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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第五十四話 ベジタリアントの大群

 敵がそこまで強くない割に報酬が良いとこもあり掃討作戦には多くの冒険者が参加することになった。


 そしてその中から組む相手が特にいないメンバーをギルドが数名ずつに配置し、割り振られたチームごとに各自でベジタリアントに対処することとなった。


「冒険者に軍隊みたいな集団での規律ある行動を求めても無駄だからな。だったらこうしてそれぞれが思い思いに動けるようにした方が良いって訳だ」

「それで指揮系統とかは大丈夫なのかよ? それに打ち漏らしとか出ないのか?」

「勿論そこら辺の事は考えて俺達の後方では正式な軍が防衛線を張ってるさ。これは有り得ねえことだろうが、俺達が何も出来ずに全滅しても大丈夫なようにな」

「要するに俺達冒険者は先陣を切って数を減らす特攻部隊みたいな扱いな訳ね」


 別名使い捨ての駒とも言えるかもしれない。


 まあ特定の国家や組織に所属している訳でもない傭兵みたいな冒険者の扱いなんてどこもそんなようなものなのだろう。それについては承知の上なので特に文句はない。


 それに俺は昆虫系の敵に有効とされる火の魔法が使える事もあってこのマックスと同じグループに配置されたことを考えれば、それなりには大切に扱われていると見るべきだろう。


 ギルドもこんな事でお抱えの職員を失うようなことは避けたいはずだし。


 俺達のグループは俺を含め四人で構成されていた。メンバーは俺にマックスは当然の事として、残り二人はどちらも男の冒険者でジョリオとキルリンという名前らしい。


 ちなみにジョリオという男は前にギルドの受付で騒いで腕を折られていた奴だった。あれからどうなったのかは知らないが、こうして健康な身体で冒険者をやっているところを見ると受付への暴力を振るおうとしたことは許されたらしい。


(まあこの様子だと借金はまだまだ抱えてそうだけどな)


 より多くの戦果を上げれば報酬に上乗せが有るという説明を聞いてから張り切っているし、これで借金をチャラにしてやるとかぶつぶつ呟いているから間違いないだろう。


 俺としてはそこまで頑張るつもりはないので後で色々と面倒な事になるかもしれない。もっともその時はその時だが。


 またこれから行動を共にするに当たってお互いの天職についても俺達は教え合っていた。これは言うまでもない事だが俺は『剣士』ということにしてある。


 そして話を聞く限りではマックスだけが稀少職(レアジョブ)の『狙撃手(スナイパー)』でジョリオが『戦士』、そしてキルリンが『魔法使い』とのこと。単純に考えれば前衛と後衛が二人ずつとなるメンバーだ。


 ただ俺は火の魔法を使えることもあって基本的には前衛をジョリオに任せて魔法での援護が主な役割となり、ジョリオ一人で敵を抑えられない場合のみにそこに加わることとなる。


 なお、これは当然の事ながらリーダーはマックスだ。


「さて、大まかな作戦も出来た事だし、気合を入れて行くとしますかね」


 それから俺達はしばらく敵に遭遇する事も無く先へと進み続けた。


 マックスは本部と連絡を取り合いながら進む方向を決めている辺りを見ると、何人かのギルド職員などは連携して掃討作戦を行っていると見て間違いないだろう。


(流石に全部勝手にやらせる訳がないか)


 そんなマックスの指示の下で俺達は険しい山の獣道を進んで行き、遂にそいつらと遭遇した。


「来るぞ」


 そのマックスの言葉とほぼ同時にそいつらは茂みの中から跳び出して来た。


 見た目はフライングアントとほとんど変わらないそいつらの中の一体を目掛けて、素早い動きでマックスが迎撃の一射を放つ。


「おらあ!」


 頭部を射抜かれたそいつが地面に落ちて、そこからは作戦通りジョリオがその手に持つ斧を振り回して敵を威嚇する。


 そうなると自然と奴に敵の注意は集まり、後衛が迎え撃つ準備が整った。


「フレイムブラスト!」

「ファイヤーボール!」


 前者は俺の、後者はキルリンの魔法だ。どちらも火の魔法であり、それによって生まれた炎が敵の多くを一気に呑み込んで行く。


 更に音も無くマックスも次々と矢を射て敵の数を減らしていっていた。


「死ね! 雑魚共が!」


 そして止めとばかりに振るわれたジョリオの斧の一撃で最後の一体が力無く地面に落下して初めての遭遇戦は一先ず終わりを告げる。


 俺が前に出る必要が無い事からも分かる通り思っていたよりもかなり楽なものだった。


「ふん、この程度なら俺一人でも充分だな」

「だからと言って油断するんじゃないぞ。敵の厄介な所は強さよりもその数なんだ。最初は楽でも回数をこなす内に疲労が溜まって辛くなってくるんだからな」

「はっ! こんな雑魚相手が束になろうが俺様の敵じゃねえさ」


 同じように感じたのかジョリオがそんなことを言っているのをマックスが窘めているが聞く耳を持つような奴ではないようだ。


 俺も似たようなこと甘い考えを無意識の内に持ち始めていたので、改めてそこで自分の気を引き締める。マックスの言う通りだと思って。


 だがそこから十回以上の同じような戦闘を経ても俺達は一向に負ける気配はおろか、ほとんど疲労することもなかった。


 それぐらい拍子抜けするくらいの楽勝が続いたのである。


「ほら、さっさと先に行くぞ。どうせならこのまま巣穴を潰して報酬をたんまり貰ってやろうぜ」


 完全に敵を舐めきってこんなことを言い出すジョリオだったが、今度はマックスも呆れ顔をするだけで注意しなかった。


 言っても無駄だと思ったのか、あるいはこのまま調子づかせておく方が扱いやすいと考えたのかもしれない。


 そうして思っていた以上に森の奥へと進み、ベジタリアントの巣穴と思われる洞窟近くまで辿り着いた時だった。


 そこに居た一人の妙な男を発見したのは。

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