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50 父の思い

「は?何を言って……!?」


 唖然とするアレクを、国王はいつもは閉じているかのような細い瞳を開き、ジッと見つめる。


「よいか、アレクよ。お前がこうすることはすでにわかっておったことだ」

「ああ!?」

「ガイズはお前の味方になったわけではない。味方になったふりをしていたのだ」

「……ああああ!?なんだと!?おい!ガイズ!貴様!俺を裏切ったのか!?」


 両目を大きく見開き青筋を立て怒声を向けるアレクを、ガイズは冷ややかに一瞥する。


「俺は裏切ってなどいない。そもそもお前の話に乗ったわけではない」

「ふざけないで!ポリウスを元に戻したいんでしょう!?こんなことして、良いと思ってるの!?ポリウスはもう二度と元には戻れないわよ!」


 ルシアがわめくと、ガイズはルシアの首元に剣先を近づけた。ルシアはひいっと小さく悲鳴を上げる。


「元に戻る?戻して何になる?戻ったところで、誰も幸せにはならない。俺はポリウスがポリウスであろうとなかろうと、そこに住まう国民が幸せであることが一番だ。そのために剣を奮い、命を捧げている。国王が失脚し表の聖女が堕落した国に未来はない。俺の剣も命も捧げるに値しない」


 ガイズの言葉に、ダリオスは満足そうな顔で小さく口角を上げた。アレクは慌てて国王へ声を上げる。


「オ、オエルドの兵はどうするんです!オエルドの兵はもうこちらへ向かっているんですよ!」

「それならもう解決した」


 ガイズが現れたドアの反対側のドアから、別な人間の声がする。一同がそちらを見ると、そこには第二王子のアルバートがいた。


「なっ、なぜアルバートがここに!?」

「アレクよ、アルバートが不在というのは、お前を騙すための嘘だ。オエルドの件はアルバートが対応済みだ。オエルドがこちらに兵を向かわせることはない」

「な……!」

「兄上がオエルドに手を回していたことはわかっていた。だからオエルドには、兄上が王位に就くことはない、こちらに兵を向かわせても無駄だと言うことを事前に伝えてある。もし兵をあげたとしても、返り討ちにする、ともな。よって、オエルドがレインダムへ兵を上げることはない」


 アルバートが静かにそう言うと、アレクは目を見開いて絶句する。ルシアも、アルバートとアレクを交互に見てワナワナと震えている。国王は、アレクへ憤るような、それでいて憐れむような複雑な瞳を向けていた。


「儂はずっとお前がいつか第一王子として自覚を持ち、王としての器を手に入れるために改心してくれるのではないかと願っていた。最後の最後まで、信じたかったのだ。……だが、その願いはもはや叶わぬことがわかった。お前はもう、この国にとって必要ではない、むしろ害悪だ」

「そんな!父上!」


 アレクが国王の方へ歩き出そうとするのを、バルトが立ちはだかり制する。剣を抜きはしないものの、鞘に手を添えていつでも抜ける体勢をとっている。


「そ、んな……」


 アレクはその場に膝から崩れ落ちた。


(何が、起こっているの……?)


 セイラは唖然としてその場の光景を見つめていた。ガイズは裏切ってなどおらず、むしろアレクを騙していたのだ。そして、それは国王も、第二王子であるアルバートも、ダリオスたちも皆知っていることだった。唯一、セイラだけが何も知らず、ただ呆然としている。


「アルバート殿下!お願いです!私は、アレク殿下に唆されただけなのです。どうか、私を助けてください」


 瞳に涙を目一杯浮かべ、ルシアが突然アルバートへ向けて懇願するように声を上げた。それを見たアレクが額に青筋を立てて怒号を放つ。


「はあ!?何を言っている!?そもそも唆してきたのはお前の方だろうが!俺が王位につけないとわかったら今度はアルバートに媚を売るのか、このアバズレが!ふざけるなよ!」


 アレクの怒号に、ルシアはビクッと体を震わせると、ううう、と両手で顔を覆って泣き出す。そんなルシアの近くへ、アルバートが歩みを進めた。アルバートが近くに来たことに気づいて、ルシアはぱあっと顔を上げる。両目からハラハラと涙を流し、か弱く守りたくなるような繊細な女性そのものに見えるが、アルバートはそんなルシアを感情の籠らない瞳で静かに見下ろしていた。


「元聖女ルシア。あなたは今までもそうやって演技をして人々を巧妙に騙してきたのでしょう。だが、俺もここにいる人間も誰もあなたのその演技には騙されません。むしろ、反吐が出るほどだ」


 アルバートが呆れたようにそう吐き捨てると、ルシアは目を大きく見開いてからワナワナと震え、怒りに満ちた顔になっていく。それから、キッ!とセイラに視線を向けた。


「セイラ!何ぼさっとしているのよ!私を助けなさいよ!あなたと私は双子でしょう?双子の妹が窮地に立たされているのよ、どうして助けようとしないのよ!あなたがそんなだから私はこんな風になってしまったのよ、そもそもは全部あなたのせいよ!責任取りなさいよ!ねえ、早く助けて!」


 ルシアに突然言われて、セイラの肩がビクッと大きく揺れる。


(双子だから、助ける?こうなったのは私のせい?この状況で、どうしてそんなことが言えるの?どこまでルシアは身勝手なの……?)


 セイラは口を開き言葉を放とうとするが呼吸がうまくできなくて声を発することができない。心臓がバクバクと鳴り、全身の血が体内を目まぐるしく流れている。セイラが口をハクハクとさせていると、セイラの肩にそっとダリオスの手が触れた。


「大丈夫だ、セイラ。何も怖がることはない。落ち着いて、深呼吸するんだ」


(ダリオス様……!)


 ダリオスの手のぬくもりがゆっくりとセイラに伝わってくる。セイラは目を瞑るとほうっと小さく息を吐き、それからゆっくりと息を吸い込んだ。


(息が、できる)


 セイラは目を開き、ダリオスを見つめる。ダリオスはセイラの瞳をしっかりと見つめて頷くと、セイラは胸の前で両手をギュッと握り締め、ルシアを見る。それから、すうっと息を吸って、声を出した。



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