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67 愛する人

「おかえりなさいませ、ダリオス様。セイラ様」


 屋敷に到着すると、玄関で執事長とメイド長、そして屋敷に仕える人間が勢揃いしていた。いつも執事長やメイド長が出迎えてくれるが、ここまで一同が勢揃いしていることは珍しい。一体どうしたのかとセイラが驚いていると、ダリオスは小さく微笑んで口を開いた。


「ただいま。皆のこの様子だと、俺たちのことを気にしているようだな。大丈夫、俺とセイラはこれからも変わらず夫婦だ。セイラはこれからもずっとこの屋敷にいるよ」


 ダリオスの言葉に、その場の一同が一斉にわっ!と歓声を上げた。執事長はダリオスと微笑み合い、メイド長は思わずセイラに抱きつく。


「セイラ様、良かった、本当に良かった。大丈夫だろうと信じてはいたんですよ。それでもセイラ様のことが心配で心配で……でも、本当に良かった」


 メイド長はそう言って、セイラをぎゅうぎゅうと抱きしめる。メイド長のふくよかな体に包まれながら、セイラは驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。こんなに心配してもらえているなんて、本当に嬉しい……!私は変わらずダリオス様の妻です。これからもずっとこの屋敷で生きて行くので、どうぞよろしくお願いします」


 メイド長に解放されたセイラは屋敷の人間たちの前に向いてそう言うと、フワッと微笑んで丁寧にお辞儀をする。その微笑みはまるでその場一体を浄化してしまうほどの優しさと美しさに満ちていて、屋敷に使える人間たちは皆頬を赤らめて嬉しそうに拍手をした。メイド長を含め、何人かは感極まって目に涙を浮かべている。そしてその様子を、ダリオスは嬉しそうに眺めていた。


「さて、これで皆も安心してくれただろう。セイラを思っての出迎えは大変ありがたいが、そろそろ持ち場に戻ってくれ」


 ダリオスの言葉に、皆は二人へお辞儀をしてゾロゾロと持ち場へ歩いて行く。


「夕飯まではまだ時間があるな、俺とセイラは俺の部屋で休むから誰も部屋に入れないように」


 そう言ってダリオスはセイラの手を取って歩き出した。そんな二人を見て執事長とメイド長はおやおやあらあらと嬉しそうに微笑み、セイラは顔を赤くしてダリオスの後に続いた。






 ダリオスの部屋に着き、セイラが部屋の中に入ると、ダリオスはドアを閉じて鍵をかけた。そして、次の瞬間有無を言わさずセイラを抱きしめた。


「ダリオス様!?」


 セイラの問いかけに、ダリオスは抱きしめる力を強くする。しばらくの間ダリオスは無言でセイラを抱きしめていたが、ようやくセイラから体を離してセイラの顔を愛おしそうに見つめた。


(そんな、甘すぎる瞳で見つめられたら溶けてしまいそう)


 ダリオスの甘ったるい瞳にセイラが顔を真っ赤にすると、ダリオスはセイラへ頬を擦りよせ、そのままセイラの顔へ小さなキスをたくさん落としていく。それから、またセイラを抱きしめた。


「セイラが変わらず俺のそばにいることが本当に嬉しい。俺だって大丈夫だって信じていた。それでも、やっぱり心の奥底では不安だったんだろうな。こんなにホッとしているなんて……こうして、二人で屋敷に帰ってくることができて本当に良かった」


(ダリオス様……)


 セイラはダリオスの背中にそっと手を回すと、静かに優しくさすった。


「私も、ダリオス様とこうして一緒に帰ってこれて本当に嬉しいです」


 セイラがそう言うと、ダリオスは体をそっと離してふわりと優しく微笑む。そしてセイラの手を取ってベッドまで連れて行き、二人でベッドサイドへ腰掛けた。


「セイラがあの場で、俺と離れることになるならもう二度と聖女の力を使わないとはっきり言った時、正直驚いたんだ。前に、もしもそんなことがあるなら迷わずそうすると言っていたが、本当に実行してくれるなんて」


 セイラの両手を優しく握りしめ、ダリオスは思いを噛みしめるように言う。


「国王もアルバート殿下も許してくださったからよかったものの、本来聖女があんなことを言うなんて、それこそ本当にあり得ないことだ。それでも、勇気を出してセイラは言ってくれた。今の俺たちがあるのはそのおかげだよ。本当にありがとう」


