報告書
第二十七次暗殺訓練報告
当作戦報告書は、シルファール姫(以下、ターゲットと称する)の訓練用護身魔道具の作動を目的とする、第二十七次暗殺作戦の顛末を記したものである。
作戦概要
これまでの戦績を顧みて、今回の作戦は一次作戦と二次作戦を設定した。一次作戦は複数人の飽和攻撃によるターゲットへの損傷を試みるものだ。
二次作戦は一次作戦の失敗が確定した時点で自動的に移行する。指定の要員が店内に身を潜め、ターゲット及び護衛騎士の気が緩んだ瞬間を狙って、ターゲットに損傷を加えることが目的である。
実行記録
失敗。
護衛騎士及び例の娘(以下、特定指定民間人と称する)の妨害により、一次作戦は終了した。その後二次作戦に移行するも、潜んだ要員は例の娘にあっさりと看破され、無力化された。
なお特記事項として、要員の無力化には腹部への強烈な殴打(以下、腹パンと称する)ではなく、特定指定民間人による複数回の蹴撃が認められた。
特定指定民間人の講評
平素お世話になっております。団長様より依頼されまして、コメントを寄せさせていただくことになりましたルーチェと申します。よろしくお願いいたします。
今回の作戦は、狙いとしてはそう外れたところではなかったのかなと思います。私も人間ですので、気の緩みというものはどうしてもありますので。実際にそこを狙われてしまっていたらひとたまりもなかったでしょう。
ですが、潜んでいた暗殺者さんが息を潜めきれていなかったのが失敗の要因として上げられます。わずかにですが悪意が漏れておりましたので、そこから見つけさせていただきました。
作戦へのコメントは以上となりますが、あと二つコメントさせてください。特定指定民間人ってなんですか。私は特定でも指定でもありません。この点については遺憾の意を表明します。
それと、カウンター下に潜んでいた暗殺者さんへ。今思い直すと、お腹を蹴ったのはやりすぎてしまったように思います。お体の方は大丈夫でしょうか?
総評
特定指定民間人は悪意に対して非常に敏感に反応するため、以後の作戦はその点に留意されたし。
また、当要員に対して聴取を行った結果、「いつもよりよかった。次はもっと強めでもいい」とのコメントを残している。
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第二十九次暗殺訓練報告
当作戦報告書は、シルファール姫(以下、ターゲットと称する)の訓練用護身魔道具の作動を目的とする、第二十九次暗殺作戦の顛末を記したものである。
作戦概要
本作戦はターゲットが駐在している道具屋クローバー(以下、敵拠点と称する)へ隠密侵入し、不意打ちによる一撃を試みるものだ。
拠点内への侵入に際しては隠密用影魔法を使用する。これは影の中での移動を可能にする魔法であり、視覚的な監視をすり抜けることができる。
敵拠点に設定された八ヶ所のエントリーポイントから同時に侵入し、侵入に成功した要員は機を待って暗殺を試みよ。
実行記録
失敗。
例の娘(以下、特定指定民間人と称する)の死角となっているエントリーポイントには、全て魔道具による罠が設置されていた。土による束縛、蔦による捕縛、睡眠による昏倒など、種々の魔道具により六人の作戦要員が無力化された。
また、正面扉には罠が仕掛けられておらず潜入には成功した。だが、何らかの手段により特定指定民間人に補足される。影魔法を無力化されて交戦するも、護衛騎士の二人によりあえなく無力化。腹パンとなった。
特記事項として、住居部分より侵入を試みた要員が別の民間人に遭遇したと報告している。接触直後に当要員は一時的に消失し、王都の西方八百メートルにある平原にて発見された。現在事実関係の確認を急いでいるが、当要員は記憶の混同が激しいために情報の信憑性には一考の余地がある。
特定指定民間人の講評
ご存知でしょうが、侵入口になる箇所には罠を張らせていただいております。不本意ながら延べ二十九度も襲撃を受けておりますので、おおよそ思いつく侵入口には一通り罠があるものとお考えください。というか、二十九度も襲撃しておいて、いまさらこんなのに引っかからないでくださいよ。
さて、本作戦で私以外の民間人を目撃されたそうですが、それは私の祖父かと存じます。祖父は致命的に人嫌いな上に情けも容赦もありませんので、遭遇した際には命の覚悟をしてください。
今回、簡易的な因果魔法(と、祖父は言っておりました。詳細は私も知りませんのでご容赦ください)に済ませたのは、警告とお考えください。
それと、もし暗殺者さんが本来知らないはずの記憶について語り始めたらご一報ください。私の方で適切な治療を施させていただきます。
最後にですが。特定指定民間人はやめてください。
総評
侵入方法及びルートの作成について課題が残る結果となった。
また、記憶の混同が危ぶまれた要員については、その後すぐに回復し職務に復帰した。本人は「別になんともないけど、適切な治療は受けたかった」とのコメントを残している。
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第三十次暗殺訓練報告
当作戦報告書は、シルファール姫(以下、ターゲットと称する)の訓練用護身魔道具の作動を目的とする、第三十次暗殺作戦の顛末を記したものである。
作戦概要
本作戦はターゲットが駐在している道具屋クローバー(以下、敵拠点と称する)へ隠密侵入し、不意打ちによる一撃を試みるものだ。
前回作戦の反省を活かし、今回は要員として各魔法のエキスパートを選定した。エントリーポイントに仕掛けられていると予想される罠を解除し、安全かつ確実に内部へと潜入。その後隙を見て、一撃を与えることを目的とする。
実行記録
失敗。
前回作戦にて確認されたものとは、別種の罠が仕掛けられていた。これに引っかかり、要員の三分の一が無力化された。
前回とは異なる罠が設置されていることに気がついた要員も、罠の種類を同定するまでに三分の一が無力化された。
仕掛けられていた魔道具を発見できた要員が解除を試みるも、非情に精密かつ難解な術式回路を破れずに多くの時間を浪費した。手をこまねいたところを護衛騎士の二名に発見され、あえなく全滅となった。
なお、その後腹パンが執行されるまでの間に、例の娘(以下、大天使と呼称する)による魔道具講習会が開かれた。講習では魔道具の解除方法についての専門的な内容が説かれた。
大天使の講評
仕掛ける罠の種類を変えるのも、罠として使用する魔道具には暗号化を施すのも、基本中の基本だと思っていたのですが……。
なんというか、あなた方が三十回も暗殺に失敗する理由がわかった気がします。騎士団長様は「我が国の暗殺技術は飛躍的に発展している」って言ってましたけど、元が低すぎたってだけじゃないですかね?
今回お教えした内容は本当に基礎的なこと(専門的な内容には触れていませんので、上記の記述に関しては修正を提言いたします)ですので、もしご興味がありましたらもう少し踏み入った内容についてもお教えいたします。
あと、大天使って誰のことですか。怒りますよ。
騎士団長のコメント
>騎士団長様は「我が国の暗殺技術は飛躍的に発展している」って言ってましたけど、元が低すぎたってだけじゃないですかね?
その通りです。
総評
本当にごめんなさい。がんばります。
総評2
大天使による講義内容は、革新的な考察を多く含むものだったので、専門的という記述は間違いではない。
本作戦では我々の魔道具知識の無さが浮き彫りになる結果となった。次回以降の作戦では、大天使より受講した内容を実戦に活かせるように各位復習されたし。




