22話 鞍馬山について
鞍馬山に到着した俺と静久は辺り一帯の建物が全て撤去されて作られている防衛施設の駐車場に車を止める。自衛隊が作ったこの防衛施設には戦車やミサイルとうが設置されている。モンスターが溢れてきた時のために自爆装置が用意されており、爆弾まで設置されている。
鞍馬山とその周辺地域りはダンジョン化したことで構造が変化し、あったはずのロープウェイなどが消滅し、山になっているらしい。まだ、ダンジョンの周辺地域は現在の気候から変化していて、秋になっている。
静久と手を繋ぎ、片にロシアンブルーのセラを乗せる。静久はヴォルフの首輪についたリードを空いた手に持っている。
駐車場から防衛施設に入ると視線が手中してくるが気にしない。中の人は大型の犬など動物を連れていたりする多種多様な人がいるが、流石に静久の身長ぐらいの人はいない。服装としては自衛隊の迷彩服を着ている自衛官の他に一般的な服の人、そしてなぜか白衣に袴といった和服姿をした人が多い。
「先輩、受付があります」
静久の言葉に前をみると、確かに受付があった。それと大きな物々しいゲートが設置されている。基本的には回転式のゲートなのだが、こちら側にも奥側にも分厚い隔壁が天井から降りるように存在している。
「そうだな。まずはそちらからか」
「はい。それにしても、和服の方が多いですね。なぜでしょうか?」
「わからないが、それについても聞いてみようか」
「そうですね。もしかしたら着替えが必要かもしれません」
「和服か……静久なら似合っていそうだ」
「ありがとうございます。でも、動きずらそうです」
「なれればいけるかもしれませんが……でも、ちょっと着てみたいですね」
「よし、皆の分も含めて買っていくか」
「いいお土産になりそうですが、高いんじゃないですか?」
「静久達が可愛くなるためなら構わないさ」
「まったく……先輩のお財布は私と同じなんですよ?」
「あははは」
俺と静久は結婚しているし、お金の管理は一括でしている。静久の方がしっかりとしているし、家事をしてくれているのは彼女なのでその辺りは任せている。といっても、食費や光熱費以外は互いに欲しい物を言い合って、相談して購入している。収入がなかった時から同じ方法だ。といっても、静久は基本的には俺を立ててくれるので、意味がない。例えばエロ本を求めても黙って頷いて買ってくれて、一緒に読んで実践したりする。
逆に静久が求めてくるものを俺が断れば諦めるし、彼女の求めるものは大概、自分の物ではなくて俺の物だったりする。そんな訳で互いに良さそうな物を相手に求めて渡している。静久は昔の日本人の祖先を持っていたせいか、大和撫子のように育てられたせいかもしれない。戦闘能力やサバイバル能力までいるのかは疑問なのだが。
「まあ、先輩が喜んでいただけるのでしたら構いませんが」
「喜ぶよ。可愛い静久が見られるんだからな」
「では、買いましょう。幸い、前と違ってお金は入ってきますから」
「そうだな」
俺と静久は結構なお金が手に入ってきている。作り上げたポーションが売れているからだ。それに傷が回復するポーションは特許を取って製法を公開し、委託することで自衛隊の大元である防衛省、政府と合意している。これらは一般にも販売する。これらが静久の収入源となってくれる。
逆に俺の方はどっぷりと自衛隊と癒着しているといってもいい。こればかりは仕方がない。俺が扱っているのは錬金術で作り上げたダンジョンでも使える兵器なのだから。静久が使っている浮遊型魔導砲台や人工知能を搭載した装甲車だけでも外に出すとやばい奴だ。これらは錬金術を使うことでダンジョンで、誰でも使える道具として改造することができる。運転スキルなどをとらなくてもダンジョン内での移動や、簡単に火力をあげることができる。
