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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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外伝 シャーラのUターン

 少々変わったイチヤという人物と別れた後、私達は目的地へと辿り着いていた。


 天気はヒューリックが居る事もあって相変わらず雨だが、それでも私達はこれまでより幾分マシな状態でその街へと到着できている。


「それもこれもこの折り畳み傘のおかげね」


 見たこともないイチヤの故郷の品だというこれは非常に役立ってくれた。


 私達のクラン「未知の世界(アンノウン・ワールド)」はある人物の研究の所為で常に金欠状態であり、高価な道具を買う余裕なんてないので本当に助かるというものだ。


 もっともあと一つヒューリックのレベルが上がればこの状況も一気に改善されるのだけれど。


 何故ならそのあと一つでヒューリックのレベルは最大値のⅩとなり、そこに至れば自由に雨を降らせることを選べるようになるからだ。

 本人がそうなるのが分かると言っているので間違いない。


(まあそのあと一つが死ぬほど長いのよね。大抵の場合)


 レベルは上に行けば上に行くほどレベルアップし難くなり、ⅨからⅩに至る道のりはそれこそ下手をすればIからⅨよりも大変な場合だって少なくないのだ。


 かく言う私もレベルⅦになってから変わらないでいる期間がかなり長いし、ここからまだまだ先が有るなんて正直考えたくもない。


「えっと、それでどこに行くんだっけ?」

「ここのギルドで働いているアーネストの友人に会いに行けばいいはずよ。えっと名前はデュークって言うらしいわ」


 実はそのアーネストという人物こそが私達のクランが金欠である最たる原因であり、変人奇人の寄合場兼育成所と呼ばれている私達クランの中でも指折りの変人である。


 そしてあれの友人をやれている時点でそのデュークという人物も相当頭がおかしいと覚悟しておくべきだろう。


 そんな実に失礼な覚悟を持って探し当てたその人物は、


「それでアーネストの知り合いが俺に一体何の用だ? 正直に言うともうあの変人と関わるのは避けたいところなんだが。まあ世話になったことは事実だしそれなりに感謝はしているが」


 こう言っては何だが普通に良い人だった。突然家に訪ねてきた私達をもてなしてくれているし、奥さんや娘さんも非常に礼儀正しく挨拶してくれる。


 しかも飲み物まで出してくれる出迎えっぷりだ。


「う、嘘よ。あの常識とか普通という言葉を生まれてくる時に忘れてきたとしか思えないあの変人の友人がこんなまともなわけない。何かの間違いだわ、そうじゃなきゃおかしい。いいえ、まだ本性を隠してるんだわ。きっとそうに違いないわ」

「ちょ、ちょっとシャーラ。気持ちは分かるけど幾らなんでも失礼だって」


 フェローしているヒューリックでさえ私と同じ気持ちである事がその言葉で分かる。


 そして何故か向こうのデュークという人も共感するようにしみじみと深く頷いていた。


「俺もあなた達があの変人と同じクランだと聞いていたから同じような考えだった。だがその言葉を聞く限り俺達は同じくあれの自由奔放っぷりに迷惑を掛けられてきた立場のようだな」


 そんな事もあり私達とデュークという人物はあっという間に意気投合することが出来てしまった。共通の敵が結束を生むという話はどうやら本当だったらしい。


 そこでいつの間にかやるべき事も忘れてあの変人のやって来た事に対する愚痴大会が開かれているのに気付いたのはそれから三十分近くも経ってからだった。


「いけない。このままだと何時までもこの愚痴が続くわね」


 それはそれで悪くないのだが、その前にやるべきことを終えてからではないと。

 そういう訳で私達はデュークという人物の義手を頼んで見せてもらう。


 実はこの義手もあの変人の研究成果から生まれた作品の一つとのこと。もっともかなり古い物で今ならもっと良い物を作れると出発前に私達に言って来ていたが。


 なんなら代わりになる最新式の義手を持たせようかとしてきたが、それについて断固として拒否させて貰った。

 

 あれが最新式とか試作品と言う物はどれも碌でもないのが判り切っているからである。


(本当にあの時の私の判断を誉めてやりたいわ)


