道のりを俺の反則級の身体能力に飽かせて僅か半日足らずで踏破したのが現在という訳である。
天職が『医者』の癖に病み上がりの相手に対する優しさなどはないらしい。ひどい話である。
なお、シャーラは俺の速度にギリギリで付いて来られたのでそのまま走って貰い、俺は両肩にソラとロゼを担いで走らされた。
すぐに帰れるからロゼ達に関しては置いて行こうかと思ったのだが、前回の事もあり二人に断固拒否された末の苦渋の決断である。
まあその重りがあったからこそシャーラが俺に付いて来られた面もあるようだったが。もっともそれを言うと二人が重かったと暗に示している事になりかねないので俺は余計な事は言わずに黙っておく。
また謝り倒す羽目になるのは御免なので。
ちなみにどうしてヒューリックが居る時はその速度で移動しなかったのかは、ヒューリックの身体能力がそこまでない事と、なにより雨の降り方がひどい事になるからとのこと。
それこそ雨雲とかがヒューリックに引き摺られるように風の方向とか無視して進み出す場合もあるのだとかで周りに色々と配慮すると普通に歩くのが最善なのだと。
「それにしてもヒューリックをフーデリオに置いてきて本当に良かったのか?」
あいつが居れば何かあった時に非常に心強いだろうに。なんなら後からでも一人でゆっくり来て貰えばいいのではないかとすら思ってしまう。
だがそれに対するシャーラの返答は至極真っ当で納得できるものだった。
「あのね、ここは港町なのよ。当然漁業が盛んでそれ以外にも各地へ人や物資を運ぶ輸送船も大量に出てる。そんなところにあれを連れて来てみなさい。どれだけ迷惑を掛けると思うのよ」
「なるほど。納得だ」
どんなにその影響を最小限に抑えようとしても『雨男』によって天気が崩れる事までは今のヒューリックでは止められない。
彼が居る場所一帯はほぼ確実に天候の悪化が見込まれるのだ。
雨を呼び寄せるという特性状、周囲に存在する雨雲なども呼び寄せてしまうとのことだし、それが常に港町周辺に常駐したら船が出航できなくなる可能性が低くはない。
「もしそれが誰かに知られて、迷惑を掛けた分の補填を求めらでもしたら私達は一巻の終わりよ。常に金欠な私達のクランにそんな金が払える訳がないんだから」
「……随分と世知辛い事情だな」
俺の天職で贋金を作れると聞いた時の誘惑に揺れる表情といい、どうやら金には相当困っているクランのようだ。
もっともその原因は研究費が嵩んでいるからとかで、組織全体の収入自体は相当あるらしいが。
(そもそも一人の金食い虫の所為で組織全体が金欠になるってそいつはどれだけの額をその研究とやらに注ぎ込んでるんだよ)
まあその研究者がデュークの義手などを作っている事を考えれば仕方のない事なのかもしれない。
あれは確かにとんでもない代物だったし、それを作るのに大変な苦労と費用が必要なのは何となくは理解出来るし。
「それで具体的な内容だったわね。まあ色々とやる事はあるんだけど、あえて一言で表すのなら……」
「表すのなら?」
そこでシューラは非常に良い笑顔を浮かべてその答えを口にする。
「金儲けをする為よ」