偉い人達がいうには、ダンジョン内では魔力を持たない機械や複雑な物は使えなくなるらしい。逆にいえば製作段階から魔力を込めればいい。基本的に製造スキルを持つ人が魔石を素材にして作れば魔力を込められることが判明した。ただ、全てを機械にすることはできない。複雑な物になると消費される魔石や魔力も多く、オーダーメイドをするしかないのが現状だ。そんな訳で、ガンスミスや刀鍛冶といった人が増えて活躍してくれているらしい。まあ、どちらにせよ、俺の収入源はダンジョン内で使える兵器の販売ということになる。
「先輩、どうしましたか?」
「ああ、ちょっと考えごとをしていたんだ」
「考えごとですか?」
「装備の持ち込みってどうなんだろうってな」
「いけるとは思いますが、わかりませんね。聞いてみたほうが早いと思いますよ」
「そうだな。さっさと受付をしよう」
「はい。並ばないといけませんしね」
二人で受付を行っているカウンターにある整理券発見装置から番号の書かれた券を取って席に座る。係りの者は当然のように自衛官が務めている。自衛隊の防衛施設なので問題ないだろう。
ただ、探索者の資格を持つ人のアルバイトを募集していたりもする。条件として襲撃された場合、戦える人に限ると書かれている。やはり、モンスターが溢れ出した時のことを警戒していると思う。最低限、自分の身は守らないと話にならないだろうしな。
俺が貼り紙を見ている間に静久はヴォルフに抱き着いてモフモフしていた。彼女の頭の上にセラが移動してぐで~と垂れ猫となっている。とっても可愛らしく、視線を集めている。俺も手持ち無沙汰なので静久の頭の上のセラを撫でることにする。
少しすると、順番が来たので受付のカウンターの前に立つ。この時、静久はヴォルフに乗って身長をカバーすることにしたようで、ヴォルフの身体に飛び乗った。ヴォルフの身体はかなり頑丈で大きいのでなんの問題もない。
「こちらは受付ですが、お子様を連れてダンジョンへの入場はできません。よろしいですか?」
「静久」
「はい。こちらをどうぞ」
静久が予想していたかのようにポーチから取り出していた民分証明もかねている探索者証を俺の分も含めて提出する。探索者証を受け取るのは訓練所でしっかりと勉強してスキルを得てからでないと貰えない。探索者証には個人ナンバーが登録されており、情報の中には顔写真の他にスキルすら乗せられている。
「アクセス権限がないって表示が……」
「その辺は気にしないでいい。年齢と顔写真を確認してくれればいい」
「そういうわけには……」
「関係者ですから問題ありません。上の人に確認してもかまいません」
「わかりました。少々お待ちください」
俺達の個人情報は結衣やポーション、錬金兵器の関係もあってロックがかけられている。結衣自身がかけたロックなので、かなり強固だ。そのセキュリティを突破してもでてくるのは偽の情報になるので安心だ。これらは要人などに行っているらしいが、結衣には全て筒抜けでもある。
「確認が取れました。ご夫婦で間違いありませんか?」
「「間違いありません」」
「かしこまりました。それでは鞍馬山のダンジョンについてのレクチャーがありますので、教導室へお願いいたします。今からですと、四十分後から開始となります。遅れますと、更に二時間後になりますのでお気を付けください」
時刻表を見せながら説明してくれるので、俺と静久で覗き込みながら説明を聞く。どうやら、三時間に一回、一日四回まで開かれているようだ。
「これからどうしますか?」
「そうだな……」
「お時間があるのでしたら、先に身体測定をなさってはいかがでしょうか?」
「身体測定?」
「嫌なんですが……」
「こちら、鞍馬山では服装が平安時代から鎌倉時代の和服が指定されております。着替えて入っていただくことになりますし、武器の方も同じ時代の物以外は禁止とされています」
和装の指定に武器まで指定するというのはおかしなダンジョンだ。
「それで和服の方が多いのですね」
「はい。こちらはダンジョンにいる天狗達の指定ですので、破ると容赦なく集団で狩られます」
この言い方だと、天狗達と意思疎通ができているのか。つまり、和装の強要と武器の指定は天狗達の思惑なのだろう。