 ダリオスがそう言って熱い眼差しを向けると、セイラは微笑みながら首を横に振った。


「私だけの力じゃありません。国王様やアルバート殿下が許してくださったからこそです。お二人は私たちのことをずっと見守ってきてくださいました。そんなお二人の許可があったからこそ、グレイヴス公爵たちも認めてくださったんだと思います」


 それに、とセイラはまっすぐにダリオスを見つめて微笑む。


「私が勇気を出せたのは、ダリオス様のおかげです。ダリオス様はいつでもどんな時でも、私のそばにいて励まし支えてくれました。今回だってそうです。それに、私はダリオス様とずっと一緒にいたい、そう思ったからこそ、臆することなく言えたんです。だから、ダリオス様のおかげでもあるんですよ」


 フフッと嬉しそうにそう言うセイラを見ながら、ダリオスは目を見開き頬を赤く染め、小さく微笑むとため息をついた。


「本当にセイラには敵わないな。誰かを愛することなんてあり得ない、国のためにこの命を全うし、一人で生きて行くと決めていた自分が嘘のようだ。こんなにもたった一人の女性に心を奪われて、離れたくないほどに愛してしまったなんて。でも、俺はセイラと出会えて本当に幸せなんだ」


 ダリオスはそう言って、セイラの手の甲にそっとキスを落とす。


「そして、セイラにもそう思ってほしい。セイラにはいつだって幸せを感じていてほしいんだ。聖女としてだけでなく、一人の人間として、幸せだと思って欲しい。そして、そのためなら俺はなんだってする」


 ダリオスの熱く溶けてしまいそうなほどの眼差しがセイラを射抜く。


「ずっとずっと、一緒にいよう、セイラ」


 その言葉に、セイラは両目をキラキラと輝かせ頬を赤らめる。そして、心の底から嬉しいと言わんばかりの笑顔で言った。


「はい!」


 そんなセイラを見てダリオスは嬉しそうに微笑み、セイラの額に自分の額をくっつける。二人は嬉しそうにクスクスと笑うと、ダリオスはそっとセイラの唇に口づけた。


 ダリオスの口づけを受けながら、セイラはポリウスから売られてきて今までのことを思い出す。ポリウスでは双子の妹ルシアの後ろで隠れるように聖女の力を使い、ずっと影として生きてきた。

 レインダムに来て、最初は契約的な結婚でダリオスの腕を治したらまたポリウスへ帰らなければ行けないと思っていた。だが、いつの間にかダリオスと思いが通じ合い、セイラはレインダムの聖女としてなくてはならない存在になっていた。


 父であるポリウスの国王と双子の妹ルシアの失態、そしてレインダムの第一王子であるアレクを巻き込んだルシアの反逆。


 様々なことを乗り越え、セイラたちは沢山の人たちに見守られ、愛されてきたのだ。


(私は本当に幸せ者だわ。自分なんて価値の無い人間で、息を潜めて生きるのが当たり前だと思っていたのに。こうしてダリオス様と出会って、私は私で良いのだと思えるようになれた。そして、ダリオス様に愛すること、愛されることの幸せを教えてもらえた)


 ダリオスから降り注ぐ愛の口づけを全身で感じながら、セイラは固く決意する。


(私は、私としてこのレインダムのために、そして何よりもダリオス様との幸せのために、これからも聖女として精一杯生きていこう。それが、きっと私のこの命の使い道なのだから)


 ダリオスの唇がそっと離れ、ダリオスの金色の瞳がセイラを射止める。その瞳には溢れんばかりの愛と、それに伴う欲がメラメラと熱く燃えていた。


 そっとダリオスはセイラをベッドへ優しく押し倒すと、セイラは顔をさらに赤らめながらも嬉しそうに微笑んだ。その微笑みを見て、ダリオスの体の奥から言いようのない愛しさと熱さが沸き上がってくる。ダリオスはクッと奥歯を噛みしめ、はやる気持ちをなんとか抑えながら、セイラへゆっくりと覆いかぶさった。


 そして、二人の熱く溶けるような長い時間が始まるのだった。




最後までお読みいただきありがとうございました。

二人の恋の行方を楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク、いいね、評価やリアクション等で応援していただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします(*´-`*)

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