 その判断は正しかったとここで改めて私は確信できていた。

 そしてこのデュークというあれの友人だとは思えないくらいの良い人を犠牲にしなくて良かったと心の底から思う。


「それで俺は何をすればいいんだ?」

「えっと、しばらくそのまま動かないで居て貰えるかしら。義手をしばらく見せて貰えればやる事は終えられるはずだから」


 そこで私達はアーネストに教わった通りにその義手に対して持ってきた妙な紐――アーネスト曰くケーブルと言うらしい――のような物を特定の部分に差し込む。


「確かこれで接続とやらが出来たのよね。それで後はっと」


 同じようにこちら二の腕に装着していた腕輪にもう一つのケーブルの先を繋ぐ。


 そしてスイッチを入れると、アーネストの言っていた通り頭の中に映像が流れ込んでくる。


 あの変人の話だとこの義手には『記録者(スコアラー)』と同じことが出来る機能を搭載しており、こうする事でそこに溜め込んだ記録を一気に、しかもごく短時間で見られるのだとか。


(えーと最近の事だけでいいからほとんど除外してっと)


 特に家族の団欒の風景や夫婦の営みのような他人が見てはいけない奴は真っ先に除外していく。悪いけど見たくもないし。


 そうして残った手がかりになりそうな映像を確認していくと、そこでなんとイチヤが現れた。どうやらこの様子を見るとデュークという人物と知り合いだったらしい。


(妙な縁もあるものね)


 そう思っていられたのは初めの内だけだった。


 何故ならそのデュークとイチヤの会話の中に明らかに普通では考えられない物が多数存在したからだ。


 中でも二人が出会った頃の会話で異界という単語が出てきている。


(嘘でしょ。まさかこんな事って……)


 だがそうとしか思えない。だとしたら何て運命の悪戯だろうか。


 私はすぐにそれらの映像を一通り頭の中に叩き込むと、現実の世界へと戻る。


「確かに記録は見せて貰ったわ。それで聞かせて貰いたいことが幾つかあるんだけど」

「ちょっと待て。その記録とは何のことだ? 今のは義手の整備をしていたんじゃないのか?」


 こちらの言葉を遮ったデュークはそんな見当違いの発言をする。ここに来て私達は認識に擦れ違いが有ったことに薄々気づき始めた。


 だからまさかと思ってこの義手に記録する機能がある事を知っているかと聞いてみたところ、


「そんなの聞いたこともないぞ! あの女、肝心な事を話さずに俺にこれを与えやがったな! ふざけやがって!」


 御覧の通り烈火の如く怒りを露わにすることとなった。


 こちらはてっきりその事も話してあるかと思い込んでいたのだが、あの変人は勝手にその機能を付けてしかも本人には黙っていたらしい。


「どうすれば今すぐにその記録とやらを消せる? その為なら何でもするぞ、俺は!」

「そ、それは申し訳ないけど私達も教えられてないから分からないわ」


 そこでふと私はある一つの妙案を思い付いた。


「でもこっちにイチヤの事を教えてくれるのならその方法を彼女から聞いて来ても良いわよ? まあ記録で見たから大丈夫だと思うけど、抜けてるところが無いか念の為に確認したいしね」

「シャーラ、それ完全に脅しになってるって分かってるかい?」


 それがどうしたと笑顔でヒューリックに無言で答えてあげると、彼は素直に黙って頷いていた。最初からそうしればいいのである。


「……分かった、話せばいいんだな。それとイチヤに危害を加えないと約束してくれ」


 結局その後に記録で見られているから隠しても仕方ないと理解したデュークが口を割り、それで記録に間違いが無い事を確認した私達はすぐに来た道を引き返していった。


 何としてでもイチヤ達に追い付く為に。


「こんなんだから奇人変人の寄合所なんて言われるんだろうなぁ」


 そんな風に若干諦観の念が籠った声で呟かれたヒューリックのその言葉に私は一切反論する事は出来なかった。何故ならまさにその通りだと思ったからだ。


 そうして先を急いでいた私達だけど、意外な形でイチヤとすぐに再会することになるのだった。


 そう、それもまさかの敵対クランの『剣王』も一緒に居るという、これまた非常におかしな状況で。

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