「こちらのダンジョンは源義経が遮那王と名乗っていた幼少期が再現されており、天狗達に稽古をつけてもらえます。義経が使っていたといわれる京八流も教わることができます。ただ、稽古をつけてもらえるといっても、実践稽古がほとんどなので命懸けになります。ですので、自分で限界を見極めないと死ぬことになります」
京八流はたしか、義経が使っていた剣術といわれている奴だったはずだ。教えてもらえるなら、いいかもしれない。敏捷性を生かした剣術だったはずだから、静久ならいけるかもしれない。
「じゃあ、先に和服を選ぶか」
「……身長……伸びていてくれていれば……きっと、たぶん、伸びているはずですよね……胸も育っていれば……」
胸と身長を気にしている静久を俺とヴォルフ、セラは互いに見つめ合う。ヴォルフとセラは知らんとそっぽを向いたので、俺は諦めて静久を抱き上げてお姫様抱っこをして運ぶ。
「先輩?」
「いくぞ」
「待ってくださいっ。まだ心の準備が……」
「俺はどんな静久でも受け入れるから気にするな」
「それって成長していないってことじゃ……」
「大丈夫だ。胸は成長しているかもしれない」
「……馬鹿です、変態です……セクハラです……」
妊娠して子供ができていれば胸は大きくなるはずだ。静久が今、どうなっているかはわからないが、やることはやっているので可能性はある。
受付を終えた俺達はすぐ近くにある部屋の前に移動する。そこは身体測定の場所で、当然の如く男女で別れている。その後、服を選んで着替えるのだから尚更だ。念の為、護衛としてヴォルフを静久につけておく。セラは俺の方だ。ヴォルフは大きいから静久にちょっかいをかけてくる連中を威嚇しやすいという理由からだ。
「ここでお別れですね」
「そうだな。名残惜しいが、また後で。可愛い静久を楽しみにしているよ」
「私も先輩の和服姿を楽しみにしていますね」
「それは期待しないでいてほしいな……」
「私もですよ」
「にゃあ~」
「わふっ」
二人で見つめ合っているとセラとヴォルフにせかされた。ヴォルフは静久の服を口に咥えて引っ張っていき、俺はセラに肉球でペチペチと叩かれた。俺達は慌てて二人でそれぞれの部屋に入る。
中に入ると広めの部屋に係りの男性が待っていた。和服が飾られていたり、並べられていることからここで選んで着替えるようだ。奥の方に着替えるための場所がみえる。
「こちらにどうぞ。まずは測定からになります」
呼ばれた場所に移動し、身長や体重、胸囲などを計られてから作り置きされている服を着て試していく。源平合戦辺りの時代劇でみるような恰好になり、軽く動いて直し、大きく動いて直す。数回試してから服を脱ぐ。他にも侍烏帽子もあったが、こちらはつけてもつけなくてもいいらしい。ただ、上の鞍馬寺の中では着用するように言われている。
「レンタルか買取か、一応選べますが……」
「それって破いたりしたら買取ですよね?」
「もちろんそうです。ですので、結局は買うことになる人が大概ですね」
「複数の購入で安くなったりはしますか?」
「割引はさせていただきます」
予備も数着いるだろうが、とりあえず俺は一着でいい。静久は二着で、里奈、怜奈、結衣、なずなちゃんに一着ずつ買っていこう。全部で七着ぐらいは必要だな。いや、念の為に十着でいいか。俺も一つ予備を持っておこう。
「全部で十着欲しい」
「かしこまりました」
「ただ、ほとんど子供用のだが、あるか?」
「子供用ですか? さすがにないと思います。オーダーメイドになりますね」
「わかりました。とりあえず男性用に二着をお願いします。女性用の方に妻がいますので」
「では会計は後にしましょう。色の希望はありますか?」
「シンプルなのでお願いします」
「白と青にしておきましょうか」
シンプルな物を選んでもらい、それに着替えさせてもらう。着替えが終わり、予備の服も受け取って外にでる。セラを撫でながら少し待っていると、静久もでてきた。彼女の服装は薄いオレンジ色の生地に雪の結晶が描かれた着物に花が描かれたピンクの帯とそれを結んでいる赤色の帯紐。全体的に大きいのか、手首の辺りまで袖がある。両脇は紐で縛られている。
