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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第三十四話 事の顛末

 脱出した俺を出迎えたのは先に脱出したロゼやソラ達だけではなかった。


 オルトロスの時のように緊急事態として派遣されたデュークのようなギルドお抱えの人などもそこには居たのだ。


 そしてそいつらはテリアから大体の事情を聞いていたらしく、俺の事を関係ない冒険者などと勘違いしてくれることはなかった。もしそうなら何食わぬ顔で逃げる気だったのに。


 そうして半ば連行されるような形でギルドまで運ばれた俺達は奥の広い応接室のようなとこに通された。ちなみにそのメンバーは俺達三人とオグラーバ達四人。


 そしてデュークの計八名、つまり今回の一件に深く関わっている奴ら全員という訳だ。


「で、色々と聞きたい事があるが、その前にどうして別のところに行っていたはずのデュークまであの脱出先に居たんだ? それとポロンはどうしてそんなにボロボロになってるんだ?」


 案内されて部屋でしばらく待つように言われたので俺は先程から気になっていた事を口にする。特にポロンは役割から考えるとそこまでの格好になることはあり得ないと思うのだが。現にテリアの方はそんな事は無い訳だし。


「俺は自分の方を片付けた後に異変を察知したからそちらに向かっただけだよ。そしてそっちの彼はどうも迷宮の中で人質の脱出を手伝っていたそうだぞ」


 その言葉にオグラーバが鬼の形相でポロンを睨み付ける。それにポロンはすぐさま反応して言い訳を口にした。


「い、いや、俺だって本当はそうするつもりはなかったんだよ。だけど迷宮から嫌な感じがしたと思ったら、何人かの先に脱出していた人が急に誰かの名前を呼びながら迷宮の中に入って行ったんだ。だからそれを放っておく訳にもいかなくて……わ、悪かったよ。約束を破ったのはさ」


 言い訳を口にしても一向に緩まないオグラーバの顔を見て諦めたのか項垂れながら謝るポロン。そして案の定、頭には拳骨が降り降ろされるのだった。


 それにしてもその現象には心当たりがあった。どうやらスカルフェイスが引き起こしたと思われる混乱はあの部屋の周囲だけではなく迷宮の外にまで及んでいたようだ。


 そしてそれを追ったポロンはテリアを置いて迷宮内に入っていったということらしい。


「まあまあオグラーバさん、今回だけはそう怒らないであげたらどうです。約束を破った事については彼が悪いでしょうが、それを帳消しにするような功績も上げている事ですし」

「功績だと? こいつがか?」


 仲裁に入ったデュークの言葉に信じられないという様子でオグラーバは聞き返す。だがそれに対してデュークは更なる褒め言葉を口にするのだった。


「あくまで結果的にですが、彼のおかげで色々な事が助かったようですよ。例えばソラがあなた達の方に行けたのも彼のおかげと聞いてますし」


 ソラ達にも確認してみたがそれは本当とのこと。あの時、避難誘導にポロンが加わり余裕が出来たことでソラはこちらに来ることが出来たという訳だ。


 そのおかげでこちらはスカルフェイスを倒す手段を見つけられたのだからその功績はかなり物と言っても過言ではないだろう。


「それに逃げ出したフィリップを捕えたのも彼ですよ」

「え、マジで?」


 そのデュークの発言に俺は思わず口を挟んでしまう。


 フィリップをポロンが捕まえたというのも相当な驚きだが、それ以上にあの状況でも生き延びたフィリップのしぶとさが信じられなかったのだ。確かにあれだけの混乱だったし、中には逃げ延びた奴らが居てもおかしい事ではないのだろうが。


(流石は『福男(ラッキーマン)』ってところなのかな)


 俺がその運の良さに改めて感心していると、そこにようやく人がやって来た。人数は二人。どちらも男だ。


「待たせてしまってすまないね。私はラビエル、このギルドのギルドマスターをやっている者だ。そしてこちらがこの辺り一帯の領地を治めていらっしゃるバイエル・キーリス・コースター男爵だよ」

「バイエル・キーリス・コースターだ。よろしく頼む」


 初老で白髪の男性がギルドマスターのラビエルで、中年で金髪の方がフィリップの父親である男爵様らしい。


 確かに髪の色以外でもどことなくフィリップに似ているパーツがあるかもしれない。


 もっとも太り気味のあいつと違ってこちらは細身で締まった体をしていることもあってパッと見では二人が親子だとはとても思えないが。


「この度はあのバカ息子が君達に迷惑を掛けたようで申し訳ない。その上で君達に頼みがあって私はここに来た」


 そう言った男爵は懐から書簡を取り出すとそれをこちらに差し出して来る。そこには文字がビッシリと書かれていたので、とりあえず俺は受け取ったそれを読んでみた。


 そこに書かれていた内容は短くまとめればあそこにボンボンが居たこと及び奴から聞いたことを決して口外しないというものだった。後者はともかくとして前者は「はい判りました」と納得できるものではない。


