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明らかな双月の下、遥かなる地へ  作者: 蝦夷縞りす
壱・はるかと秋良
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弐・賞金稼ぎ 後



 そういえばそのふたり組。ここらでは見ない顔だった。


「さっきの奴ら大陸から来たんだろ」

「数日前に渡って来たって言ってたなぁ」

「収穫はなかったのか?」


 問う秋良の瞳に鋭い光が宿る。それを吉満はものともせず受け止めた。


「お前さんが探している『明るい榛色(はしばみいろ)の髪に青藍の瞳をした、細身長身の男』か? 残念ながらまだなにも」


 吉満は秋良が男を探している理由を知らない。秋良は過去を語らないし、吉満も必要以上に詮索しない。

 ただ、浅からぬ因縁があるのだろう。秋良は鳶色の瞳に鋭い光を宿したまま唇を噛んでいた。


「その辺にいるなら、親戚から情報が入って来そうなんだが。容姿からして、斎一民さいいつのたみじゃあないかもしれんからなぁ」


 吉満のその言葉に、秋良は小さく息をついた。

 秋良や吉満も斎一民である。斎一民は圧倒的に黒か茶系の髪と瞳の者が多い。


 この双月界そうげつかいには六つの種族がそれぞれの国に暮らしている。しかし百二十年ほど前、竜人族りゅうじんぞくが起こした大きな戦により襲撃を受けた斎一民は国を失った。

 流民となり各国に散った斎一民は、流れ着いた国々で土地や物資の救済を受けて村や街をつくり現在に至る。


「他種族の住む区域にいる可能性が高い、ということか」

「それか人里離れたところに隠れ住んでいるのかもな」


 秋良の言葉を受けて、吉満はそうつけ加えた。


「この国もそうだが、斎一民と他種族間の交流はないに等しい。他種族の方は情報が入って来にくいが、まぁ期待せずに待っていてくれ」


 言いながら吉満は卓台の奥から酒瓶を取ってきた。杯に淡い琥珀色の液体を注ぐと秋良の前に置く。


「大陸から美味いぶどう酒が入ってきた。これはおごりだ」


 席には着かず、秋良は立ったまま杯を取って口元に寄せた。白ぶどうの甘味と酸味が程よく絡み合った香りが鼻腔をくすぐる。酒屋が美味いというだけあって上物の酒だ。


「へぇ。よくこんな辺境の島に入ってきたな」


 本来の香り以外に悪意をもって含まれるものの臭いがないか確かめてしまうのは、身に染みついた習慣だった。

 知ってか知らずか、吉満は気にした様子もない。丸眼鏡をずらし組合に出す完了報告書を記入しつつ答える。


「親戚が大陸にいるからな。そういやお前さんも大陸から……っと」


 うっかり口を滑らせた吉満は秋良に睨まれ肩をすくめた。

 書き終えた完了報告書に判を押して箱にしまう。蓋を閉める前に取り出した六金を卓の上に置き、秋良の方へ滑らせた。

 秋良は待ってましたとばかりに杯を置いて金を取り上げ、一枚一枚確かめるように数える。


 吉満はまだ口もつけられていないぶどう酒を見て思わず苦笑する。金を積んでも島では手に入りにくい貴重な酒よりも、秋良には金そのものの方が大事なようだ。


「そういや、運び屋の方は順調かね。あの娘はまだ相棒として頑張っとるのか?」

「相棒じゃない。居候だ」


 吉満の『相棒』の言葉の後ろに被せて秋良が言う。

 数え終えた金を懐にしまい、ようやくぶどう酒を口に含む。酒の濃度は強くなく果汁のように飲みやすい。


「相棒なんて呼べる仕事ぶりじゃあないが、自分の食いぶちくらい稼いでもらうのが筋だろ」

「働かざる者食うべからず、か。まぁそうだなぁ……」

「なんだよ」

「いいや」


 吉満は口髭に隠れる程度の笑みを浮かべた。

 出会ったばかりの秋良は、今以上に人を寄せ付けず誰も信用しないという空気をまとっていた。言うならば人には慣れない獣のような印象を当時の吉満は持ったものだ。


 しかし、ここ最近の秋良は変わった。

 はるかという娘を近くに置くようになってからではないか。吉満はそう思っているが、それは自身の心にだけ留めることにする。秋良が自身への干渉を嫌うことをよくわかっているからだ。

 かわりに別の気になっていることを秋良に告げる。


「おまえさんひとりならともかく、最近砂漠はいい話を聞かないからな」

「砂漠がここ数年で急に広がってるってことか? ついでに妖魔も増えてるしな」


 そして賞金首になるようなならず者も多く大陸から流れてきている。そこは秋良にとっては歓迎すべきことではあるが、次の吉満の言葉が秋良を驚かせた。


暁城(あかつきのしろ)の連中を沙里や琥珀で見かけたっていう話だ」

「暁城の? 昔の戦……『魔竜(まりゅう)の乱』に貢献した珠織人たまおりびとか」


 陽昇国(ひいづるくに)に本来暮らしている種族である珠織人の城は砂漠のずっと北にある。秋良も遠目に見たことがある程度で、城内に関する情報は未だにどこからも得られていない。


「どうせただの噂じゃあないのか。本当に城内にいるのかどうかだって、今となっちゃあ誰も確かめてないんだろ」


 興味なさげに言って、秋良は杯をあおって空にした。そういったいわくのある話には、根も葉もない話が尾ひれをつけてひとり歩きするものだ。

 しかし吉満は少し間をおいて「まぁ、いるにはいるんだろうが」と小さくこぼした。それを聞き逃さず秋良は身を乗り出した。


「なんか知ってるのかよ」

「……わしも実際に見たわけではないからな。そういった意味では『噂』ってとこか」


 にごされた感じを受けないでもなかったが、秋良は追求せず卓を離れた。振り向きはせず吉満に念押しする。


「例の男の情報、忘れんなよ」

「わかってる。運びの仕事もあったら回すよ」


 吉満の言葉を最後まで聞かないうちに秋良は階段へ去る。その背中を見て、吉満は思い出したように付け足した。


琥珀(こはく)の街に行ったら、息子によろしく言っといてくれよ」


 秋良の背中はもう壁の向こうに消えており返事はない。足音もなく、ややしてから木戸が軋み閉じる音だけが吉満の耳に届いた。


2025.12.18 「弐・賞金稼ぎ」をふたつに分割しました

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