「似合っているよ。まるで妖精のようだ」
「ありがとうございます。でも、これサイズがあってないんですよね……」
「もしかして、袴じゃないのはそういう理由か?」
「はい。着物でしたら裾上げがまだ簡単らしいのでしてもらいました。そのせいで着物としての価値は落ちるそうですが、そもそも使い捨てる可能性が高いのでかまいませんよね」
「そうだな。そもそも着物は戦闘には不向きだしな」
「動きづらいですし。」
といっても、丈はかなり短くされていてスリットも入れられているので動きやすさはかなり緩和されている。問題は草履とかだろうな。
「ああ、それと静久のも合わせて八着頼んでおいてくれ。袴の方も用意してもらうとなると、十一着くらいか」
「これ一着十万くらいなのですが……」
「丈夫に作られているから仕方がないさ。それにここに武器代も入ってくるんだよな……」
「お金が飛んでいきますね。稼がないといけません。結衣の収入をあてにするのも嫌ですし」
「なら、頑張るか」
「はい。それにそろそろ時間ですからね」
静久が俺の腕に抱き着いて小さな手で俺の手を握ってくる。顔を赤らめながら先導してくれるので、そのまま教導室にいくことにする。
教導室にはすでに何人かいるようだ。男性と女性合わせて二十六人もいる。この教導室は椅子だけでなく机も用意されており、その上に冊子が置かれている。おそらく、教導の内容が書かれているのだろう。これは俺の訓練所でも行っているのでわかる。一応、俺が運営している扱いなので知っておかないといけないことが色々とある。
「先輩、どこに座りますか?」
「静久は前の方がいいだろう」
「そうですね……でも、埋まってしまっています。それに空いていたとしても、ヴォルフ達もいますし、おのずと席は決まってきます」
「端っこじゃないと無理か。そうなると後ろの席しか空いていないな。仕方ない、最終手段を使おう」
探索者は命懸けで一攫千金を狙う連中がほとんどなので、彼等は命を賭けるために前で情報を聞き逃さないようにしている人がほとんどだ。例外はスキルを成長させるためや、潜ること自体が目的の人達だろう。前者は民間企業の人達や自衛官達だ。後者は人気取りのために政治家や芸能人が入ったりもするらしい。
「ほら、静久」
「はっ、はい。これ、恥ずかしいです……」
後ろの席に座った俺は静久を膝の上に乗せて、通路側にヴォルフを待機させる。セラは静久の膝の上だ。これで身長が低い静久でもしっかりと前がみえる。
「我慢してもらうしかないな」
「うぅ……これは無理です。隣で正座します」
「そっちの方がいいか」
「はい。足が痺れるかもしれませんが、そちらの方がまだましです」
流石に恥ずかしかったようで、俺の隣で正座をすることにしたようだ。それでも小さいので見えにくいかもしれないが、膝たちをすれば大丈夫だろう。危ないかもしれないので、俺の腕を掴ませておけばいい。ただ、セラの位置だけは移動してもらう。こんなことをしていると、
「これから教導を行う。最後にテストを行うので、それに合格しないと許可は出せない。諸君らも知っての通り、ダンジョンはそれぞれが独自の法則が決められている。これに逆らえば手痛いしっぺ返しが起きて、ほぼ確実に死ぬことになる。我々は弱者であり、ここまで発展することができたのは物理法則を利用してきたからだということを忘れてはいけない。そう、法則は利用して我々人類の力とするのだ。以上を踏まえて教導に挑むように。では、冊子を開いてくれ」
「どうぞ」
「ありがとう」
静久が開いてくれたので、一緒に内容を確認する。一応、二冊はあるので問題ないのだが、世話を焼くのが好きらしいので任せる。
