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63 聖女の決意

 セイラの言葉を遮るように、感極まったダリオスはセイラの唇へ食らいつく。セイラへの熱い思いが止められず、ダリオスは何度もセイラの唇を貪る。そして、セイラも控えめではあるがそれに応えるように、キスを返すのだった。


 唇が離れ、ダリオスがセイラの顔を見ると、セイラは顔を赤らめ蕩けたような瞳でダリオスを見ている。セイラの扇状的な表情は今までも何度も見ているはずなのに、その度にダリオスの心は乱され、愛が溢れていく。


(こんなにもセイラへの愛が止まらないなんて……出会ったばかりの頃の俺には考えられもしないことだったろうな)


 出会ってすぐの頃、ダリオスはセイラのことをただ腕を治すことができるかもしれない隣国からきたただの聖女としか思っていなかった。腕が治ったらすぐにでも隣国へ返そうと思っていたのだ。だが、セイラのひたむきで純粋な心、どんな時でも自分よりもまず他人を重んじてしまう様子に徐々に惹かれていった。

 何より、聖女として国と国民を思う気持ちの強さに尊敬すら感じるほどだ。その聖女としての気持ちの強さゆえに自分自身を蔑ろにしてしまうことに驚き、もっと自分を大切にしてほしいと思えてしまう。そして、いつの間にかセイラを幸せにするのは自分がいい、自分でなければいけないと思うようになっていたのだ。


(これが愛でないならなんだというのだろう。セイラを思うと愛おしさが溢れ、こんなにも満ち足りた気持ちになる。セイラにはいつだって笑っていてほしい。悲しい思いをして欲しくない。セイラにも、いつだって満ち足りた気持ちで幸せを感じてほしいんだ)


 そっとセイラの頬に手を添え、優しく撫でる。すると、セイラは嬉しそうに瞳を閉じ、その手に頬を擦り寄せた。その様子に、ダリオスの胸は一層高まり、身体中が熱くなっていくのを感じる。


「セイラ、何度でも言う。心の底から愛しているよ」


 ダリオスが精一杯の気持ちを込めてそう言うと、セイラは目を開けてダリオスを見つめ、本当に嬉しそうに、幸せそうに微笑む。


「私も、どうしようもないくらいダリオス様のことを愛しています」


 その言葉を聞いて、ダリオスもまた嬉しそうに微笑み、セイラへ口づける。そして、二人は思いを伝え合うように愛し合った。





 ダリオスとセイラがお互いの気持ちを再確認し合い絆を深め合った日から一週間後。この日、ダリオスとセイラは王城に呼ばれ、大会議室で国王と第二王子のアルバート、有力貴族たちの前にいた。貴族の代表にはグレイヴス公爵もいる。


「急に呼びつけてすまんな、ダリオス、それにセイラよ」

「いえ」

「呼んだのは、グレイヴス公爵があまりに騒ぎ立てるものでの。早々に決着をつけるべきだと思ったのだ」


 細い目をさらに細め、国王がため息交じりで言うと、グレイヴス公爵が不機嫌そうに口を開いた。


「先日、ハロルド卿からいただいた文がどうしても納得いきませんでしてな。お二人は絶対に離婚する気が無い、セイラ様もアルバート殿下と一緒になるつもりはないと。一体どういうおつもりなのかセイラ様にも今一度、きちんとお尋ねしたい」


 グレイヴス公爵はぎろり、と厳しい視線をセイラに向ける。


「前にお伝えした通り、セイラ様とハロルド卿が別れ、アルバート殿下と結婚するのが聖女としてのあるべき姿です。この国のためを思うのであればそうするべきだ。なのに、お二人は頑なにそれを拒否する。セイラ様は聖女として本当にこの国のことを思っておいでなのでしょうか?ここまで否定的な態度をとられると、聖女として国のためを思っているとは到底思えませんな」


 グレイヴスの言葉に、ダリオスの眉が不満げにピクリと動いた。だが、グレイヴスは気にする様子もなく言葉を続ける。


「国王もアルバート殿下もお二人を別れさせるのは忍びないとおっしゃる。だが、貴族の間では聖女セイラ様と次期王位継承者であるアルバート殿下が一緒になるのが当然だという考えです。ハロルド卿もセイラ様も、国王たちに甘えすぎなのではありませんか?国を思うのであれば、自ら率先して離婚しアルバート殿下と一緒になると宣言すべきですぞ」


 その場に集まった有力貴族たちは次々にそうだそうだと頷き、セイラに厳しい視線を向ける。それを見て、今度こそ怒りに満ちたダリオスが発言しそうになった。だが、それを制するようにセイラが静かに口を開く。


「皆さまの考えはごもっともです。私が国王やアルバート殿下に甘えすぎているというのは確かにそうとしか言えないのですが……申し訳なく思うのと同時に、ありがたいとも思っています」


 セイラが国王とアルバートへ申し訳なさそうに言うと、二人は気にするなと言う顔で微笑み、首を振る。それを見てグレイヴスは顔を顰め、フンと視線をそらした。


「国を思う皆さまの気持ちはよくわかります。私も、聖女として国を思う気持ちは同じです。……それでも、私はダリオス様と別れたくはありません。なぜなら私は、ダリオス様を心から愛しているからです」


 セイラの言葉にダリオスは目を大きく見開き頬をほんのりと赤らめる。国王もアルバートも目を合わせて嬉しそうに微笑み、グレイヴスは盛大に顔を顰めた。


「もし、私とダリオス様の仲を無理矢理にでも引き裂こうというおつもりでしたら、私にも考えがあります。……もしそんなことが起こったら、私はもう二度と聖女の祈りを行いません。国のために聖女としての力を二度と発揮しないと宣言します」


 セイラの声が会議室に響き渡ると、一斉にその場がざわつく。貴族たちは慌てたように国王に視線を送るが、国王とアルバートは相変わら嬉しそうに微笑んだままだ。ダリオスは目を大きく見開いてセイラを見つめたが、セイラが遠慮がちに微笑むと、ダリオスはすぐに机の下でセイラの手を握り締め、力強く頷いた。


「なっ……!その発言は、聖女としてあるまじき発言ですぞ!聖女がそんなことを言うなんて!陛下!これは謀反とも言える行為です!たかが聖女が、しかも隣国から来たうえにその国も今やレインダムの領地、それに父親と双子の妹は罪人だ!そんな人間が、こんなことを言って許されるはずがない!」


 グレイヴス公爵が勢いに任せ唾をまき散らしながら言うと、周りの貴族たちも次々にそうだそうだと野次を飛ばし始める。だが、突然ダリオスがドンッ!と机の上を拳で叩いた。かろうじて机が真っ二つにならなかったが、拳の周りにはヒビが入っている。

 突然のことにグレイヴスも貴族たちも呆気にとられていると、ダリオスが鬼の形相でグレイヴスを睨みつける。


「俺の最愛の妻をそのように侮辱するのはやめていただきたい」

「ひっ!」



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