「これはつまり余計なことは言わずに黙ってろってことですか? しかもこれってどう見てもあのフィリップって奴を罰しないつもりってことですよね」


 ポロンも同じように感じたのか俺が口を開く前にその言いたい事を訪ねてくれた。


 それを聞いて渋面を作り、余計なことを言うなと思っているのがありありと伝わってくるオグラーバには悪いが勝手にこちらの意思を代弁してくれるようなので俺は放置することにする。


 そうすれば仮に男爵がその質問を無礼として怒ってもその矛先は俺には向かないだろうし。


「いいや、そうではない。少なくとも今度という今度はあのバカ息子を許すつもりなど毛頭ない。時期を見て処分する。だがそれと同時に奴がいくら家を追い出した元息子とは言え、ここまでの大それたことをしでかされると我が男爵家にとっても困ることになる。だから奴があの場に居なかった事にしたいという訳だ」


 処分という単語を口にする時の雰囲気から言って始末すると思って間違いないだろう。もっともその口振りだと向こうにも都合が有るらしく今すぐという訳には行かないようだが。


「そして君達がこの条件を呑んでくれるのならば、こちらはそれを決して追及しないと誓おう。何故ならその場合では奴はあそこに居なかったことになるからね」


 居なかった奴からは何かを聞ける訳がないという事か。


「ちなみにこの提案を受け入れなかった場合は?」

「その時はお互いに取って面倒な事にならざるを得ないだろうね」


 その俺の質問に対する答えでこちらの方針は決まった。


 下手に秘密に近付きすぎて処分されるなんてそれこそ御免だし。少なくとも今はリスクを冒してまでその秘密を知るタイミングではないのだから。


「俺は別にそれでいいですよ。しっかりとそいつと他の捕まった奴らを処分してくれるのなら」


 それさえ呑んでもらえるのならばここでわざわざ貴族とやらに楯突いて下手に怒りを買う意味などない。


 だったらあっちも追求しないと言ってくれているという事だし、その提案とやらを呑んでおく方が賢明と言うものだろう。


「ならず者については元貴族でもないしすぐにでも処刑されるさ。どいつもこいつもそうされても仕方のない奴ばかりだしね。それでそちらはどうするかな?」


 俺の意見が決まった事で自然とロゼとソラも同じとなる。そしてギルド職員であるデュークに至っては聞くまでもない事だろう。となれば残るはポロン達四人だけだ。


「こちらも喜んでその案を受け入れさせていただきます」


 実際に囚われていたメロディアもそれでいいと言っていたのでポロン達の反論が出る事も無くすんなりとオグラーバが了承の言葉を口にする。


 そして正式に書類にサインをして契約を結び終えると男爵は、もうここに用はないと言わんばかりにさっさと立ち去って行った。何と言うか清々しいくらいに事務的と言うか、あっさりとした対応である。


「さて、貴族側の話も終わった事だし今度はギルド側の話をしようか。と言っても先程の件を呑んでくれたおかげで話は大分簡単になったけどね」


 ボンボンが消えたことでややこしい貴族についての問題はなくなり、俺達がやったことは簡略化された。


 即ちならず者達に仲間を攫われてそれを取り返しに行き、その過程で他の被害者も救出している最中に現れたスカルフェイスを討伐した、という風に。


「これらの事を考慮して、まずはスカルフェイスを倒したイチヤ君は無条件でD-ランクまで上げる事にしよう。本当はもっと上でも良いんだけどデューク君の話だと目立つのは避けたいそうだし、金貨などの報酬を上乗せする事でその代わりとしようと思っているけどそれで大丈夫かな?」


 これまで良くしてくれたデュークがその方が良いと言うのなら特に逆らうつもりはないので俺は素直に頷く。


 ちなみにロゼとソラは俺の所有物扱いなので特に報酬などは出ないとのことだ。


「ポロン君、テリア君、そしてメロディア君については人質避難などの功績を認めてそれぞれ一段階ずつランクを上げる事としよう。君達の実力だと余り上のランクにいきなり行き過ぎるのは良くなさそうだしね」


 これまたその分は報酬を上乗せするという事で話は済む。


 そうして今回の一件で与えられる報酬についても決まったところだった。


「それでこれはお願いがあるんだけど、あのスカルフェイスについて何か分かる事が有ったら教えてくれないかな? 少し前のオルトロスに引き続きあのクラスの魔物がこの短期間で現れるのは迷宮内とは言え異常という他ない。だから何でもいいから手がかりが欲しいんだ」


 そうは言われても俺はあの迷宮内で起こったことについて全てデュークに話してあるのだった。


 強いて気になる点を挙げるとすればどうしてソラの生み出した炎だけスカルフェイスにあれだけ効いたのかという点だが、それもデュークから大よその答えは受け取っている。


 即ちそれは天職か種族の違いによるものだろうと。そして今のところはそれ以外に思い浮かばないのは俺も同じである。


(天職のレベルが上がればいずれ答えは出るのかもしれないな)


 と、そこでメロディアが、


「も、もしかしたら何ですけど……」


 その言葉を口にした。


「スカルフェイスが現れたのは私のせいかもしれません」

後でデュークとポロンの話をやる予定です。


それと次ぐらいで話の一区切りを迎えることになると思います。

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