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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第四十五話 立場逆転

 モーリスから粗方の話を聞き出した俺は奴の意識を奪うとその場に放置した。


 ただし意識を奪う前に目が覚めたら自首するように、そして俺達の事を決して誰にも口外しないように誓わせてからだが。


「ねえ、やっぱり生かしておく必要はないんじゃない?」


 そうしてモーリスから聞き出した奴らのアジトに向かう最中でロゼがこんなことを言ってきた。


 ちなみにその服などはすべて俺が出した贋作に取り換え済みで汚れ一つない状態である。


「イチヤ様の意見に逆らうようで恐縮ですが私もロゼの意見に賛成です。ああいう輩は目が覚めて私達が居ない事に気付いたら、約束した事などなかったことのように逃げるだけです。ですから下手な事を言い触らされる前に始末しておいた方が良いと思います」

「何なら今からでも私が行ってくるわよ?」


 俺もこれまでの行動などを考えれば他人の事を言えた義理ではないが、随分と物騒な発言を平然とするものである。


 もっともそれが正しい意見であることはこちらも分かっていたがそれでも俺は首を横に振る。


「いいんだ。確かにあいつは俺達との約束なんて無視して逃げるだろう。だけど今回はそうして貰った方が俺にとっても好都合なんだ。あいつには実験台になってもらうつもりだからな」


 仮に逃げないで自首するならそれはそれで問題ない。たとえそれで実験が上手く行かなかったとしても悪人がまた一人お縄につくだけなのだから。


「それよりもソラは大丈夫か?」


 前にシャーラに指摘された件もあって俺は今回ソラに人を殺させることを選択した。いつまでも衝動を抑えて溜め込んだとしても悪影響が出てくるようだし、それならばいっそのことレベルを上げさせようと考えたからだ。


 もしかしたらそうする事で衝動をコントロール出来るようになるかもしれないし。


「それは大丈夫です。特に天職にも変化はないですし、体調も問題ありません」

「ならいいが、何かあったらすぐに言うんだぞ」

「は、はい!」


 たったこれだけの心配の言葉でもソラは嬉しそうに耳をピコピコと揺らしている。恐らくは服に隠れた二本の尻尾も同じように喜びを表している事だろう。


(なんと言うか可愛らしい奴だな。ペット的な意味でも)


 言葉は悪いかもしれないが忠犬に懐かれている気分だ。


 その所為かついついその頭に手を伸ばして撫でてしまう。まあ嫌がられてはいないし、うっとりとした表情でされるがままになっているので問題ないとしよう。


「はいはい、じゃれるのはそこまでにして集中しなさいよ」


 そのロゼの言葉が示す通り俺達はモーリスから聞き出した奴らのアジトのすぐ傍まで来ていた。


 そこはこのフーデリオという大きな街の中でもスラムに該当する場所だ。


 そうなると当然周囲に居るスラムの住人達は俺達の事を何事かという目で見てくる。ここでは逆に綺麗な服装をすれば目立ってしまうという訳だ。


 特段高価な服を着ている訳ではないのだが、それでも目立つのは避けられないようである。


「っと、あそこだな」


 スラム住人の中でもならず者などの更に宜しくない経歴などの持ち主が集まっているとされる一角にあった赤い屋根の建物こそモーリスから聞いていた奴らのアジトだった。


 結構分かり易い位置に建っているというのによくこれまでそこに居る奴らは捕まらなかったものである。


(いや、門番と通じているのなら賄賂でも送っている事も考えられるのか)


 それで自分達の犯罪行為を隠して貰っているという可能性も無くはない。


 もっともそんな事など俺達にはどうでもいいことだ。何故ならそいつらはすぐに潰される事になるからである。


 まあそれが比喩的な意味で済むのか、それとも物理的になるのかは奴らの行動次第ではあるのだが。


「ここは俺だけで行くから二人は周囲の警戒を頼む。それで何かあったらすぐに伝えてくれ」


 モーリスの話ではそこまで厄介そうな相手はいないはずだし、むしろ騒ぎを聞きつけて衛兵などに来られる方が厄介だと判断した結果の作戦である。


 まあここは普通の人が滅多に訪れないスラム街だからそう簡単にはやって来ないと思うが。


 そうして俺はここに来るまでの道のりの中で買っておいた覆面の贋作を作り出すとそれを巻いて顔を隠す。今更遅い気もしたが念の為という奴だ。


「さてと、行きますか」


 準備の終えた俺はそのままその建物の前まで歩いて行き、


「何だお前? ここに何の用だ?」


 扉付近で屯っていた奴らが俺に声を掛けるのも無視してその中に入って行く。


 勿論その声を掛けて来た奴らは俺の肩を掴んで止めようとして来るが、気にせずそのまま引き摺って先に進む。


「えーと、ここが衛兵と内通してこの街に来たばかりの冒険者をカモにしている集団のアジトで間違いないよな?」


 中に入って来た正体不明の覆面男のいきなりのこの発言に中に居た奴らは脅しを掛けるような怒声を上げながらそれぞれの武器を抜く。


 その中に「だったらなんだってんだ!」というそれを認める発言があったのでどうやら場所を間違えたとかはなさそうだ。


 つまり容赦する必要は皆無という事である。


「警告はこの一度だけだぞ。大人しく武器を置いて自首するのなら俺はお前達を殺さない。欲しい物を取るだけで済ませてやるからそうするつもりはないか?」


 その返答は引き摺っていた男達が武器を抜いて攻撃して来た事で明らかになったので、俺はまずはそのいつまでもくっついて邪魔な奴らから排除することにした。


 と言っても剣の一振りでこちらを掴んでいる腕を丸ごと斬り裂いただけなのだが。


(盗品の管理をしているのは痩せた頬に傷のある男だったよな……ああ、あいつか)


 生かすべき対象もこうしてすぐに発見できたので、


「今まで散々奪う立場に居たんだ。逆になっても文句は言うなよ」


 俺は腕に魔力を集めていき、それによって高められた剣撃をそいつらに向けて容赦なく与えていく。


 その結果この後に自首することになる頬に傷のある男以外の奴らは死亡し、その現場に踏み込んだ兵士達が血の海を見ることになるのは至極当然の流れだったと言えるだろう。


 ちなみに盗品の中で幾つかの品を覆面の男が持っていった事は生き残った男が約束を守って黙っていたので誰にも知られる事はなく、お上りの冒険者を狙った犯罪はこうして幕を閉じる事となる。


 そしてそれからしばらくの間、街では冒険者に手を出すと覆面の鬼が復讐にやって来るという何とも奇妙な噂が流れることになるのだった。

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