「書かれている通り、このダンジョンは源義経が遮那王としていた時代を再現しており、装備や服もその時代の物しか認められていない。さらに実在の天狗も存在している。彼等とのコンタクトは取れており、修練の場として提供してくれている。ただし、修練といってもあくまでも天狗レベルの修練であり、実践稽古だ。つまり、基本的には我々人類には荷が重い。これは文明が発展した弊害で、人類自体の身体能力が低下したことも原因の一つだと思われる。しかし、スキルを活かすことでどうにかできることが判明している」
スキルがなければ対応できないレベルということか。俺と静久でも大丈夫か気になるところだ。
「スキルはそれぞれ訓練所で覚えてきているだろうから、割愛する。多種多様なため、試行錯誤してほしいからだ。さて、ダンジョンに話を戻す。ダンジョンでは使えるのは受付で言われた通り、服は和服で武器は太刀、薙刀、和弓、短刀などがある。こちらも販売しているので購入していくといい」
「刀とか、少し楽しみですね」
「そうだな。俺も接近戦の勉強をしないといけない」
「私も遠距離攻撃の勉強をしたいので、射撃訓練もしようと思います」
静久も浮遊砲台を使うから、狙撃など遠距離攻撃を覚えた方がいい。いくら思念操作ができ、ビーム兵器とはい狙撃技術などの経験は役に立つと思う。重力の代わりに光の屈折とかがあるだろうけど、勘が養われればそれだけで修正が楽になるだろう。
「第一階層から第二階層までは登山だ。装備を背負って鞍馬山を登ってもらう。ただし、ダンジョンなだけあって動物型のモンスターが襲い掛かってくる。それらを一定数以上、仕留めて二階層の最奥にある鞍馬寺に収めれば中に入れてもらえる。そこからはもう天狗の領域だと思うように」
「それは天狗達に支配されているということですか?」
「そうだ。鞍馬山はダンジョンになると同時に全てが作り変えられ、中に居た人はモンスターの餌食になるか、天狗達に従うことで生き残った。その後は交渉して鞍馬寺を共同地域とし、その上は天狗達の領域となった。交渉が成功したのは鞍馬弘教では、鞍馬寺に祀られる尊天の一尊である大天狗、鞍馬山魔王大僧正が、鞍馬山僧正坊を配下に置くとするとされているからだ。信徒を助けたといった感じだ」
質問に教導官が答えてくれた。確かに自分達のトップを信仰する者達なら、確かに助ける価値はあるだろう。こういうダンジョンもあるんだな。
「話を戻すが、三層からは天狗に修練をつけてもらえる。この辺りはまだ入門だから、課題をこなしていく感じで技術を身に着けることになる。例えば山の中を彷徨って、指定された的を撃ち抜けとかいう奴だな。普通に遭難するし、目標を探してダンジョンの中を駆けまわることになる。それもモンスターに襲撃されながらだ。四層からは天狗との戦いだ。これで死ぬ者も多い。だいたい、山の中を余裕で駆け回って一日で課題を数個こなせるのが目安だな。五層からは三層と同じ課題形式だが、天狗が容赦なく襲ってくるようになる。六層は頂上で大天狗との戦いだ。今までで攻略した人は自衛官の一人だけだ。ちなみに大天狗は時速数百キロで移動してくるらしい」
「普通に無理ですね」
「だな」
どう考えてもそんなとんでもバトル、勝てるはずがない。知っている人がおそらくそうだろうと思うが、少なくとも目的地は五層だ。六層に用はない。だが、聞けば聞くほど五層に到着するのですから、かなり難しそうだ。それでもアンナさんや里奈を助けるためにも万能薬は欲しい。静久と頑張っていくしかないだろう。
「ところで先輩。私、話を聞いてすごく不安なことがあるのですが……」
「なんだ?」
「先輩の腕とかって大丈夫ですか? 機械ですよね」
「……聞いてみようか」
「ですね」
テストの前に聞いてみることにする。流石に入る前にアウトだったら、笑えない。いけるのなら、助かるのだが、どうだろうか?
実際に聞いてみると、天狗の人達に確認をとってくれるとのことだった。確認が取れるまでは絶対に山に入らないように言われてしまった。まあ、仕方がないので予定を変更して静久とお茶でもして待っていよう。せっかく京都にきたのだから。




